エピソード リトル・ガール

 私の世界はこの部屋が全てでした、生まれながら身体が弱く動くことも儘ならない故に自分で部屋から出ることさえ出来ない。


 私の家族は病を治す為にありとあらゆる医師、薬を私に試してくれましたが効果が出来ない事を知ると落胆の表情が隠せない度に私は居た堪れない気持ちに襲われてしまう。


 私はそんな気持ちを紛らわす様に本を読む、私の特にお気に入りの本で勇者様が囚われのお姫様を救いだして幸せに暮らす物語、この夢物語の様に私にも何時か勇者様がこの鳥籠から救いだしてくれるのを夢に見てしまう。



 そんなある日、何時ものようにお姉様達が私の部屋を訪れた、ステラお姉様とマーニャお姉様の他に外套を纏っている人物が入室してきた、外套のために素顔は見えないが、お姉様達が連れてくるこう言った風貌の人物は薬師か奇跡師なのですが一応訊ねる事にする。


「マーニャお姉さま、ステラお姉さまようこそ、そちらの方は奇跡師様ですか?」


 自分の表情が暗くなるのが分かる、奇跡師や薬師は効かない薬や怪しげな術・儀式をするが身体が治る兆しは一向に表れない、最初の頃は治るかもしれないという気持ちになるが、その度に打ち拉がれ最近は腫れ物を触るように扱われた、不幸中の幸いなのは親兄弟の態度が変わらなかったおかげで、生にしがみついている。


 マーニャお姉様が外套の人物を紹介しようとベッドに近づくように合図している。


「旅人のトワ様です、この子が末の妹エリザです」


「御初に御目に掛かります、エリザ・ラン・アーイルです以後よろしくお願いいたしますトワ様」


 奇跡師か薬師だと思っていたので、不思議に思った、わざわざお姉様達が旅人を私に紹介したのが分からないが、当たり障りの無い挨拶を交わした、トワ様は私の前まで来たら立ち尽くしている。


 声を掛けようとした時、トワ様は懐から金属製の箱を取り出したのを見てマーニャお姉様が慌てて制止させようとする。


「トワ様一体何をしようとしているのですか!?」


「心配しなくてもいいですよマリア様、エリザ様は元気になりたいです?」


 私はいきなり知らない男性が元気になりたいかと聞いてくる、私は一瞬怖くなったが何時もの事だったので諦める。

 例え目の前の男性が何をしようと元気になれるはずが無い何時もの事だと思っているのだけど、私は目の前にいる男性に対して何故か不信感を感じ無い、それどころか信じてもいいと思ってしまっている私は返事する。


「はい」


 その一言を聞いたトワと呼ばれている男性はフードを被っており口元しか見えないが優しく微笑んでくれた、私はそれを見て胸が熱くなるが私は始めて感じる気持ちに戸惑てしまう。


 トワ様は金属製の箱からカプセルを取り出してエリザに告げる。


「これをお飲みください」


「これは?」


「元気になれる薬ですよ」


「トワくん、大丈夫なの?」


「自分を信じてください」


 トワ様が差し出した薬は見た事の無い形状をしていた、液体や丸薬とは違い半透明で柔らかそうな形状なので、私はこれが薬?と思ってしまい、トワ様が気休めのために出してくれたのだと思う。


「大丈夫です、マーニャお姉さま、ステラお姉さま、私はトワ様を信じます」


 私はトワ様から薬を受け取り飲み込む。


「すぐに眠くなりますが安心して眠ってください」


 その言葉を聞いて、これは睡眠薬なのかと考えたが猛烈な睡魔に襲われて起きていられなくなり瞼が重くなってきた。


 私が眠ろうとした時にトワ様がフードを下ろす、私は重くなった瞼でトワ様を見て驚いた、目を開こうとするが瞼が重く眠い。


「レイお兄様」


 トワ様の素顔は正に今は亡きレイ兄さまだったが考えた纏まらずに霧の中を漂っている気持ちになるけど、眠り落ちる中でトワ様とお姉様達の声が聴こえてきて安心した。



 どのくらい眠っていたのだろう?部屋の暗くなり窓から月明かりが差し込んでいる。

 体を起こすと体調が良くてベッドから起き上がって抜け出してみる、こんなにも体調が良いのは生まれて始めてかもしれない、夜も更けて妖精達が遊ぶ時間帯なのか時折見廻りの衛兵の足音が聞こえる位で皆寝静まっている。

