第277話 噂話

「ここが国境の国か。」

「はい。ここの門を抜けるとクアーズ王国に行けます。」

数日かけて、俺達は目的の街までたどり着いた。


「それじゃあ、さっさと向こうに渡る手続きをしちゃいましょうか~。」

「そうだね。この街の食事にも飽きちゃったから、外の食事も

食べたいし。」

確かに、外から来た人間用の食堂はあったが、メニューはどこも代わり映え

してなかったから、全員飽きてきてたな。一番の目的はそれじゃないが。


それはともかくとして、俺達は手続きを行い、待合室で椅子に座り順番待ちを

していた。

「次の国で回るところは最後ね。」

「魔王の情報が見つかればいいんですが。」

「そうであるね。」

サーシャは俺の足の上に乗っかり、足を揺らしながら鼻歌を歌っている。

「いいなぁ……」

脳筋が何かつぶやいたような気がするが聞こえなかったな。

そうして時間が経った頃、俺の隣に座っている商人が小声で話をしているのが

やたら耳に響いてきた。


「クアーズ王国か……今、行きたくないんだよな。」

「どうしてだ?鉄やら何やら高値で買ってくれるし、稼ぎ時じゃねぇか。」

「バカ、お前そんなのが売れるって事は戦争の準備をしてるって事だろうが。」

「いくら何でも、んなこたねぇだろ。四年前にやらかしたばっかりだしよ。」

「商人なんだから、商品が売れてよこした情報は信じろよ。それによぉ……

なんか知らねぇが薄気味悪い奴らが増えてるような気がするし。」

「薄気味悪い?」

「顔に生気が無いというかなんというか、ボーっと突っ立ってるだけで、

こちらの質問に淡々と返事を返してくるだけのヤツ。」

それは……


「おい、それはどこの話だ?」

俺はその商人達の話が気になり、横から割って入った。

「い、いきなり何だ、アンタ?」

「その生気が無いヤツはどこで見たんだ?すまんが、教えてくれ。」

俺の行動に商人や脳筋達も驚いていたが、どうしても確認しておかなければ

いけない事だったので、再度確認する。


「ごめんなさいね~、ちょっと驚いたかもしれないけれど、答えてくれると

ありがたいのだけれど。」

「あ、え、ああ。首都での話ですよ。」

スターナのフォローが入って、教えてもらったが……首都か、マズい事に

なっていそうだ。


「悪かったな。」

「あ、いえ。」

その会話が終わって、ちょうど俺達の順番が回ってきたので、軽く礼だけ

言って、その場を後にした。


「勇者殿、さっき商人の方に何を聞いたんですか?」

「気にするな。」

生気のない顔でボーっと立ってる……以前に夢で見た光景を思い出す。

エーディとサベルが街を出る前に、国を見つめていたのを。

もし、あれと同じ状態になっているのであれば、魔王の影響が広まってるのか?

確信はないが、不安だけが残る。

サーシャには悪いが、先に首都に向かう事を決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る