第44話 討伐報告1

 夕方になってようやく茜いろのダンジョンから出ると、冒険者の一団が入り口付近に集まっていた。


「おい、あんたら無事だったのか!?」


 声の方を向くとダンジョン内で会った冒険者だった。


「ああ・・・それより何の集まりだ?」


「ああ、この集まりは緊急依頼で集められた冒険者達さ」


「なるほど、だったら此処の責任者は?」


「それなら冒険者ギルドのシュパーレさんだな、ほら、彼処にいる男がそうだ」


 冒険者が指差す方を見ると、四十位で短く刈り上げた赤い髪の頭にギルド制服で筋肉質のがたいの男が何やら指示を出していた。


 トワ達はシュパーレと思われる人物に近付いて声を掛ける。


「あなたがシュパーレさん?」


「そうだが君達は?」


「冒険者の者です」


「見たところペイナイトの様だな、今回の緊急依頼はタンザナイト以上が対象だから君達は帰りなさい」


「いえ、討伐報告を」


「すまんな、今ギルドは人が出払っているから明日にしてくれ」


「分かりました、明日に報告します」


「ああ、頼む」


 トワは引き返してチーチェ達と合流する。


「トワさん、どうでした?」


「報告は明日にしてくれと言われた、ギルドも今は出払って人がいないそうだ」


「そう、なら今日は宿に帰って休みましょう、リリアちゃんも眠たそうだしね」


 リリアはコロラの手を握りながらも頭がカクンカクンして今にも寝そうだった。


 トワはリリアの前で背を向けてしゃがむ。


「ほら、リリア掴まれ」


「ウ~ン?」


 トワの背中に体を預けると、背から直ぐに寝息が聞こえてきた、それも仕様が無い、五階層まで片道25㎞戦闘有りの路を歩けば、リリアの年齢には少し厳しいかったと思う。


「リリアちゃん疲れてたんだね」


「チーチェとコロラは大丈夫か?」


「はい、疲れましたけど宿までは歩けます」


「私はちょっと辛いからトワくん腕を貸して」


 コロラはリリアを背負っている腕にしがみ付いてきた。


「こ、コロラ姉さん」


「だって~大丈夫か聞かれたから腕を借りてるだけよ」


 チーチェがコロラに慌てて言い寄るが、暖簾に腕押しが如く躱される。


 リリアをベットに寝かせるために歩きだすと、チーチェはコロラが掴んだ腕の反対側の外套の袖を握って付いてくる。


 宿まで変な視線を浴びた、確かに外套を着た人物が背中に少女を背負い、左右に女性が付いてくるなら仕様がないと宿まで歩く。



 宿に着くと部屋のカギを貰いリリアをベットに寝かせ、宿屋に有る風呂に入る。


 宿の風呂は別途料金が掛り一人大銅貨五枚の料金で入ることが出来る、因みに混浴ではなく男湯と女湯にきちんと別れている。


 部屋に戻るとアルタとナーガルが死んだような目でいた、風呂に入るか誘ったが動きたくないと断られ、食事はスープを持ってきてもらうように宿の女将にお願いする。


 風呂に入ると誰もいなかった、例の緊急依頼で皆、茜いろのダンジョンに行っているのだろう、宿の中もこの時間帯にしては静かなものだった。


「ふ~」


 トワの世界の時代でも入浴の概念はあるが、嗜好の分類になっている、トワの世界では風呂はフラッシュボックスと呼ばれる部屋に服のまま入り機械が汚れだけを分解するのが、トワの世界での風呂なのだが、教養として風呂の入り方は学ぶが、まさか役に立つとは思っていなかったトワだった。


 風呂から上がり食堂で飲み物を注文して、喉の乾きを癒やしていると、チーチェとコロラはリリアを連れて食堂来た。


 三人共に軽装に着替えて、ワンピースやコットンシャツとパンツ等になっており、微かに髪が濡れていて髪から石鹸の匂いがした。


「リリアも起こして風呂に入ったのか?」


「はい、この時間に寝ると夜に寝れなくなると思って、あの後少ししたら起こしてお風呂に入りました、お風呂でコロラ姉さんと会って一緒に来ました」


 夕飯を注文すると、シチューとパンにオムレツが出てきた、シチューは野菜が大き目に切ってあり、パンはライ麦パンでそのまま食べるかシチューに浸して食べる、オムレツはプレーンオムレツで中はとろとろの半熟で特製のソースを掛けて食べた。


 食事が終わるとチーチェ達はトワに質問する、内容はハウンドウルフ関する事なのはダンジョンで帰ったら話と約束したからで。


「トワくん、ハウンドウルフを単独撃破って、トワくん何者なの?」


「何者か、それに関しては旅人としか答えられないな」


「師匠、師匠はどこであの戦い方を、師匠のナイフって魔具ですか?」


「実戦と訓練しだいだな、自分のナイフは魔具では無いな」


「トワさん、もうあんな無茶はしないでください」


「冒険者に無茶は付き物だろ」


「トワくん、何で今日ギルドの職員に報告しなかったの?」


「しても良かったが、あしらわれて明日に報告しろと言われたから従っていただけだよ、それに宿が静でいいだろ」


「ぷ、あはは、確かにうん、静で寝やすいね、うん納得」


「師匠、師匠の素顔がチーチェさんが格好いいと言ってましたが本当ですか?」


「あ、それは私も気になる」


「ちょ、ちょっとリリアちゃん‼」


 チーチェはリリアの肩を顔を赤くして揺らしている。


「自分じゃ分からないし最近似た奴に間違われて余りフードを外さない様にしているのだが」


「ま、いいからいいから、フード外してみてよ」


「見世物じゃないのだが、少しだけだよ」


 トワはフードを下ろすとコロラとリリアは食い入る様に見る、少しだけなので直ぐにフードを被る。


「期待外れだったかい?」


「いや、私好みだったよ」


 コロラはトワに撓垂れるとチーチェに引き剥がされる。


「コロラ姉さんなにしてんですか!!」


「いや、愛情表現?」


「何で疑問系ですか!!」


「・・・・・・」


「あれ、リリアちゃん、も~しも~し」


 リリアの目の前でチーチェが手を振る。


「は、はい、え、どうしました、チーチェお姉ちゃん」


「何で固まってたの?」


「いえ、師匠が・・・・良くて」


「うん、聞こえなかったんだけと?」


「な、何でもありません、し、師匠お休みなさい」


 リリアが逃げ出すように食堂から出ていく。


「あ、リリアちゃん、トワさん、コロラ姉さんお休みなさい」


 チーチェもリリアの後を追って食堂を出ていく。


「ちょっとからかい過ぎてかな、さて、私も寝るね、おやすみトワくん」


 コロラも部屋に戻ったので、コーヒーを頼んでゆっくりしてから眠ろうと思うトワだった。

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