 日中の騒がしさ嘘のような静けさの廊下を歩くと世界に一人になった気になった途端に体から力が抜ける、倒れそうになるので力を入れても入らない、地面にぶつかると思った瞬間に誰かに抱えられた。


「大丈夫かい、エリザ様」


 顔を上げると私の知っている顔が近くにあり、私は顔が熱くなるが分かるので伏し目がちになる。


「寝たきりだったようだから体力が落ちてるよ、少しずつ体を動かして体力を付けるように」


 私は夢や物語で憧れていたお姫様だっこをされている、寝室までの道のりで私は顔から火が出ていると思うくらい顔が熱くなっているのが自分でも分かり、頭のなかでは色々ぐちゃぐちゃになって思考が纏まらず終始無言になってしまい、寝室のベッドに寝かされた。


「おやすみ、エリザ姫」


 部屋から出て行こうとしている彼の服をいつの間にか掴んでいた。


 こんがらがる頭でどうにか伝える。


「私が眠るまで手を繋いでいてもらえませんか?」


 私は懇願すると微笑みながら手を繋いでくれた、私は暖かい気持ちに包まれていると感じながら私は思た、これは夢なのだと、でなければ私の夢が叶うわけがないそう思いながら手に伝わる暖かな体温を感じながら眠りに落ちる。


 朝になり目を覚ますと夜の事は夢うつつだったと思っていたら声を掛けられた。


「おはよう、お姫様」


 私はびっくりする、あれは夢だったと思っていたのだけど、え、あれは夢じゃない、何やら周りが騒がしいがそれどころではない。


「あれは夢じゃなかった、あれは夢じゃなかった、え、じゃあ異性の方にお姫様だっこされた、え、あれ」


 じゃあ、お姫様だっこも夜通し手を握って貰ったのも、え、考えれば考えるほど穴があれば入りたくなる気持ちになる、とりあえず落ち着こう。


 落ち着いたら何故かトワ様がお姉様達にお説教されていた?


 話を聞くとトワ様が私の部屋にずっといたのが問題らしい、何ででしょう?


「と言う訳なんです」


 トワ様が何で私の部屋に居たのかを説明するとお姉様達はトワ様に謝り続けている。


「本当に申し訳ございません」


「いや、もういいよ」


「あ、あの~、トワ様」


 私は勇気を持って聞いてみる。


「どうかなされましたか、エリザ様」


 微笑みながら聞いてくれる。


「トワ様、敬語はお辞めください」

「そうですわね」

「そうだよ」


 私や、マーニャお姉様、ステラお姉様は敬語を辞めて欲しいとお願いする。


「分かりました」


「トワ様」


「ああ、分かったよ」


 敬語ではなくなったので、もう一つお願いしてみる。


「他にも私の事はエリーとお呼びください、その代わりトワ様をトワ兄様とお呼びしてもいいですか?」


「構わないがお兄様って柄じゃ・・・分かったよエリー」


 私は断られると思ったら泣きそうになるとトワ様はちょっと困り顔になりながら折れてくれたらお姉様二人も参加してくる。


「私はマリーもしくはマーニャでオススメはマリーです」


「僕はステラって呼んでね」


「分かったよ、マリー、ステラ」


「トワ兄様、私は本当に病気が治ったのですか?」


「ああ、夜にも言ったが病は治ったが体力が落ちてるいるので、軽い運動から慣らせば走る事も出来るよ」


「まあ、多少術後観察と経過観察を兼ねて暫く王都を活動拠点にするから何かあれば呼べばいい」


 トワお兄様の言葉を聞いて私達は嬉しそうな顔をする。


「とりあえず、街で拠点になる宿を探さないと」


「何言ってんだよトワくん、そんなのお城にすれば良いじゃない」 


 とお姉様達がトワ兄様を説得してくれたおかげで、しばらくの間、トワ兄様はお城に居てくれる事になった。


 昼下がりにトワ兄様が私の部屋を訪れた、私の体の異常の有無を確認してリハビリのために城内を一緒に歩いてくれる。


 少しでも長い間歩ける様に私はちょっと遠目の場所を指定してみる。


「トワ兄様、庭園まで行きたいのですかよろしいですか?」


「エリー次第だな、庭園まで体力が持てばいいよ」


「頑張りますトワ兄様」


 私は廊下を歩くと巡回している衛兵達に声を掛けながら歩く、でも庭園まで半分位まで行くと身体が重くなってきたけど、もうしばらくトワ兄様と歩いていたいとな。


 私はトワ兄様に急に抱き抱えられてと固まった。


「ふぇ?」


「エリー今日はここまでだな、部屋に帰るよ」


「ふぁい」


 私は気の抜けた声で返事してしまう、トワ兄様はずるい私の心の準備が出来ていないのにこういう事を平気な顔でしてくる、そしてトワ兄様の真横にあると考えると固まってしまう。


