第29話 艦隊封鎖突破作戦

 今回の艦隊封鎖突破作戦は、単にマグレーディに到着するのが目的じゃない。

 それだけが目的なら、簡単な話だ。

 ここから超高速移動でマグレーディ王都に行けば良い。

 今回は、共和国艦隊にこちらの力を見せつける必要がある。

 共和国艦隊の包囲を、悠然と、こちらの姿を見せつけながら突っ込まなきゃならない。


 さて、超高速移動の特徴の1つに、移動後の船の針路や速度は移動前と等しい、というのがある。

 加速度もそうらしいな。

 右旋回したまま超高速移動に突入すれば、移動終了後も右旋回を続ける。

 マッハ1で超高速移動に突入すれば、移動終了後もマッハ1のまま飛ぶ。

 加速度100m/sˆ2で超高速移動に突入すれば、移動終了後も100m/sˆ2になる。

 これのおかげで、移動後の操作を移動前にできるから便利だ。

 地上すれすれに超高速移動する場合、移動前に速度・加速度を0にすれば、地上に衝突する可能性もなくなるからな。


 この特徴を利用して、俺は共和国艦隊包囲網すぐ近くにガルーダを超高速移動させた。

 速度はマッハ1・5で少し加速中、針路は真っ直ぐである。


「超高速移動完了。防御壁を展開する」


 今の超高速移動で、俺の魔力は3万MP減っている。

 ただ、ガルーダの操作は全て魔術師に任せたので、俺の魔力残量は9万MPだ。

 それに光魔法を使う魔術師たちを加えて、約10万MP。

 光魔法攻撃を行う予定はないので、その全てを防御魔法に集中させられる。

 防御壁10秒展開に260MP消費だから、十分すぎる余裕があるな。


 こう考えると、やっぱり俺ってすごいな。

 俺なしだと、防御壁展開は10分も持たない。

 かなりぎりぎりの作戦になったはずだ。

 俺1人が加わるだけで、作戦はほぼ成功したに等しい。

 油断しているわけじゃないが、もうちょっとこっちの姿を見せつけても良さそうだな。


「艦長、せっかくですし、包囲を突破するだけでなく、敵艦にわざと接近しましょう」

「直前になってなんだあ? まあ、戦力誇示には良い手かもしれねえが……」

「どうします」

「ヘッ、面白そうだし、やるか」 


 賛成の理由がちょっとテキトーすぎやしないかと思うが、俺の意見は通った。

 すぐにフォーベックが魔術師たちに指示する。


「作戦修正、目標追加だ。第1目標付近通過後、新たに第2目標付近を飛ぶ。マグレーディ王都への着陸はそのあとだ。アイサカ司令、号令頼んだぞ」


 分かっていますとも、艦長。

 ガルーダで一番偉いのはフォーベックだが、戦闘では俺が一番だ。

 作戦の号令は、俺の仕事である。


「これより作戦を開始する。行くぞガルーダの諸君!」


 ちょっと大げさだったかもしれないな。

 でもこういった作戦は、少しでも士気が高い方が良いだろう。


「第1目標までの距離は100キロを切っています」


 航海士の言葉と同時に、第1目標である共和国艦隊の船が攻撃してきた。

 遠望魔法で敵を確認してみると、防御壁を展開したレイド級1隻の上部がよく見える。

 全ての砲をこちらに向けて熱魔法を乱射していた。

 まさか上から、しかもガルーダが、よりにもよって突っ込んでくるなんて、想定外なんだろう。

 敵の攻撃はまだ定まっていない。


 何発もの赤いビームを吸収する青白い防御壁。

 こちらが音速で真っ直ぐ突っ込んでいるのもあって、ビームの量は多い。

 針山に落ちていくような感覚だ。


 だが、こっちは針山の針なんて痛くも痒くもない。

 防御壁は前方に集中させ、マグレーディの街が霞むぐらい分厚く展開している。

 熱魔法ぐらいじゃびくともしない。

 何十発ものビームなどものともせず、レイド級に近づいていく。


 ガルーダが攻撃してこないのに安心し、しかし近づいてくるのに焦ったんだろう。

 敵は防御魔法を停止させて光魔法を撃ってきた。

 向こうから放たれた青白い光が、こちらの展開する青白い光に干渉する。

 熱魔法とは違って、防御壁が少しだけ歪んだ。

 だが歪むだけで、ひびを入れるまでには至ってない。

 10秒展開に260MPのところを、俺は360MP使ってんだから当然だな。


「第1目標までの距離、50キロ!」


 だいぶ近づいた。

 敵の中距離砲射程に入ったのもあり、撃ってくるビームの数が倍以上になった。

 しかも、その半分近くが光魔法。

 敵に焦りを感じる。

 さすがに防御壁にもひびが入るようになり、そのたび俺が修復だ。

 ちょっと忙しいぞ。


 前方防御壁の展開と修復に集中していると、左舷の防御壁に衝撃が走った。

 どうやら他の船も攻撃してきたようだ。

 まあ、問題ない。

 第1目標のレイド級はすぐ目の前だ。


 肉眼でも敵の姿ははっきりと見える。

 それどころか、だんだんと大きくなっていく。

 そろそろつなぎ目とかも見えてきそうだな。

 このまま衝突しそうだ。


