第137話 帝国艦隊への攻撃

 人間界と魔界の大規模戦争が勃発するはずだった戦場。

 だが今や、戦争を終わらせる最後の戦いの戦場となりそうだ。


 いつの間にか魔界艦隊では、魔界艦隊同士の戦いがはじまっている。

 あの独特な禍々しい艦隊の中に、紫や緑のビームが飛び交っているのだ。

 魔界艦隊の間でどのようないざこざがあったのかは分からない。

 おそらく、戦争を終わらせるかどうかで意見に相違があり、戦闘に陥ったのだろう。

 俺たちも人ごとじゃない。


《ええい! 反逆者! 魔族の手下! 裏切り者! 我ら帝国艦隊第4艦隊が、魔族もろとも貴様らを殲滅してくれる!》


 男の大声に、俺は思わず耳を塞ぐ。

 塞いだところで魔力通信は聞こえるので、その行動に意味はないのだが。

 さらに言えば、耳を塞いでいる暇はない。

 早くも第4艦隊の攻撃がはじまり、こちらも反撃しなければならないからだ。


「村上、ロッド司令、帝国艦隊を潰すぞ!」

《てめえ! 俺の台詞を奪うんじゃねえよ! 相坂、ロッド、帝国艦隊ぶっ潰すぞ!》

《再び異世界者たちと戦えて光栄だ。共和国に忠誠を誓った戦士たちよ、行くぞ!》


 村上は置いといて、ロッドの頼もしい言葉が響き渡る。

 見たところ、第3艦隊は全艦が帝国艦隊を離反した様子。

 第1艦隊も同じだ。


「フォーベック艦長、防御壁展開は?」

「とっくに展開済みだ。じゃなきゃもう被弾してる」

「よし、攻撃準備! 目標は帝国艦隊第4艦隊!」


 こっちの戦力は、戦闘艦が19隻。

 内訳を見ると、ガルーダとフェニックス、ダルヴァノとモルヴァノ、レイド級12隻、ジャベリン級3隻。

 対して第4艦隊は、レイド級が8隻のみ。

 これは勝ったも同然かもしれない。


 遠距離攻撃は第1艦隊に任せりゃ良い。

 中距離攻撃は、ロッド率いる第3艦隊がやるべきだ。

 なら俺たちが何をするべきかは、考えなくとも分かる。


「ローン・フリート全艦、防御壁を前方に集中! 第4艦隊に突っ込むぞ!」

「つ、突っ込むんですか!? あの、もっと慎重な作戦は……」

「ヘッヘッへ、俺ららしい、ぶっ飛んだ戦いだなあ」

「フォーベック艦長まで……」


 こういう大規模な戦いが久々なためか、フォーベックが楽しそうである。

 対照的に、久々なためか不安がるロミリア。

 だけど俺は、今までも脳筋かつごり押し、ヤケクソな戦いしかしていない。

 今さら慎重な作戦なんか思いつかない。


「モルヴァノ、ダルヴァノ、準備は?」

《大丈夫です。指示があればいつでも》

《あの帝国のクソ野郎と戦えるんだ。早く戦いたくてうずうずしてるよ!》

「分かりました。ガルーダの操縦と中距離砲4門は俺が操作します。全艦、ガルーダについてこい!」

 

 やると決めたらさっさとやるのが俺だ。

 俺はすぐに、ガルーダの艦首を第4艦隊に向ける。

 目標は第4艦隊の旗艦。


 人間界惑星の青い光に照らされ、ぼうっと浮かぶ帝国の軍艦。

 青白いビームや赤いビームが、こちらの防御壁に直撃し船を揺らす。

 よく考えたら、第4艦隊は異世界者追放時に、俺たちを攻撃してきたヤツらだ。

 あのときは反撃せず逃げたが、今度は叩きのめしてやる。


 4つのエンジン全てを全開にし、俺はガルーダを急加速させた。

 艦内は重いエンジン音に支配され、第4艦隊は徐々に近づいてくる。

 同時に敵からの攻撃も増し、防御壁が激しく点滅するが、知ったことではない。

 そもそも、第1艦隊と第3艦隊の放ったビームが第4艦隊を襲っている。

 防御壁が点滅するのは、お互い様だ。


「敵までの距離は?」

「約6キロです」

「近いな」

 

 これまでと違い、敵も魔力カプセルを搭載した大容量魔力艦だ。

 おそらくお互いに魔力の枯渇はあり得ない。

 よって、戦い方も今までとは違うやり方でないといけない。

 

 俺が考えた戦い方は、わりかし単純。

 魔力カプセルは人工的に魔力を込めるため、攻撃時はあらかじめ決められた量の魔力しか込めることができない。

 対して人間が攻撃時に魔力を込める際、1発ごとに込める魔力の量を調節できる。

 この違いは、普通の魔術師では誤差のレベルだが、異世界者となると話は別である。

 だから、まずは魔力カプセルによる光魔法で相手の防御壁を一時的に無力化。

 そこに俺が、大出力の熱魔法ビームで敵艦を破壊する、という戦い方だ。

 

