第311話 移動手段

朝、脳筋目覚ましが発動して起こされた。

「大丈夫ですか?何か顔色が悪いような……」

「……気にするな。」

昨日の夜、お前の父親に怒られていたなんぞ、言える訳もないし。

とりあえず、朝食の準備が出来たという事なので、昨日と同じく食卓に集まる。


「ヅギャ、何でじっと見られてるの……?」

「気のせいにしておけ。」

視線が痛いくらいに凝視されているが、気にしていたらキリが無い。

俺はさっさと食事を済ませて席を立った。





「さて……」

部屋に一人戻り、準備を整える。これで魔王退治の旅が終わるはず。

そうなったら俺はどうするかな?


そんな取り留めのない事を考えていると、部屋に全員が入ってきた。

「勇者殿。」

「何、黄昏てるのよ。」

「兄ちゃん、大丈夫?」

「薬いるであるか?」

「まぁまぁ、みんな。勇者ちゃんだって一人になりたい時くらいあるわよ~。」

いつも通り、騒がしいような温かいような空気が戻ってくる。

それに安心しつつも、確認しなければいけない事がある。


「みんな。」

俺の一言に全員の視線が集まる。


「これから向かった先では、おそらく魔王が復活する。復活前に間に合えば

いいが、そうじゃない可能性もある。」

せめて近い場所にあれば、何とかなったかもしれないが……


「だから、今の内に「まだ、そんな事言ってんの?」」

詐欺師が言葉を遮る。


「私はお供しますよ、もちろん!」

「あんまり心配しすぎも良くないわよ~。」

「今更である。我が輩も一緒である。」

誰一人として、ここで別れるという選択肢を選ぶ気は無いようだ。


「悪いな。」

「もう!そういう時はありがとうだよ。それに……守ってくれるんでしょ?

えへへっ♪」

「……勇者殿?」

フィルの態度に何かを察知したのか、脳筋の眼が細められる。

さて、準備も終えたし、一足先に行くか。


「じゃあ俺は待ち合わせ場所に行ってるぞ?あと、脳筋は挨拶を済ませておけ。」

「あ、ちょ、勇者殿!?逃げた、逃げましたよ!?」

後ろから脳筋が叫んでいるのが聞こえるが、無視して部屋を出る。

最後に両親に軽く挨拶と礼をして、家を後にした。





「勇者ちゃ~ん!」

「遅かったな。」

「アンタが先に行くからでしょ!」

こうして集まったものの、待ち合わせの時間は昼。少し早く来すぎたか。

まぁいい。


「脳筋は?」

「アリアは、もう少し時間がかかるである。」

そうして五人で雑談しながら待っていると、少し遠目にサラがやってくるのが

見えた。


「みなさん早いですね。」

「そっちこそ。昼と聞いていたが……それが移動手段か?」

引っ張ってきたのは、やたら豪勢な客車が付いたダラ車だった。


「大きいである。」

「これはですね、特注で王族用に作られた客車を、ダラが引っ張っても壊れないよう

結合に改良を重ねたものでして……」

商売モードに入ったのか、熱を入れながら語り出した。


さて、首を洗って待ってろ。レリアも、魔王も。

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