「トワ様、お帰りなさいませ」


 トワ兄様はメイドのキティさんと何か会話をしているが内容は頭に入って来ない。


 キティさんはお辞儀をして立ち去って行く、トワ兄様は私の部屋に着くと私を優しくベッドに寝かせて声を掛けてきた。


「エリー、おやすみ」


「トワ兄様、おやすみなさいませ」


 身体がふわふわしている、トワ兄様は去り際に頭を撫でてくれた手は男の人なのに柔らかく大きく、ずっと撫でていてと思う。



***


 今日は友人のアリアちゃんと久しぶりにお泊まり会なので少し興奮している。


 今は庭園でアリアちゃんを待っていると、ステラお姉様が走って来る、何やら様子が変だったので聞いてみる。


「ステラお姉様、どうかなされました?」


「事情聴取するよ」


「?・・・ステラお姉様、主語が抜けています、誰を何故に事情聴取するのです?」


 ステラお姉様は用意してあったお茶を飲んで一息つくと話始めた。


「トワくんとマーニャお姉様が昨晩何か有ったみたいなんだ」


 ステラお姉様は興奮気味で話しトワくんを捕まえてくると走り出して行くと、入れ違いで入って来たメイドさんがアリアちゃんが到着した言うので、アリアちゃん達の分のお茶を用意してもらう。


 少ししてからアリアちゃんが庭園に顔を出したので、私は笑顔でお迎えする。


「ようこそおいでくださりました」

「本日はお招きありがとうございます」


「「ぷ、ふふふ、あはは」」


 私とアリアちゃんは形式張った挨拶をしてみるが、似合わないとお互い吹き出してしまう。


「アリアちゃん、久しぶり元気だったですか?後そちらの方は?」


「うん、元気だったよ、サクラお姉ちゃんだよ、護衛で付き添って貰ったのも」


「それが私の仕事ですから」


「アリアちゃんとサクラさんどうぞ座ってください、今お茶を用意してもらっていますので」


 サクラさんは遠慮をしようとしたが、アリアちゃん強引に座らせようとしてしぶしぶ座る。


 お茶を飲んでいるとステラお姉様がトワ兄様を引っ張って連れて来た。


「はい、トワくんはここに座ってお茶会をするから」


「ああ」


「おはようございます、お兄ちゃん」


「またお会いできて嬉しいですトワ兄様」


「トワおはよう」


「皆どうしたんだ?」


「今日はエリーちゃんの所にお泊まりなのです」


 アリアちゃんと私がねぇ~と同意し合う。


「エリーはアリアナと知り合いだったのか」


 トワ兄様の言葉を聞いたアリアちゃんはトワ兄様の服を引っ張る。


「エリーちゃん愛称で呼んでるのお兄ちゃん、私は?」


「お、おう、じゃー・・・アリーシャでいいか?」


 アリアちゃんは愛称で呼んで貰いながら頭を撫でられて嬉しそうにするので、私も撫でてくださいとお願いする、さっき胸が痛くなったが病では感じなかった感じで、今頭を撫でられてる収まったけど、別のこの気持ちが渦巻く、これは悲しいこと?これは嬉しいこと?始めての気持ちが私の小さな身体には収まらない感覚の気持ちになる。


 トワ兄様が手を離したので、先程のトワ兄様の知り合いに関しての質問に答える。


「アリアちゃんとはずっと前から友達なんですよ」


 サクラさんはお茶を飲み干すしてトワ兄様と会話を交わしてからお辞儀して帰って行った。


「さあ、本題に入ろうかな」


 ステラお姉様は何かしらの危険を感じたのか席を立とうとするトワ兄様の後ろからトワ兄様の肩に手を置いて話す。


「え~と、本題ってなんだ?」


「いやね、今日の朝飯の時にマーニャ姉さんがボーとしているかと思えば急に顔を赤くして何を呟きの繰り返しで、何なのかな~とマーニャ姉さんの部屋に行ったらさ、何故かトワくんの外套がマーニャ姉さんの部屋に有って、マーニャ姉さんが外套の前で溜息吐いたり、顔を赤くしたりしているのはトワくん‼マーニャ姉さんに何したの!?」


