第111話 真相

 冬月と未来の俺が出会うという驚愕の真実。

 これだけでも十分な収穫だが、冬月は日記に重要な情報を残してくれているそうだ。

 勘が当たり、重要な情報を手に入れられるこの機会に、俺の心が躍る。

 果たして指定されたページには、どのような真実が隠されているのだろう。


『3444年9月6日、魔界にやってきてちょうど3ヶ月になる。

この前、占領した龍族の街の神殿で、すごい情報を見つけた。

忘れないようにここに書いておこう。

 

 魔王は1つの生物じゃなく、フライングスピリットに似た強い魔力のかたまり、〝魔王の魂〟と呼ばれる部分が本体なの。

その魔王の魂が人物にひょういして、目に見える魔王の体を作り出す。

つまり、魔王の魂と魔王の体を合わせて魔王と呼ぶらしい。

今は龍族のなんとかっていうのにひょういしてる。

魔王がいろんな種族を、種族ごとにわけたまま、一番えらい立場にいられるのは、魔王自身が特定の種族じゃないから、ってササくんが言ってた。


 それで、一番大事なのがこの情報、魔王の倒し方。

魔王の倒し方は意外と単純で、魔王よりもたくさんの魔力を持った生命体が、剣を魔王の体に刺して、封印するように念じるだけ。

魔王の魔力は60万MPだから無理そうに感じるけど、複数人で剣を刺しても良いみたい。だから、人海戦術だと一網打尽にされちゃうかもだけど、コウちゃんとササくん、私の3人で、魔王の魔力を15万MPぐらい使わせれば、勝てる。

 

 でも魔王の体に剣を刺す時は、気をつけないといけないこともある。

たしか、怒り、恐怖、哀しみが強い人は、魔王の魂に気に入られると、剣を刺した時にひょういされちゃって、新しい魔王の体にされちゃうみたい。

まあ、私は好きなキャラをバカにされない限り大丈夫かな。

魔王の座を狙って魔王を押し倒しにいった魔族は、みんな逆に押し倒されたらしいし。


 たぶんこの情報は、明後日ぐらいには忘れるかもしれないなあ。

もうすぐ橋を奪い取る大作戦だし、もう寝よ。』


 39ページに書かれていたのは、魔王についての情報であった。

 前々から気になっていた情報なので助かる。

 これを読む限り、魔力カプセルは生命体じゃないので、魔王以上の魔力とはカウントされないだろう。

 やはり、魔王を倒すには村上や久保田との協力が不可欠だな。

 

 それにしても、魔王は魔力のかたまり、フライング・スピリットに似た存在だったのか。

 魔王がミードンと似た存在……。

 残念だったな魔王、可愛さでは圧倒的にミードンの勝ちだ。

 

 さて、続きを読もう。

 次の情報は108ページ、どんな内容だろうか。


『3445年4月30日、魔王を倒した。

大変な戦いで疲れたから、今日の日記は短めで良いや。


 魔王を倒すために、まずは魔王に魔力を使わせた。

光ま法が一番ま力を使うので、光ま法を使わせる。

こっちもねつま法とかいろいろ使ったから、まりょくがへる。

でも3にんいたからなんとかなった。

まおうをたおした。


もうねる。』


 やはり魔王を倒したその日の日記は、冬月もお疲れの様子だ。

 途中から書くのが面倒になったのが明らかで、文字が全てひらがなで書かれている。

 それでも、俺にとっては貴重な情報だ。

 

