第298話 もしかして……

「フィル、いるか?」

「……兄ちゃん?」

ドアをノックすると中から声が聞こえた。

他の四人は別の部屋にいて、話しかけるには都合のいいタイミングだった。


「大丈夫なのか?本当に体調が悪いなら、無理しないでピッガに戻っても

構わない「いや、その……そういう訳じゃなくて、なんて言うか……今は、兄ちゃんの

顔が見たくないというか……」……俺が何かしたか?」

急に態度を変えられるほど、嫌われるような事をした覚えはないんだが。


「あ、誤解しないでね!?別に、嫌いとかじゃないんだ!ただ、ね……

本当にゴメン。しばらく放っておいてもらえると、ありがたいかな~なんて。」

「……わかった。ただし、何かあったら言えよ?」

「うん。ありがとう。」

会話を交わし終えた後、俺は部屋に戻る。が、


「今度はこっちに全員いない……まぁ、いいんだが。」

部屋はもぬけの殻で、トイレに行くと部屋を出る際、付いて来ると言った

サーシャまでいないのは不思議だが、たまには良いかと思い、ベッドに

横になって微睡まどろんでいた。





「みんな、どうしたの?……特にアリアは怖いんだけど。」


カチ、カチ、カチ、カチ……


次哉が去った隙を見て、フィルがいる部屋に乗り込んだ四人。アリアは眼が

笑っていない微笑みを浮かべ、何故か剣を持ち、親指で剣の柄を弾いて、

刃を覗かせたり納めたりしている。先ほどから部屋にその音が響き、恐怖心を煽る。

対称的に、スターナは満面の笑みでフィルを見つめている。

リュリュはどこか諦めたような、何とも言えない苦笑いをし、サーシャは理解が

追いつかないようで、頭の上にクエスチョンマークでも出てきそうな勢いだ。


「フィルちゃん。大変だったみたいね、ご苦労様。」

「あ、いや、はい?えっと、そちらこそ?」

急に労いたわられ、意味が分からないフィル。

「聞いちゃったんだけど、ジュッドに襲われたところを勇者ちゃんに

助けてもらったのよね~?その時、どう思った?」


「兄ちゃんは……初めて会った時もだけど、命の危機に助けてくれて……

自分も傷付いてるのに優しく言葉をかけられて、それを聞くだけで

不安が吹き飛んで、それから……」

そこまで言った後、急に熱を帯びて、熟したトマトよりも真っ赤になった顔を、

両手で包み込む。

「あれ?どうしよう、兄ちゃんの事考えると、顔が熱くなってきた。

やっぱりボク変なのかな?」

人生で初めての出来事に戸惑うフィルだが、周りの空気はさらに変わっていく。


カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ……

「勇者殿……ふふ。剥製に……私だけの……それとも目の前の……」

剣を弾く音が速くなり、ブツブツと喋っているが、断片的な内容だけでも

恐ろしい言葉を吐いている。


「あらあら、まあまあ、うふふふ~♪」

「私は別に……その、ね……」

スターナとリュリュは生温い空気と困惑の空気を出す。


そして、サーシャは……

「フィルはきっとヂュグワァが大好きになっちゃったである!」

爆弾を投下した。


「大好き……ボクが?え?……ぇぇぇぇぇえええええええええ!!」

宿が揺れたんじゃないかと思うほどの大声が響いた。

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