「いや、昨日の夜にバルコニーで寒そうにしていたから外套を貸したよ」


 トワ兄様は昨晩、城内を散歩していたらバルコニーに居たマーニャお姉様に会って、寒そうにしていたから外套を渡して会話をしたと言う、いいな~、星空の下で語り合いは私のロマンチックシチュエーションで上位にランクインしている。


「マーニャ姉さんに会いに行こう」


 アリアちゃんと顔を会わせて「おー」と言って席を立ちマーニャお姉様の部屋に向かう。


 マーニャお姉様の部屋に着くとステラお姉様が部屋をノックする、マーニャお姉様が扉を開けて顔を出すとトワ兄様を見るなり部屋に戻った。


「ああ、おい」


「うわー、明らかにトワくん避けられてるね、よし、トワくんは部屋の前で待機、行くよアリアちゃん、エリー」


 ステラお姉様が突撃と言うので私たち3人は部屋に入って行くと、マーニャお姉様がベッドの枕に顔を埋めている。


「マーニャ姉さん、なにしてんの?」


「ステラ~、私もうお嫁に行けないよ」


 マーニャお姉様は顔を真っ赤にしてブンブンと頭を振るう。


「いやいや、マーニャ姉さん男の人とバルコニーで会話をしただけでしょ?」


 マーニャお姉様は深呼吸をして昨晩の話しする、トワ兄様が言っていなかった、トワ兄様の胸で泣いた話を聞くと胸がチクリと痛むけど今はマーニャお姉様を落ち着かせよう。


 どうにかこうにかマーニャお姉様を落ち着かせて、ステラお姉様がトワ兄様を呼びに行く。


 トワ兄様が部屋に入る、あれ?部屋に入る前は眼鏡を着けていなかったのだけど?まあ、トワ兄様に似合っているので気にしないでおく。

 マーニャお姉様は外套を手に持って待っていた。


「あの、昨日の夜はありがとうございました、これ暖かかったです」


 マーニャお姉様から外套を受け取ったトワ兄様は直ぐに羽織ると爆弾発言をする。


「マリーの匂いがするな」


「と、とと、トワ様!?」


 マーニャは茹で上がった様な顔になり倒れそうになるのをトワ兄様はすかさず抱き止めると、マーニャお姉様は口をあわあわさせて気絶してしまった。


「あちゃー、ダメだよトワくん、マーニャ姉さんは男の人に対して免疫が無いから、例外で父さまとオルにぃとレイにぃだけだから、いくらレイにぃに似てて普通接していても、それは刺激が強すぎだよ」


 仕方がないとマーニャお姉様を抱き抱えてベッドに寝かす為に抱えて行く。


 私とアリアちゃんはトワ兄様にお仕置きとなんだか分からない気持ちになったのでポコポコ叩くが、痛くなさそうな顔で平然とマーニャお姉様をベッドに寝かせる。

 それから私の部屋に戻り昼食が準備してもらっていたので皆で食べる事に。


「あ、今日の夕食の時にメイドのキティと摂りたいのだか」


 トワ兄様はキティさんとの約束をしていると告げると私は笑顔で答える。


「トワ兄様、キティさんも御一緒に夕食を摂りましょう」


「いいのか?」


 良かった、トワ兄様は他種族に嫌悪感を持っていないと知ることが出来た。


「はい、トワ兄様と食事が出来ない事に比べたら問題ないです、それにキティさんは獣人族から花嫁修行の為にこちらに来られているお客様なので融通が効きますから」


「そうなのか、助かる」


 食事が終りソファーでトワ兄様は本を読んでいるので、アリアちゃんと私はお気に入りの本を持って行きトワ兄様を挟んで左右に座る。


「トワ兄様、この本を読んでくださいませんか」


「お兄ちゃん、この本も」


 アリアちゃんと私が差し出た本を受け取る、読んで貰っていると、トワ兄様の声は透き通る様に澄んでいて安心感を与えてくれ、私は思いきって膝の上に頭を乗せている瞼が重くなりいつのまにか気が遠くなっており、ステラお姉様とマーニャお姉様が起こしてくれるまで眠ってしまった。