 敵のビームとそれを吸収する防御壁で、前がほとんど見えない。

 ただなんとなく、敵もエンジンを吹かしはじめているようだ。

 少しずつその場を離れようとしている。

 もう遅いし、そんなことする必要はないんだがね。


「距離5キロ! 交差します!」


 敵の右舷とガルーダの上部が、すれすれで交差する。

 なにせ音速だから、本当に一瞬のことだった。

 目の前にレイド級がいると思うと、次には艦橋の上に、そしてガルーダの後方に。


「上昇! 第2目標に向かう!」


 メインエンジンノズルの推力偏向板が動き、前方スラスター、艦首下部スラスターが噴射。

 ガルーダは音速を維持したまま艦首を上げ、わずか数秒で水平飛行に戻った。

 さらに右舷スラスターの噴射によってガルーダはロール、月から見た背面飛行状態だ。

 さすが高機動が売りなだけある。

 その間に、俺は防御壁を全体を覆うように拡散させた。


 次の目標である第2目標は、すでに20キロ程度の距離にいるもう1隻のレイド級。

 ガルーダは背面飛行をしたまま、そのレイド級に突撃だ。

 相変わらず、敵の反撃が熾烈である。

 さっきと違い、もはや全方向からビームが飛んでくる。

 防御壁を一方向に集中させるわけにもいかないので、修復作業が大変だ。

 俺1人じゃ無理なので、魔術師たちにも手伝ってもらっている。


 外から見たらすごいことになってんだろうな。

 ガルーダに全方向から赤や青白のビームが集中してるんだから。

 なんつうかもう、ビームを吸い込んでるって状態に近いかもしれない。

 俺たちは吸引力の変わらないただ1つの軍艦じゃねえぞ。


 もう魔力の半分を使い切った気がする。

 俺がいなかったらとっくに防御魔法が切れて、残骸になってただろうな。


 第2目標のすぐ目の前まで近づいた。

 敵の左舷の兵装がフルパワーで俺たちを撃ってくるが、まだ大丈夫だ。

 このまま第2目標の上を通り過ぎるだろう。


 ガルーダは第2目標の艦首の上を通り過ぎた。

 こっちは背面飛行だから、艦橋と艦橋が十字に交差した感じだな。

 やはり音速だから一瞬の出来事だったが、こっちと向こうの距離はせいぜい数十メートル。

 速度がもう少し遅ければ、敵の人間の顔が見えたかもしれない。


 第2目標との交差を終えると、ガルーダはまた降下をはじめる。

 地面とキス、正確にはマグレーディを覆うドームとキスは御免なので、速度は緩めた。

 前方スラスターがこれでもかと噴射していたな。


《ガルーダですよねぇ!》


 突如、魔力通信によってそんな言葉が届けられた。

 この声を俺は知っている。

 ヤンだ。


「こちらガルーダ司令の相坂、助けにきた!」

《来てくれたんですねぇ! 近くのドーム入り口を開けるので、入ってください!》


 彼の言葉と同時に、数キロ離れた位置のドームが光った。

 入り口ってのは、多分あそこのことだろう。


「あの光ってるところに行け」


 フォーベックの指示により、ガルーダは水平飛行に戻ってドーム入り口に向かった。

 これで一安心と思いたいが、敵の攻撃は続いている。

 まだ油断はできない。


 どうしてもマグレーディに俺たちを到着させたくないんだろう。

 熱魔法攻撃がほとんどなくなり、光魔法の青白いビームだけがガルーダに向かってくる。

 これはさすがにキツい。

 こっちの防御壁はひびだらけだ。

 急いで修復、またひびが入り、修復、ひびが入り、修復……。

 忙しい! 忙しいが、ここまで光魔法を放てば敵も限界だろう。


 ドームの光った部分に、すっぽりと穴があいている。

 ガルーダのメインエンジンはパワー全開、猛スピードでその穴に突入だ。

 敵の光魔法攻撃もだいぶ減っている。

 行ける!


《第1ドームへのガルーダの進入を確認》


 これは、マグレーディの管制塔かなんかからの通信だろう。

 俺たちは、マグレーディに到着したようだ。

 やった、やったぞ!

 作戦通り、無傷でのゴールだ!

 これで、共和国艦隊も俺たちの恐ろしさを思い知っただろう!


《ガルーダ、減速してください! 第2ドームに衝突します!》

「おいおいマジか! 緊急停止しろ!」


 あからさまに焦ったような表情のフォーベック。

 逆噴射装置と前方スラスターが全開となり、さらに右旋回するガルーダ。

 旋回中、鉄の歪むような音と共に艦内が大きく揺れた。

 おそらく第2ドームにぶつけたんだろう。

 幸い、急減速のおかげで速度は遅く、旋回していたのもあり大した傷にはならなかった。

 でも傷はついた。

 まさか無傷じゃなくなるとは……締まらないなあ。


 まあでも、敵の攻撃による被害は完全にゼロだ。

 作戦は無事成功したと言えるだろう。

 あとは共和国艦隊がこちらの戦力を恐れてくれればパーフェクトだな。

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