第287話 ありがとう

エーディの体が斜めにズレていく。

死ぬ事に対して何の恐怖すらないのか、ただ諦めたように地面へと別々に

崩れ落ちる。

「ごめん、サベル……すぐに会いに行くから……」

それだけを言い残して、エーディの体が黒い煙になり、消滅していく。


「か、はぁっ!あ……れ?」

アリアのバーサーカー状態が解け、体を酷使した代償に、その場にへたり込む。

体中が痙攣を起こしたようになり、上手く立っていられなかったのだ。

「アリアちゃん!」

そこにスターナとサーシャが走ってくる。


「大丈夫!? ケガは平気!?」

「えぇ、何とか。それよりも……」

アリアの視線は祖父の元へと向かい、呆然と立ち尽くすサーシャに向けられた。


「サーシャちゃん。その……ゴメ「謝らないでほしいである。」……え?」

アリアの言葉は遮られ、それほど怒りに震えているのかと、怖くなった。

が、サーシャの言葉は予想と違っていた。


「アリアのおかげで、おじいちゃんは魔王から解放されたである。

だから、謝らないでほしいである。」

「サーシャちゃん……」

「それに……おじいちゃん、最後はアリアを助け、助けようとし、ひっく……

うぇ……う、うぇぇ……」

体が動かないアリアの代わりにスターナが近くまで寄っていき、小さな体を

抱き寄せる。


「そうね。きっとアリアちゃんを、それにサーシャちゃんの事も守ろうと

してくれたのよ。あなたのおじい様は、とても立派な方よ。」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

サーシャは感情のままに泣き続け、しばらくの時が経った。





「……もう大丈夫である。」

「そう?」

涙でぐずぐずになった顔を拭き、祖父へと向き直るサーシャ。


「いつまでも泣いていられないである。それに……おじいちゃんを早く

休ませてあげないと。」

「そうですね。私の命の恩人でもありますし。」

「アリアちゃん、記憶があるの?」

「ほんの僅かですが、助けて頂いた事はしっかりと。」

動きたくないという体に鞭打って、傍まで寄ってきたアリアは祈りを捧げる。


それからエーディが持っていた、転移魔法を阻害する石を壊し、遺体を

小高い山の上に転移して連れてきた。

「随分と眺めがいい場所ですね。」

「ここはおじいちゃんが好きだった場所である。ここならきっと喜んでくれる

と思うである。」

スターナの魔法を駆使して、適度な深さの穴を掘った後、遺体を埋葬する。


「じゃあ、一泊してから勇者ちゃん達のところに行きましょうか。」

「そうですね。向こうも大変な事が起きてなければいいんですが……」

三人は一旦、サーシャの家に戻る事にし、その場を後にしようと振り返る。



”サーシャ、すまんかったの。ありがとう……”



「? サーシャちゃん、どうしたんですか?」

何故か立ち止まり、もう一度墓へ目をやるサーシャにアリアが尋ねる。


「今……」

おそらくサーシャにしか聞こえなかったであろう声は、聞き間違えるはずのない

祖父の声だった。



「おじいちゃん……私も、今までありがとう。」

元の口調に戻り、全ての感謝を込めた想いを伝え、二人と山を下りて行った。

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