第274話 真・勇者の冒険

「これは……」

その本は表紙が黒塗りになっており、他の本とは別の異様な雰囲気を感じた。

だが【鑑定】で見てみても、本としか表示されず、中が分からない。

俺は意を決してページをめくる。そこに書かれていたのは……




”勇者の冒険”




思わず、肩の力が抜けた。何でこんなところに絵本が?

その事に違和感を感じ、内容を思い出しながら続けてめくっていくと、

途中で内容が変わっているのに気が付いた。




……いろんな仲間や女神ティリアの助けを受けて……




「この絵本だと、ティリアが助けた事になってるな。」

市場に出てた物には一切書かれていなかったはずだ。俺はさらにめくる。




……魔王の身体が崩れていき、ついに消えてしまいました。

「やった!僕達は勝ったんだ!」


そして戦いの後、ティリアは魔王が二度と復活しないように、消滅した

場所に封印を施し、勇者達に祝福を告げた後、どこへともなく

去っていったのです。

勇者は魔王を倒した証拠として、身に付けていた宝玉を手に凱旋しました。

こうして世界の平和は守られた――はずでした。


魔王を倒して時間が経つほど、すべてがおかしくなっていきました。

どこからともなく魔物が現れ、人々は狂ったように振る舞ったり、生気なく

操られたように蠢いているのです。


何より恐ろしいのは――人が魔物になっていくのです。

人間の形が保てなくなり、異形となり果てる人が絶えませんでした。


そうです。ティリアは封印に失敗したのです。

ティリアは思い違いをしていました。魔王の存在を深く考えずに封印を

施しただけで、去っていったのだから無理もありません。

それに気付いた勇者は誰にも告げずに、旅に出ました。自分の身を犠牲に

魔王を再封印すると決めていたからです。


旅の終わり、ついに勇者は魔王とともに眠りにつきました。

ティリアは自分の失敗を恥じ、自分の犠牲により魔王を倒そうとしましたが、

願いは叶う事がありませんでした。


勇者が眠った地には安息が訪れ、人々の笑顔で溢れている事でしょう。

しかし忘れてはいけません。

魔王は滅びぬと……復活すると言った事を。





何だコレは?つまり、ティリアが失敗して魔王が生きてたって事でいいのか?

確かに外に出す訳には行かない本だが、こんな物がある理由はなんだ?

燃やすなりなんなりすればいい物を……それにこの本は誰が書いたんだ?

「疑問しか湧いてこないな……」

その時、後ろの方で物音がした。


「お前か……何でここにいる?」

振り返って確かめると、さっき見て追いかけた人影の正体。

「勇者殿こそ。随分と久しぶりの顔合わせが、このような場所とは……

単なる偶然ではありえませんからね。」


ヴァファール王国一の占い師、レリアがそこにいた。

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