第201話 少しだけ寄り道

まだ買い物を続けている他のメンバーを置いて、俺は魔法屋へと足を向けた。

「いらっしゃ……人間?」

「悪いな、客じゃない。」

あの後、服屋の店主に聞いた話が気になったからだ。


「アンタの兄から少し聞いたんだが、住んでた場所が寒くなったと言っていた

水精霊の事について教えて欲しい。」

「あぁ、その事か……」

魔法屋は、この町では少ないため、必然的に精霊の常連ができるらしいのだが、

ここから一日ほど歩いた場所にある、森の湖畔近くに住んでいる家族が、

寒くなる前から顔を見せないという。


「一か月ほど前だったか、何か家の周りが急に冷えてきたなんて話を聞いたが、

この暖かさで、そりゃねぇだろって思ってたから、気にしてなかったんだ。」

「なるほどな。」

「様子を見に行こうにも、店があるから朝昼は離れらんねぇし、夜に森の中に

入るにゃ、ちと腕がないし。そういや、兄貴はなんでアンタにそんな話を?」

「俺が勇者とやらだからだろうな。」

「そうなのか?」

魔法屋の店主が、カウンターの向こうから少しだけ身を乗り出してくる。


「だったら、人助けだと思って様子を見てきちゃくんねぇか?もしかしたら

この寒さの原因が突き止められるかもしれねぇし。」

「その常連の事を気にかけてるんだな。」

「上得意の客を心配するのは、商売人のさがってもんよ。」

商魂たくましい事だな。



「あ、勇者ちゃん。」

「アンタ、どこに行ってたのよ?」

「お前らが服選びに時間を掛けすぎだったから、少し散策してただけだ。」

服屋に戻ると、さすがに選び終わってたらしい五人が、俺を待っていた。

詐欺師とスターナはロングコート、サーシャは確かポンチョといったはず、

それを買っていた。


「脳筋とフィルは見た目に変わりないな。」

「鎧を着てる時に、あんまりオシャレは出来ないんです……」

「ボクもだよ。はぁ~あ……」

厚手で保温性が高い鎧下を重ね着して防寒しているらしい。


「まぁいい。ところで頼みがあるんだが。」

「頼みである?」

「シルフのところに行く前に寄り道をしたい。」

「それは別に構わないけど、どこに?」

俺は服屋と雑貨屋の店主に聞いた話を伝えた。


「それはちょっと心配だね。早めに様子を見て行ってあげようか。」

「そうね~。」

特に反対意見も出なかったので、森の湖畔というところまで行く事になった。


「でも、まぁ行くとしても今日は一旦、宿に泊まろうか。」

「そうですね。今、町を出て行っても、すぐに野宿になりますし。」

「服選びを早めに終わらせたら、さっさと行けたんだがな。」

「女の子の買い物を待つのも男の甲斐性でしょ。我慢しなさい。」

多少だったら待っても構わないが、さすがに四時間は掛けすぎだろ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る