第183話 まだ序盤

「暑いわね~……」

「そうですね。この装飾具のおかげで、ある程度はカバーできてるはずなんですが、

それでも、これだけ暑いと気が滅入ってきますね。」

洞窟の中を歩くと、周りの熱で暑くなってくる。


「この洞窟は、ところどころに休憩場所があるから、もうちょっと頑張って。」

「休憩場所?」

「周りが岩で囲まれてるだけなんだけど、熱が遮断されてキャンプのベースに

うってつけのところなんだ。」

それは助かるな。なんせ、ヘルハウンドがちょくちょく襲ってくるのと暑さで

あまり進み続けたい場所でもない。


最初にヘルハウンドを倒してから、体感時間で約二時間だが、その間に八回ほど

ヘルハウンドと戦闘になった。強敵ではないといっても、面倒くさい。

「でも、まだ入ったばっかりよね~。」

「我が輩、涼しいところの方が好きである……」

手や足が毛で覆われているサーシャは、この洞窟が苦手らしい。


ちなみに、スターナの転移魔法は使わない。

火が吹き出たり、溶岩が流れているような場所だから、跳んだ時に事故が

起こった場合、回避しようがない。

そういう時こそ、地に足が付いてる方が対処しやすいしな。


そうやって進んでた俺達の前に、大きなイノシシが現れた。

「あ!ナイスタイミング!」

フィルが叫ぶなり突っ込んでいった。

だが、相手はこちらを認識すると、反対方向に逃げ出した。


「誰か、倒して!」

「は~い、お任せ~。」

スターナの魔法で麻痺状態にさせられたイノシシは、抵抗もできないままに

倒れこむ。


「やったね、ゴハン確保!」

このイノシシは洞窟内に生息する、フレイムボアという魔物で、性格は臆病。

見つかるとすぐに逃げるらしいのだが、肉は美味くて、捕まえると食材の

節約にもなるので、できるだけ遭っておきたい魔物らしい。


「んっふふ~、幸先がいいね。休憩場所も近くだから、このまま進もう。」

フィルはイノシシにとどめを刺した後、引きずりながら先へ進む。

その光景に、多少の同情を覚える。



そうして、フィルの言葉通りに辿り着いてみると、

「涼しいである。」

「昔の冒険者が休めるようにって、岩に特別な処置が施したらしいんだ。」

なるほど。あの暑さの中、十日以上も歩ける訳がないしな。


体力が減りやすい洞窟の中では、こまめな食事と水分補給は必須だ。

水は魔法で出せるからいいとして、食事――特に塩分が摂取できないと、

命に関わる。

それを防ぐために、塩は多めに持ってきて、保存食も塩漬けの物が多いのだが、

フレイムボアがいると、一気にその問題は解決する。


「コイツの血は通常の動物よりも塩分が濃くて、塩をかけなくても十分な量を

摂取できるんだよ。」

俺達からすれば、まるで食料にするために生まれてきてくれたような魔物だな。


実際に今、調理して食べている肉は美味いし、塩味も濃い。

「フィルは何回か来てるの?」

「子供の頃にね。でもやっぱり、魔物が活発化してる。」

「そうなのか?」

「だって、前はあんなにヘルハウンドに襲われたりしなかったし。」

確かに多過ぎだな。


「この調子だと、少し時間がかかるかもね。」

「でも魔物自体は強くありませんし、難しく考えても仕方ありません。」

「そうね、とりあえず進み続ける事だけ考えましょ。」

俺達はイノシシの肉を食べた後、少し食休みを挟んで、また歩き出した。

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