第235話 旅の行商人

「さて、行くか。」

「そうですね。」

俺達は、あの宴会の後しばらく経って町を出る事にした。

イフリートに関しては言いたい事を言ったら、さっさと消えたので、特に

別れの挨拶すら済ませていない。

アイツだし、いいか。という空気も流れていたしな。


「それより本当にいいのか?」

「うん。ボクもついて行くよ。」

フィルは家族と話し合って、俺達と一緒に旅をする事にしたそうだ。理由は

せっかく神鉱石で武器や防具を作ったので、色々と試してみたいっていうのは

ドワーフらしいというか、フィルらしいというか……


見送りにはバルド、ドゥーダ、それに町のドワーフ達が十数人ほど

集まってくれた。

他の連中は、今頃になって寝だすか、少し前に寝ていて家族に仕事をしろと

ボコボコに殴られている最中かのどっちかだ。

「では、気を付けての。」

「うん。親父も若くないんだから無茶しないようにね。」

「たまには手紙くらい寄越せよ。」

フィルも二人との別れを済ませ、手を振られながら町を離れた。





「さて、これからどこ行くの?」

「そうね、やっぱり王都かしら~。」

まぁ、そこが無難だろうな。何せ、

「こっち見ないでよ……はぁ~、分かってるわよ。今さら行かないとかないから。」

詐欺師を一旦帰してやらなければな。


「王都だったら、ティリア宗教都市に近いね。こっからだと、二十日くらい

かかるんじゃないかな?」

「結構、遠いであるね。」

俺もそこまで遠いとは思ってなかった。


そうして歩いていると、馬車の音が遠くに聞こえた。

その馬車はどんどんと接近してきて、近くで止まると、一人のコボルトが

声を掛けてきた。

「あ……あの~、商品はいりませんか~……?」

ずい分と気弱な感じで。


「あ、申し遅れました。自分は旅の行商人をやっております、ネディと

言いますです、はい……」

そのコボルトはウェルシュ・テリアに似ていて喋るたびに、耳がピコピコと動く。

……和む。


「あの……それで商品なんですが……」

初対面の人間に馬車を横付けして売り込むなんて豪快な真似をする割に、

弱気なのは何故だろう?


「でも私達、少し前に町を出たばかりですし。」

「どうするである?」

「まぁ見るだけなら問題ないだろ。」

「ありがとうございます……」

そうして馬車にかけられた布が取り払われ、商品がお披露目される。


「へぇ。あまり見ない物も売ってるね。」

「あ、勇者殿!」

「ん?」

商品を見てすぐに、脳筋が声を上げる。

「あの、これ、欲しいです……」

それは指輪だった。


「……自分で買ったらどうだ?」

「勇者殿に買って欲しいんです。」

俺の服の裾を摘みながら、少し上目遣いで要求される。

「お願いします……」

「……わかったから、じっと見るな。」

少しも視線を外されないと、気まずいにもほどがある。


「あら~。じゃあワタシも欲しいわ~。」

「我が輩は……指輪はむりであるから、何か他の物がいいである。」

「その指輪に関しては、一つしかないんですよ……ですので、他の商品を。」

なんやかんやと騒がれ、脳筋には指輪を、スターナには別の指輪、サーシャには

チョーカーを買う羽目になった。フィルは特に欲しい物がなかったようで、

特に必要ないとの事だった。


「詐欺師。」

「……」

「おい。」

「うっふぉ!何!?」

「お前は買いたい物でもあるのか?」

「無いわ、うん無いわね。無いわよ。」

そう言って馬車から離れていった。様子がおかしい詐欺師が見てたのは薔薇に似た、

小さな花だった。

確かアッセムドゥの屋敷でも薔薇がどうのと綺麗だのと言ってたな。

何か思い出でもあるのか?

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