第263話 本当は……

しばらくスターナとナデュの言い合い……というか、ナデュが一方的に

まくし立てていただけだが。それが一区切り付き、荒い息を整えようと

必死だったので、俺から先に提案してみる。

「イオネに向かって調査してもいいか?」

どうせ俺から言わなくても、話の流れから頼まれそうだったし、何より

スターナも行きたそうにしている。


「本当ですか?助かります。」

「その代わりと言ってはなんだが、頼みがある。戻ってきたら、

この塔の中を調べさせてくれ。」

「ある程度であれば、僕の権限で可能です。それで何について調べるんですか?」

「何について……か。特に目的というほどの物も無いんだが、あえて

言うなら魔王関連だな。」

最終的には、そこに行き着くからな。

その話を聞いたナデュは、戻ってくるまでには手続きを済ませておくと

答えた。交渉も終わったなら、とりあえずイオネに向かうとしようか。

そうして宿に戻り、明日の朝に出発することにしようとした。

だが、ナデュから止められる。


「ちょ、ちょっと待ってください!スターナ様を一般の宿に泊まらせる

つもりですか!?」

言われればそうだな。いくら上流階級御用達の宿とはいえ、一国の主を

泊めるには格とでもいうべき物が少し足りないのかもしれない。

……スターナの性格がこんなだから、俺も忘れていた。さすが常識人。

それからナデュが塔の中に部屋を用意するので、スターナだけでも

そちらに一晩過ごしてくれと懇願してくるが、対するスターナは絶対嫌だの

一点張り。まあ性格っていう話も理解できるな。


「どうしてスターナ様はそんなフラフラしてるんですか!いいですか、

女王としての意識をちゃんと持ってないと、結婚する時とか絶対大変ですよ!」

「結婚なら大丈夫よ。勇者ちゃんがいるもの~。」

「……え?」

驚いた顔で俺を見られても困る。


「その結婚云々は勝手に言ってるだけだがな。」

「でも、考えてくれてるんでしょ?」

今の二言三言の会話で空気がやけに重くなった気がする。脳筋は微笑みながら

ブツブツと「もういっそ、どこかに閉じこめた方が……」とか言ってるし、

詐欺師は冷めた視線、サーシャは俺に抱きついてくるし、フィルは我関せずだ。

誰かどうにかしてくれないか?


そうやっていると、ナデュが小刻みに震えてこちらを睨んでいたが、

「お、覚えてろぉ~!」

捨て台詞を残して走り去っていった。


「どうしたのかしら、ナデュちゃん?」

スターナは走り去った方を見ながら、心配をしている。


「あ~あ、酷いんだ。」

「……どう考えても俺のせいじゃないだろ。」

「スターナの事、好きだったのかな?」

「いえ、あれはどちらかと言うと、大好きな姉に甘えたいけど、素直に

なれない内に、恋人を連れてこられたっていう感じだと思いますよ。」

よく分からんが、そういうものか?


「結局、宿に戻るである?」

サーシャの言葉にこれからどうするかを考えていたのを思い出して、

俺達は宿に戻る事になった。

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