第5話 艦隊司令就任
「ではこちらでお待ちください」
山の中身をくりぬいて作られたような基地。
そこに着陸したバスを降り、基地内を歩かされ、大きな窓のある会議室らしき場所に案内されると、軍服姿の奴はそう言って、会議室を出ていってしまった。
室内に残された俺たちは、それぞれ勝手に感想を述べる。
「あれが拠点って言ってたよな。すげえ、やべえ」
「そうですね。想像していたものと大きく違ったので、驚きました」
村上と久保田が窓の外を見てそんなことを言っている。
俺もそれに乗っかって、窓の外を見てみた。
窓の外には、さっき上空から眺めた3隻軍艦の姿。
こうやって見てみると、やっぱりデカい。
見た感じ鉄製の巨体、200メートルぐらいか?
これが俺たちの拠点らしいが、久保田の言う通り想像と違いすぎる。
「ここの兵士は腑抜けばかりだな。鎧を着ていないどころか、剣すら携えていないではないか」
「魔術の使える者たちですから、私たちとは住む世界が違うのでしょう」
「フン! なぜ新参の艦隊が、我が栄えある共和国騎士団と同じ扱いを受けるのだ」
ふと聞こえてきたのは、騎士とリュシエンヌのそんな会話だった。
なんか、騎士の方は随分と不満そうだな。
バスに乗ってからずっとあんな感じだ。
なにかあるとすぐに騎士団の方がすごい的な話をする。
騎士のプライドってやつか。
……にしても、ロミリアと久保田の使い魔はずっと黙ってるな。
久保田の使い魔の方は、裏があって黙ってるようにも見えなくはないが、ロミリアはそうは見えない。
緊張しているのだろうか。
そういや、使い魔の中では1人だけ現状が認識できてないし、服装も田舎娘っぽい。
異世界から来た俺が言うのもなんだけど、ちょっと浮いちゃってるよな。
「相坂さん、あれって、戦艦ですよね」
ロミリアのことを考えている最中、久保田が俺に話しかけてきた。
数少ない同じ世界の人間だし、仲良くしておきたいところだ。
俺は少しだけ笑顔を作って答える。
「そうでしょうね。軍艦でしょうね」
「やっぱりそう思いますか。となると、先ほど僕たちを送迎してくれた乗り物のように、あの戦艦も飛ぶのでしょうか」
「え?」
「いえ、こんな山の中です。海はありませんし、あれほど大きな乗り物が地上を走るとは思えません」
「ああ、確かにそうだよな」
「だとすると、空を飛ぶんじゃないかと。魔力がある世界ですし」
久保田は眼鏡も含めて目を輝かせているが、彼の言うことを聞いて俺も目が輝きそうだ。
そうだよ、ここは山の中だ。
あの軍艦、絶対に空飛ぶよ。
見た目的には宇宙船だし。
そう思うと、興奮してきたな。
空飛ぶ軍艦が俺たちの拠点だもんな。
ところで、久保田は随分と真面目そうな奴だ。
そのくせして目を輝かせてやがる。
なんだか好感が持てる。
「ごめんね、待たせちゃったかしら」
ふと、また知らない声が耳に入る。
声のした方に目をやると、そこには2人の男と1人の女を引き連れた、アメリカ海軍っぽい制服にナイスバディが浮き出る美人さんが立っていた。
ブロンドの長い髪がなんとも似合う。
「これから現状をあなたたちに説明するから、座ってちょうだい」
そう言われて、素直に会議室の椅子に座る俺たち。
美人さんが上座に座り、彼女と一緒に部屋に入ってきた2人の男と1人の女がその周りに座る。
俺たちと使い魔たちはその対面だ。
不機嫌な騎士は……余計に不機嫌な表情で椅子に座りもしない。
「じゃあ、自己紹介ね。私はエリノル=トゥーロン、共和国艦隊参謀総長よ」
え? 参謀総長?
この美人な女性が?
