第257話 母の心、子知らず

「さて、じゃあとっとと出て行っちゃいましょうか。」

俺達は朝早くに起き、もう町の外に出ていた。あんな場所で朝飯をゆっくり

食う気にもならない。

「次はどこに向かうのかしら~?」

「さっさと、次の国に向かった方がいいだろう。」

「ティリア宗教都市ね。ここからだと七日程度かしら。」

それを聞いて、さっさと歩き出そうとした俺達の後ろから、馬車の足音。

振り返るとゲイル達だった。


「もう出発するのかい?」

「そうである。」

「では、乗っていくといい。目的地まで送ろう。」

「いいのか?」

そうしてバッガを見ると、無言でうなずいた。無口なのは、どうやら変わって

いないらしい。もう少し饒舌になってもいいと思うが。


「では、お言葉に甘えさせて頂きましょう。」

「そだね。よっこいしょっと。」

全員が乗り込むと、馬車が動き出したが、詐欺師はしばらく王都の方を

見続けていた。


「挨拶くらいしないでよかったのか?」

「へ?……あぁ、まぁ大丈夫よ。一生会えない訳じゃないんだし。」

「そうか。」

少しだけ寂しそうな顔をして言う詐欺師に、俺はそれ以上の言葉を掛ける事が

出来なかった。





「よかったのですか?」

「これは王妃殿下。」

ずっと先を行く次哉達を見ていたリュリュの母。そこにやってきたのは

平民ではそう簡単に口を聞けないはずの王妃殿下だった。


「かような場所に来られても大丈夫なのですか?」

「問題ありません。」

王妃殿下は護衛も特に付けず、お忍びでリュリュの母親に会いに来ていた。


「それにしても、どうして彼らの力に?国宝のベルまで、誰にも知られない様に

渡したりして……」

「私の予知できっと必要になるかと思ったからです。」

現在の王妃殿下は、歴代で見れば力が強い方ではない。

だが、十数年に一度だけ、未来視ができる能力を持っていた。


「詳しくは視きれませんでした。ですが、リュリュさんには必要になってくる

物だと思います。」

「……ありがとうございます。」

頭を深々と下げ、礼を言う。


「あの子に代わって私からお礼を。」

「必要ありませんよ。私は私が視たもののために動いただけですから。

そのために夫にも黙って、息子が怪我するのを放っておいたのですから、

親としては失格かもしれませんが。」

王妃殿下は未来で、アデントが酷いケガを負う事、理由、その後の事を

視ていた。

「でもバカ息子には、良い薬になったでしょうから。ね?」

「……その……」

「あら、大丈夫よ。思った通りに言ってくれても。事実そうだし。夫が

甘やかすから、あんなに性格ひん曲がっちゃって、まぁ。」

娘を危険な目に遭わせたため賛同したいところだが、さすがに王妃殿下の

目の前では無理だった。


「それでね、聞いてくれるかしら!あの子ったら……」

「はぁ……」

それから小一時間、娘の無事を願いながら王妃殿下の愚痴を聞くリュリュの

母であった。

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