「全兵装、敵旗艦に光魔法を一斉射撃!」

 

 指示と同時に、ローン・フリート全艦の砲が青白く輝く。

 48もの光魔法ビームが、第4艦隊旗艦の防御壁を剥がし尽くそうと発射されたのだ。

 あまりに多くの光魔法ビームが1カ所に向かったため、1つの巨大なビームのようになっている。


 視界を奪う程の青白い光は、第4艦隊旗艦の艦首防御壁に直撃した。

 いや、直撃というよりも、巨大なビームが防御壁を殴りつけた、と言った方が正しい。

 防御壁はひび割れることもなく、一瞬で、粉々に破壊される。

 19隻の共和国艦隊を前に、丸裸にされてしまった第4艦隊旗艦。

 俺が第4艦隊旗艦の司令だったら、絶望していたことだろう。


 標的は、防御壁再展開までの数秒間、完全なる無防備。

 ここで俺の出番だ。

 通常は5MP前後しか使わぬ熱魔法ビームに、調子に乗って500MPを込める。

 100倍の威力の熱魔法ビーム、これを4発、艦橋近辺にぶち込むんだ。

 そうすりゃ完全破壊は無理にしても、行動不能なまでに敵艦を破壊できる。

 時間は限られているので、急ごう。


 中距離砲4門は、とっくに敵旗艦に向けている。

 あとは魔力を込め、発射するだけ。

 500MPの熱魔法、それを4つだなんてはじめてだ。

 魔力を通す管が焼け切れることのないよう、祈るしかない。


 いつものように、いつもとは違う量の魔力を砲に込める。

 狙いは定まった。


「高出力熱魔法ビーム、発射!」


 4つの中距離砲から、煮えたぎる溶岩のようなビームが撃ち出された。

 さすがに100倍となると、その威力は凄まじい。

 発射の勢いで、ガルーダがわずかながら減速したのだ。

 あんなものが直撃すれば、ひとたまりもない。


 敵旗艦までの距離は約2キロ。

 このままだと、ビームと共にガルーダも敵旗艦に体当たりしてしまう。

 だからビームを発射した直後、俺は艦首上部スラスターを起動させ、艦を降下させた。

 

 徐々に敵旗艦へと近づく、とんでも高出力熱魔法ビーム。

 ガルーダの艦橋も、あのビームに赤く照らされている。

 ただし、こちらは離れていくビームを眺めているだけだから良い。

 敵からすれば、見るからにヤバいものが自分たちを真っ赤に照らし、死が刻々と近づいてくるのだ。

 ……俺の力って、やっぱり異常なんだな。


 どれだけ急いでも、敵旗艦が防御壁を再展開する時間はない。

 ヤツらはもう、赤い光に包まれている。

 逃げ場はない。

 

 そんなことを思っていた俺は、どうやら第4艦隊を侮っていたようだ。

 なんとヤツら、熱魔法ビームが直撃する直前に、超高速移動で逃げやがったのである。

 折角のとんでも高出力熱魔法は、虚しく宇宙の彼方へと消えていく。

 まさかこんだけの優位を保ちながら、逃げられるなんて。


《なんだい! 怖気づいて逃げちまったのかい! 根性なしだね~》

「敵の移動先、分かります?」

「お待ちください。少々時間が掛かるかと」


 さっきまで第4艦隊が布陣していた場所を、ローン・フリートは悠々と通り抜ける。

 敵がどこに逃げたのかを知るには、しばらく時間が必要だろう。

 己の油断を呪いながら、俺はガルーダを減速させる。

 

「アイサカ様、第4艦隊のレイド級が2隻だけ留まってます」


 敵を逃がし唇を噛んでいた俺に、ロミリアがそう話しかけてくる。

 どういうことかと、窓の外をくまなく探してみるが、それらしい軍艦の姿はない。


「どこにもいないぞ」

「あの、後ろです。魔力を使えば分かりますよ」

「魔力って、魔力レーダー?」

「そうです」


 そういや魔力レーダーを使うのを忘れてた。

 あれって結構な集中力が必要なんで、あんまり使ってなかったんだよな。

 どれどれ……。


 ロミリアに言われた通り、魔力レーダーを使い後方を確認。

 広い範囲に魔力を放ってみると、確かに軍艦レベルの大きめな反応が2つ帰ってくる。

 しかし、その艦の種類までは分からない。

 よくロミリアは、相手がレイド級だってところまで分かったもんだ。


 まあともかく、第4艦隊のレイド級2隻が超高速移動をしなかった様子。

 どうしてこの場に留まったのかは、直接聞いてしまおう。

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