 貴重な情報ではあったが、情報が不足している感は否めない。

 これだけでは俺も満足できなかったであろう。

 おそらく冬月もそう感じたのかもしれない。

 後から書き加えられたであろう補足が、このページにはあった。


『魔王の封印について詳しく説明すると、魔王の体に刺した剣が、魔王の魂を取り込んで、魔王を剣の中に封印するっていう原理らしい。

その時に、ひょういされた人物の魂も封印しちゃうから、その人物は氷魔法にかけられたみたいに冬眠状態になる。

これが魔王の封印って呼ばれるもの。


 この前の魔王との戦いでは、私とコウちゃん、ササくんの3人の剣に、3等分して魔王を封印した。

その剣はそれぞれがそれぞれで保管しておくことになってる。


 最後に、封印を解く方法。

冬眠状態の人物に再び剣を刺して、剣の中に取り込んでいた魔王の魂を解放するだけ。

これだけで魔王は復活する。

魔王を封印した剣が複数あっても、その内の1つだけがあれば、完全な形ではないけど、魔王を復活させられる。

封印のときと違って、必要な魔力は定まってないから、封印を解くのは、魔王を封印した剣さえあれば、誰でもできちゃうみたい。


 封印の仕方と封印の解き方は、もしかすると悪用されるかもしれないって、ササくんが言ってた。

だからここに書いてあることは、私たち異世界者だけの秘密。』


 なぜ魔王の倒し方を誰も教えてくれないのかと思っていたが、そういうことだったのか。

 でも異世界者の俺は、この秘密を知ったって問題はない。

 というか、知るべきだ。

 知るべきだからこそ、冬月はこの日記を俺に見せているのだろう。


 39ページと108ページは、主に魔王についての記述だった。

 しかし次に指定されているページは、325ページと327ページ。

 108ページと325ページ、随分と間が開いているのが気になるが、ともかく続きを読もう。


『3453年7月19日、絵を描く気になれない。


 2日前、ササくんが久々に帰ってきたけど、コウちゃんとケンカしていた。

私は2人にバレないようにそのケンカを見てたんだけど、ササくんは信じられないようなことを言ってた。

僕は魔王になって、魔族を率いて、人間界惑星を滅ぼしてやるんだ、って。

そのために剣をわたせ、軍艦の設計図もわたせ、って。

何を言ってるのか、わからなかった。


 当然だけど、コウちゃんは断った。

そしたらササくん、コウちゃんを殺して、魔王を封印した剣と軍艦の設計図を奪っていった。

今でも私は信じられない。

ササくんが、コウちゃんを殺すなんて。


 でもあの時のササくんは、どう見てもおかしくなってた。

ササくんが、妹が心配なのも、元老院に騙されたのも、人間界が嫌いなのも知ってたけど、それでついにおかしくなっちゃったんだ。


 きっとササくん、私のところにも来るはず。

魔王を封印した剣をわたせって、言ってくるはず。

そうはさせない。

今度、ササくんと会って、説得してみせる。

でも最悪は……』


 あまりの衝撃に、俺の手が震えだす。

 やはりカワカミの死因は事故死じゃなかったんだ。

 それどころか、仲間であったはずのササキに殺されていたんだ。

 こうなると冬月も……。


 次に指定されたページは327ページ。

 だが326ページに目を通したとき、俺の心が締め付けられる。

 そのページに文字はなく、ただ1つの絵が描かれていた。

 若かりし日のササキと、カワカミと思われる人物が、笑顔で並ぶ暖かい絵。

 なんで〝最期〟のページの前に、こんなものを描きやがる。

 

『3453年7月26日、マモルンが19歳のマモルンに対して、何を伝えたかったのかがようやく理解できた。

それに、マモルンが未来を語ってくれなかった理由も、ようやくわかった。


 明日、私はササくんのところに行く。

なんとかササくんを止めてみせる。

まあ、きっと大丈夫だよ。

ササくんは私が見た感じ受けだからね。

激しく攻めてやれば、きちんと受け入れてくれるはずだよ。

ツンツンしたジョエル様も、デレさせてみせる。


 でも一応、これだけはマモルンに言っておくね。

もしこの日記がここで終わってたら、私はもう死んでるし、ササくんは魔王になってるはず。

そしてこの日記と一緒にある剣が、魔王を封印した剣だから、厳重に保管しておいてよ。


相坂守へ、魔王は佐々木文哉。』


 俺の勘は当たった。

 確かにここには、重要な真実が隠されていた。

 あまりにも悲しく、辛い真実が。

 これを知ったからには、俺はもう1度、佐々木のところに行くべきだろう。


「冬月さんのためにも、ササキのところに行きましょう」

「……ロミリア、もしかして俺の心から読み取ったのか?」

「はい。日記に何が書いてあったのかも、アイサカ様が何を考え思っているのかも、私に伝わってきています」

「なら、いちいち説明する必要はないな?」

「はい!」

「ニャーム!」


 これからやるべきことは、もう決まった。

 すぐにこの情報を講和派勢力に伝え、佐々木の所に向かう。

 それが最優先事項だ。


「でも……」

「どうした?」

「い、いえ! なんでもありません。ただ、ちょっと……」


 何かを懸念するように、不安がった表情をするロミリア。

 どうしたのだろうか。

 理由を聞いてみようと思ったが、ロミリアの目を見る限り、答えてはくれなさそうだ。


 日記をバッグに入れ、剣を持った俺は、スチアに帰ることを伝える。

 だがその直後、ヤンから魔力通信が届いた。


《ちょっと面倒なことになっちゃいましたぁ。すぐに帰ってこられます?》


 ここ最近、どうも俺をゆったりさせてくれないな。

 しかし冬月の隠れ家での用は済んだ。

 ヤンの願い通り、さっさとガルーダに帰ろう。

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