というか、参謀総長なんてリアルな役職まであるのかよ、この世界。
世界観がわからん。
あと村上、鼻の下が伸びてるぞ。
「私はライナー=シュリンツ。フェニックス艦長だ」
「スザク艦長のカミラ=オドネルです」
「アルノルト=フォーベックだ。ガルーダの艦長やってる」
エリノル参謀総長の周りの3人も自己紹介をする。
全員艦長か。
この3人が、外の3隻それぞれの軍艦の艦長なんだろう。
4人の自己紹介に続き、俺たちも自己紹介する。
ま、城の時と同じだな。
不機嫌な騎士は自己紹介しなかった。
というか、今にも舌打ちしそうな雰囲気だ。
まあ気にしない気にしない。
「ムラカミさん、クボタさん、アイサカさん、話は聞いてるわ。さすが異世界者、魔力が強いらしいわね。魔術師のおじいさんが褒めてたわよ」
「お、もう俺たちの噂が広まってんのか。まあ、異世界者だから当然か」
村上はまだ調子に乗ってる。
一応、目の前にいるのは参謀総長だぞ。
「まだこちらの世界に来たばかりなので、わからないことも多いですがね」
対して久保田の言葉はなんと控えめなことか。
おい村上よ、お前は久保田を見習え。
俺は、何も言わないという選択肢を選ぶ。
「安心して。これから私がこの世界のことを、簡単に説明してあげる」
なんとも妖麗な見た目でそんな優しい言葉をかけられるとは。
ロミリアみたいな可愛い系や、女騎士みたいな美しかっこいい系もいいが、こういう系もアリだな。
う~ん、思考がずれた。
話に集中しよう。
「まずは、これを見て」
エリノル参謀総長がそう言うと、彼女は指をぱちんと鳴らす。
その良い音が会議室に響くと同時に部屋が暗くなり、俺たちの目の前に球体が現れた。
テーブルの上に浮かび上がる球体は、どことなく地球に似た模様だ。
ただ地球と違って大陸は1つ。
パンゲアとかゴンドワナみたいな、超大陸ってやつだな。
あとは、小さな島がぽつぽつとあるだけ。
「これが私たちの住む惑星よ。このあたりが、この基地の場所ね」
北半球、超大陸中央部の山がちな部分が赤く光る。
ちょっと待て、惑星だと!
宇宙とかあるのか、この世界は。
まるっきり、俺たちの世界と同じじゃないか。
じゃあ、魔王はこの惑星のどこにいる?
「あなたたち異世界者に与えられた使命は、この惑星、人間界惑星を、魔界惑星の侵略から守ることよ」
魔界惑星からの侵略。
ちょっと待って、そういう世界なの?
「魔界との転送地が消えて60年以上。この間、魔界の生物は一度たりとも人間界惑星に現れなかったんだけど、この前、再び魔界軍の侵略が始まったのよ。しかも今回、相手は軍艦で攻めてきたわ。まさかとは思うけど、たぶん、魔界は惑星間を移動できる技術を手に入れたのね。向こうの方が魔力に関しては強いから」
惑星間の移動。
おいおいおい、話がでけえぞ。
これ、パーティーを組んで魔王討伐の旅とか、そういうレベルの話じゃないじゃん。
「状況は最悪よ。こっちに現れた魔界軍の軍艦は7隻。ヤツらはこのフォークマスっていう街を占領してる」
目の前の人間界惑星の地図が動き、超大陸の東端が赤く光る。
フォークマスという単語が出た途端、不機嫌な騎士は顔をしかめ、女騎士は拳を握り、ロミリアは俯いた。
この反応を見るに、エリノル参謀総長の言う通り、状況は最悪なんだろう。
俺は話についていけてないけどな。
「共和国騎士団が奪還作戦を敢行したけど、魔界軍の軍艦の前に敗退。この事態に慌てて、共和国はあなたたち3人を呼び寄せたのよ」
異世界者を呼ぶだけあって、この世界は危機的状況ってことか。
細かい世界観にはついていけてないが、大まかな状況はわかってきた。
たぶん、騎士がやたら不機嫌なのも、奪還作戦の失敗が関わってきそうだ。
「で? 俺たちはどうすりゃいいんだ?」
村上の問いに、エリノル参謀総長は一拍間をおいて、力強く言った。
まるで人が変わったかのように。
「再びフォークマスの奪還作戦を敢行、魔界軍を駆逐し、人間界から追い出し、二度とこの地に踏み入れさせないわ。そのために、ムラカミさんを第一艦隊司令、クボタさんを第二艦隊司令、アイサカさんを第三艦隊司令に任命する」
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