***


 オル兄様の国葬の日、私はお父様達と一緒に座っていた、オル兄様の棺に花を捧げる、空の棺が並んでいるだけなのでオル兄様が亡くなった気がしないけど、今日は隣で笑っている人が明日はいなくなるのは当たり前の事だったけど、トワ兄様がいなくなると考えるととても悲しい気持ちになる。


 国葬が進行していて、ユリアナ教会の司祭様が話を始めようとしたら、遠くで凄い音がしたと思ったら遠くで巨人が姿を表すと周囲は騒然とした、巨人の近くの建物の屋根に人影が見えた、私は見間違いかと思うけど確かめるため観やすいところに行こうとするとユリアナ教会の司祭様が私の肩を掴む。


「痛いです、離してください」


「大人しくしてろ」


 司祭様が私の手首を乱暴に握られて「痛い」と叫ぶ周囲にいる衛兵達が姫様と近付くと、周囲の参列者達が騎士達に斬りかかり甲高い金属音がする、騎士と打ち合いを始めた参列していたと思われる一般人に紛れ込んだ有明の翼の様で外套を羽織背中に象徴の紋章が有った、そして私の名前を呼び声がする。


「エリーちゃん!?」


 私を呼ぶ声の方を見るとアリアちゃんが走って来る。


「司祭様、エリーちゃんを離してください」


「ふふふ、丁度良いところに聖女アリアナ、こちらのお姫様を助けたければ私と一緒に付いてきて貰おう」


「ダメ、アリアちゃん」


「分かりました一緒に行きますだからエリーちゃんに危害を加えないで下さい、大丈夫だよエリーちゃん、きっと助けが来るよ」


 アリアちゃんが私の所まで来て司祭が掴んでいる反対の手を握ってくれた、それで気付いた、アリアちゃんの手が震えているのを、気丈に振る舞うけどアリアちゃんも怖いのだと、私はアリアちゃんの手を握り返して言う。


「アリアちゃん、きっとトワ兄様が来てくれます」


「うん、そうだね」


「さあ、付いてこい、いいか、騎士諸君私に近付くならこの二人の命は無いと思え」


 司祭は周囲に警告してから移動する、国葬の会場を出て少し歩かされると建物の角から誰かが飛び出してきた、私とアリアちゃんは身体が恐怖で硬直して今にも泣きたくなる。


 司祭がナイフを見せつける様に立つ、どうやら司祭の味方ではないようで少し安堵する。


「おい貴様、このお姫様達の命が惜しいなら道を開けろ」


 私とアリアちゃんは恐怖で顔を伏せていたけど、司祭が誰に警告しているかを確かめようとして顔を上げる。


「早く退け、然もないとお姫様達が傷物になるぞ」


 私は神さまに感謝する、私が今一番会いたかった人が立っている。


 そこには悠然と立っているトワ兄様がいる、これはまるで物語の中の勇者様がお姫様を助け出そうとしている様に見えてしまう。


 トワ兄様は腰に手を回して急に叫ぶ。


「エリー、アリーシャ、目を閉じろ」


 トワ兄様に言われたように固く目を閉じる、次の瞬間、急に司祭の呻き声がする。


「もう大丈夫だ」


 私は目を閉じたら急に優しく包まれたと思ったらトワ兄様の声が近くに聞こえ、目を開けても大丈夫と言われ恐る恐る目を開くとトワ兄様に抱えられていたので驚いた。


「お兄ちゃん」

「お兄さま」


 トワ兄様が私達を降ろそうとする、その瞬間に私は怖くなりトワ兄様を抱き締めた。


 トワ兄様は少しだけ困り顔になる。


「ニーナ、オレを転位しろ」


 トワ兄様は突然に知らない女性の名前を言う何故と思ったらトワ兄様は巨人を指差す。


「エリー、アリーシャ、オレはあれを破壊しに行くから逃げろ」


「「いやぁ」」


 人の身であの巨人を撃退出来ない、もし出来るのならば神格を得た英雄だけだと思う、トワ兄様は少し考慮してから私達を降ろし立て膝になる。


「いいかい、今から不思議な事が起こるけど秘密に出来るかい?」


「「はい、誰にもいいません」」


 トワ兄様はふたたびニーナと女性の名前を言う。


「ニーナ、今すぐ一緒に転位してくれ」


 私達は光に包まれた次の瞬間に狭い空間にいたので困惑する、私達を椅子の横に降ろしてトワ兄様は椅子に座るとアーティファクトらしい物をいじり始める。


「システムチェック・・・エラー項目算出・・・算出項目事項を飛ばして緊急起動モードで処置、出力20%で維持・・・ニーナ、稼働時間カウントダウン開始・・・レイドスタンドアップ」


