第304話 ヴァディマールでの一幕

「あ、勇者殿。ここら辺って。」

エジオを抜けて数日、脳筋が何かを思い出したように喋り出す。


「ここがどうかしたか?」

「どうもこうも、ネアちゃんの村が近くにあった場所ですよ。もう一度

会いたいですね~。」

あぁ、そういえばそうだったな。


「だが、あの村の連中は移動したはずだから、もういないと思うが。」

盗賊や魔物の脅威から身を護るために、村人全員で村を離れる決断をしたから、

今頃はどこぞの村か街にいるはず。


「ネアっていう名前からして、また女の子かしら~?」

おい、やめろ。風評被害はなはだしい。


「えぇ、可愛らしい女の子なんですよ!もう何ていうか、自分の子供も

将来あんな子に育てたいなって思うくらいに!」

……チラチラこっちを見るな。

だが、ネアにはもう一度会いたい気もする。父親の方にはあまり会いたくないが。


「どうせなら一度、寄ってみませんか?」

「その村ってどこにあるの?」

「通り道から、少しだけ離れたところだ。多少なら構わんと思うが……いいか?」

一応は全員に確認を取ったが、構わないとの事だったので、寄り道をする事にした。





「ん?」

「どうかしたである?」

村の近くまで来ると【見識】に反応が出た。数は九。

……盗賊か魔物でもいるのか?


俺は全員に戦闘準備をするよう伝え、村の中に入って行き、反応のある方へと

近づいていく。そして、家の影伝いに移動していき、その正体を確認する。

「うわあああぁぁぁぁ!」

人間が二人、スライムに襲われていた。


「はぁっ!」

急いで駆け出し、スライムを切り裂いていく。人間の方はスターナが念のため

転移魔法で移動させた。


「これで終わりっと!」

フィルが最後の一匹を叩き潰したところで【見識】を使い、辺りを再度確認する。

「もう大丈夫みたいだな。」

反応は特に出ていないため、さっきので最後なようだ。


「あ、ありがとうございます。」

「なんてお礼を言えばいいか……」

襲われていたのは老夫婦。前にこの村に来た時には見た覚えがなかった。

忘れてるだけかもしれなかったので話を聞いてみると、妻の方がこの村出身で、

夫が立ち寄った時に一目惚れ。周りの反対を押し切り猛烈にプロポーズをして結婚。

元々、他の街で店を構えていた夫と暮らすため、若い頃に引っ越したそうだ。


「今では商売も子供や孫に任せて、一日ゆったりと過ごさせて頂いているのですが、

不意に懐かしい思い出がよぎってしまって……無茶を言って連れて来てもらったんです。

それが、まさか廃村になっているとは……」

ずっと昔にいなくなった人達だから、連絡しなかったのか、出来なかったのか。

責任の一端は俺にもあるし、なんでこうなったかの説明を二人にした。


「そんな事があったんですか。」

「悪いな。」

「いえ、お気になさらず。貴方はこの村の人達を救ってくれたのですから、

むしろ感謝いたします。」

夫婦ともども頭を下げて、礼を言われるとさすがに恥ずかしくなり、すぐに

顔を上げてもらうように頼んだ。


焦る俺を見てニヤニヤしてるヤツらは、後でお仕置きしておこう。

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