 トワ兄様は聞き慣れない単語を発すると暗かった室内が明るくなると室内に外の風景が写し出され身体が重くなると空を飛んでいる風景が写し出される。

 トワ兄様は王都の上空に着くと巨人に対して攻撃を仕掛ける。

 今私達が乗っている乗り物が光の巨人なのだと思う、私は疑問をトワ兄様に質問する。


「お兄さまは光の勇者様?」


 トワ兄様は人差し指を口元に持っていき秘密だよと囁く。


「さあアラモ、決着を付けよう」


【エネルギー兵器の使用は控えてくださいアラモのコアが爆発する恐れがあります、アラモ自体もエネルギー系兵器は使用はしないと考慮します、接近戦を推奨します】

「了解、接近戦を挑む」


 室内に女性の声がする、多分トワ兄様がニーナと呼んでいる方はなのだけど姿が見えない。

 

「二人とも喋るなよ、急な衝撃で舌を噛むからな」


 私達に注意を促すとトワ兄様は巨人と対峙始める。


 幾度か巨人と攻防を繰り返すと、敵の巨人は身を犠牲して攻撃を仕掛けるとトワ兄様は光の巨人を動かし直撃だけは避けるが衝撃が私達を襲う。


「「きゃあ」」


 私とアリアちゃんは衝撃に悲鳴を上げる、トワ兄様はこちらを一瞥して状況を確認し始める。


「ニーナ、損傷は?」

【損傷軽微、戦闘続行可能です】


 トワ兄様は光の巨人を動かし王都から遠ざける様に動いている、防戦一方になっている、私達はトワ兄様を見てアリアちゃんがトワ兄様に声を掛ける。


「お兄ちゃん」


 心配そうな顔でトワ兄様を見ているとアリアちゃんと私の頭を撫で。


「大丈夫だ、オレを信じろ」


 微笑みながら励ましてくれる。


 更に幾度かの攻防を繰り返し、切り裂いた装甲から光の巨人が腕部を突っ込んで巨人から心臓と思われる物を引き抜くと巨人は糸の切れた人形の様に崩れ落ちる。


「目標沈黙、状況終了」


 トワ兄様が戦闘終了を告げる。


 王都の人達から見えないように光の巨人から降り立つ、トワ兄様が何かを操作する光の巨人は独りでに動いて何処かに消えていった。


 私達はトワ兄様に手を繋いで貰いながら王都に向かって歩いている。


「お兄さま」


「なんだ?」


「ごめんなさい、呼んでみたくて」


 私は夢にまで見た光の勇者様が、私の手を繋いで歩いくれているそう考えるだけで私は、胸が熱くなってくるのが分かる。


「具合は大丈夫か二人とも?」


 トワ兄様は心配そうな顔で私達の顔を覗き込む。


「い、いえ、大丈夫です」


 私は顔を熱くなりながら俯く。


「うん、大丈夫だよお兄ちゃん」


 少し歩いいると私は身体が重くなってきたと思ったら、トワ兄様が掴んだ手を離すと屈んで背中を見せる。


「エリー、背中に」


 私をおぶさると立ちあがる、トワ兄様の背中は広く感じとても安心出切るなと思っていると、アリアちゃんが私を見て騒ぎだす。


「お兄ちゃん、私も歩けない」


 トワ兄様は頭を掻いてからアリアちゃんをだっこする、あー、背中もいいけどだっこもしてほしい。


 私とアリアちゃんは頷き合い王都までの道のりで入れ替わりしてもらう、トワ兄様は困り顔で微笑みになりながら、頼みを聞いてくれる、それにしてもトワ兄様の困り顔は可愛いな。


 しばらく歩いて王都に着く。


「姫様ーー」


 鎧を纏った集団が走ってこちらに向かって来る。


「リビエス、心配をお掛けしましたが私は大丈夫です」


 中には教会騎士のサクラさんが混じっているのを見るとトワ兄様はたので話を聞くためかサクラさんに近付いて、アリアちゃんと私をおんぶに抱っこから降ろす。


 あ~あ、王都までの道のりがもっと長ければいいのに。


 トワ兄様は突然女性に対して言っていけない言葉を発した。


「ふう、疲れた」


「お兄さま」「お兄ちゃん」


 私とアリアちゃんはトワ兄様をポコポコ叩くが、トワ兄様は気にしないで話を続けた、少し疲れて休んでいると。


 サクラさんがトワ兄様の耳元まで顔を近付いてる、トワ兄様の顔が緩んでいる気がしている、私の中の危険信号が鳴る、サクラさんは要注意人物なのだと。


 トワ兄様は教会騎士にアリアちゃんを、王国騎士に私を任せてこの場から離れていく。


 それからトワ兄様にお逢いしたくて探すけど、お父様にお会いしたり、城下町に用事を済ませに行ったと言われてなかなか会えないので、私はトワ兄様の専属メイドをしているキティさんにお願いしてトワ兄様の所まで連れていって貰った、あ、ちゃんとお父様に許可を貰ったよ。


 城下町まで行ってステラお姉様がトワ兄様の服を見るとキティさん言っていたので、何軒か店を回ってトワ兄様を見つける。


「やっと見つけましたよトワ様」


「動いても大丈夫なのかエリー?」


「はい、体調も良いならたまには外に出歩く様にとお父様が」


「なるほど、しかしよくここが分かったな?」


「はい、比較的に被害が少ない商業区でステラ様がリサーチしていた店を片っ端から行きました」


「そうか、ああ他の三人は店内で自分の服探しに行ったよ」


「三人ですかお兄様?」


「ステラ一緒に街を回ってたら教会騎士のサクラとユーラがこの服屋に入る時に一緒になっていま服を物色しているよ、それよりエリー、キティ、立ったままだと疲れるだろ座りなよ」


「はい、お兄様」


「失礼しますトワ様」


 長椅子に座っていたトワ兄様を見て、私は膝の上に、キティさんは真横に座った。


「なあ、エリー」


「はい、なんでしょうかお兄様?」


「他にいっぱい座るところが有るが」


「お兄様の膝の上がいいです」


 有無を言わさず断言する私、トワ兄様は手持ち無沙汰を感じたのか私の髪を撫でてくれる、良かったトワ兄様の膝に座って。


「えへへ、お兄様」


「あ、ごめんよ、嫌だったかい?」


「いえ、お兄様の手で頭を撫でて貰いますと落ち着きます」


「トワ様」


「どうしたキティ?」


「わ、私も撫でて貰ってもいいですか?」


「ああ、構わないがいいのか?」


「はい、エリザ様の言っています事を確認したくて」


 片手で私を、もう片方の手でキティさんを撫でていると、三人が服を持って帰ってくると今の状態見たステラお姉様が走ってくる。


「エリー、何時の間に来てたの、じゃなくてボクと代わってよエリー」


「嫌です、ステラお姉様、お兄様の膝の上はエリーのですから」


「ぐぬぬ」


 思いきってトワ兄様の膝の上に座って、更に頭を撫でられてる機会を例えお姉様でも、易々と渡しません。


「次はそれを着ればいいのか?」


「あ、うん、お願い」


「ああ、エリー、着替えてくるから降りて待っててくれ」


「・・はいお兄様」


 私は折角のご褒美タイムが終わってしまうが、トワ兄様にお願いされたので膝のから降りる。


 私はキティさんに耳打ちして服を探す、トワ兄様が試着しているので差し出す。


「お兄様、この服も着て下さい」


「トワ様これもお願いします」


 私達から期待の眼差しで見られ苦笑しながら受け取り試着して見せた。


 それで全ての試着が終わって、どれを会計するか皆でトワ兄様を見る。


 トワ兄様は最後に持って来た服を全員分を会計に持っていく。


「トワくんそれを全部?」


 ステラお姉様は自分の服を選んで貰って嬉しそうにする反面、他の人のもあるから複雑そうな顔をする、私も同じ気持ちになる。


「ああ、自分はこれまでの誰かに服を選んで貰うことが無かったからね、せっかく皆が選んでくれたのだから、最後の分だけ全部買うよ」


 会計に持っていくトワ兄様を見て、私を含めて全員が嬉しそうにトワ兄様を眺める。



 店を出るとトワ兄様は昼食を提案する。


「何処か落ち着いて軽食でも食べないかい?」


 トワ兄様の提案にお姉様方は了承する。


「なにを食べましょう?」


「自分は店の事はよく知らないから任せてもいいかい皆?」


 お姉様達四人は話し合いを始めた、私も城下町の事は知らないのでトワ兄様の手を握って大人しく待っていた。


 お姉様達に案内されて着いた先は、ファンシーでキレイな外観のお店で女性向けの佇まいだけど、トワ兄様の顔はひきつている不穏な空気を感じて逃ようとするとお姉様達がトワ兄様を囲んでいた。


「えっと、なんで囲んでるのかい?」


「もちろん、トワくんが逃げないようにね」


 トワ兄様は諦め顔で店内入る。


***


「キャー」


 周囲にいた女性達がトワ兄様を見て騒ぎだす。


「この間、マーニャ姉さんのところで身に付けていたものを着けてよ」


「トワ様完璧な着こなしです」


「格好いいです、お兄様」


と私は拍手をしながらトワ兄様を見る。


 今トワ兄様の格好は髪をオールバックにして、モノクルを着け服は執事服を着ている。


「食事をしにきたんだよな?」


「え、うん、そーだね」


「トワ様、このお店はですね、男性店員さんにもてなしてもらうお店なんですよ」


 キティさんがこの店のコンセプトを説明する。


「じゃあ、自分は?」


 トワ兄様は店員じゃないのに何故この格好をしているのだと聞く。


「それはですね、最近始めたサービスなのです、来店した女性が自分で男性を連れてきて、その男性にやってもらえる、今王都で人気のサービスなのです」


 なるほど、素晴らしいサービスです。


「自分がやる理由が無いのだが」


「え~と、トワくん、いつ執事の技術が必用になるか分からないでしょ、だからトワくんのために来たんだよ」


 ステラお姉様はトワ兄様をはぐらかす、トワ兄様は頭を掻いてから。


「やるのはいいが、何をすればいいだ?」


「それはですね、店員さーん」


 キティさんが店員を呼ぶ、トワ兄様は店員から説明を受ける、説明を終わってトワ兄様は執事の真似事する。


 トワ兄様にお茶を入れてもらったり、お姉様達はマッサージを受けたりして軽食を食べさせて貰って過ごした、とても幸せな時間でした。

 店を出て通りを歩いていると私は燥ぎ過ぎたから疲れ眠くなってきた。


「エリー疲れたのか?」


 トワ兄様はしゃがみ腕を広げる、私は戸惑いながらトワ兄様に抱き付く、トワ兄様から太陽の暖かさと草原の匂いがする、心地よく眠くなってきた、もう起きていられない。


「エリー疲れちゃったんだね、トワくんに抱えられて安心して眠ってるね」


 ステラは微笑んでエリザを見る。

 



 トワ兄様の声がする。


「ああ、確かに見晴らしがいいな、エリー、エリー起きてくれ」


 私はトワ兄様に起こされて目を開け周囲を見る。


「・・・綺麗な景色」


 とても綺麗な景色が広がっている、なんだかこの景色を見ていたら涙が出てきた。


「エリー、エリーがさ元気になったら連れてきたかったんだ」


「ステラお姉様・・・ありがとうございます」


 私はステラお姉様に泣きながら笑って感謝の言葉伝える。


 トワ兄様も景色を楽しんでいるようで静かな時間が過ぎていく。


 日が沈み辺りが暗くなると城下町の家々に灯りが点り始めると先程とは別の顔表すと、また私の知らない景色が広がる。


「夜の光ってやさしいですね」


「そうだな」


「はい、しばらく眺めていたいですね・・・くしゅん」


「少し冷えてきたようだな、今日はもう帰ろう」


「ですが」


「また、こればいいさ」


「その時はトワ兄様も一緒に来てくれます?」


「分かった」


「約束ですよ」


「うん、うん、じゃあ帰ろうかエリー」


「はいステラお姉様」


 そうして日の暮れた城下町を通って城に帰る、帰宅最中に私は今度はトワ兄様と二人で来たいなと考えてしまう。


 

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