第155話 バルトの思い

「主の治療をして頂いたのに、大変なご無礼を致しました。どのような

処罰でもお受けします。例え命が欲しいと言われても、差し出しましょう。」

「そんなもん、いらん。」

あれから下にも置かない扱いを受け、やたらと腰が低く接してくる。

正直、勘弁してほしかった。


ケヴィンは今、脳筋とサーシャと一緒に庭で鬼ごっこをしている。

ずっと体が弱かったから、スタミナがないんだろうか、すぐに立ち止まり

息を荒くしているが、思った以上に動くのが楽しいらしく、止めることをしない。

詐欺師とスターナはケヴィンの応援をしながら、茶を飲んでる。

「あんな嬉しそうなケヴィン様を見る日が来るとは思いませんでした。」

まぁ結果良ければ全て良しってところか。あ、コケた。

……脳筋が。なぜお前がコケる?


今日は朝からサラの姿を見ていない。まぁケヴィンの体が良くなったの

なら、サラも無事に産まれる事ができたんだろう。心配してもしょうが

ない。

それよりもお礼にと、その日も泊まっていってほしいと言われたので

承諾し、眠りについた次の日。

「勇者殿!た、た、た、大変です、寝てる場合じゃありません!」

脳筋の騒ぎ声に目を覚ます。


「……どうした?」

「や、屋敷が!ケヴィンさんとバルトさんも!」

寝ぼけた目を開き、周りを確認すると、屋敷は風化して廃屋になって

いた。俺たちが使ってるベッドだけは、都合のいい事にほとんど汚れも

見当たらなかったが。


「どうなっているのかしら~?」

「ホラーは苦手なんだけど……」

スターナと詐欺師も訳が分からないといった感じだが、記憶はある

みたいだ。

あの巻き戻りからは脱出できたっていう事でいいんだろうか?

それから気になっていた物を思い出し、書斎に向かう。


「あった。」

書斎にあったボロボロの日記、ただし書いたのはケヴィンではなく、

バルトだった。



○月×日

とても不思議な出来事だった。

昨日、夕刻に訪ねてきた方々の中に混じっていた男性。

その方がケヴィン様の病気を知っていて、さらに薬まで用意されていた。

どんな医者に見せても、匙を投げられたのに、その薬を飲んだ翌日には

ケヴィン様の体調は良くなっておられた。

その夜、いつの間にか姿を消されていたのだが、女神様の遣いだったの

だろうか?


△月□日

本日、ケヴィン様のご子息が産まれた。

ご両親やレーグル様とも少しのすれ違いはあったが、今ではご家族全員で

笑い合える事のできる仲になっている。

これも、いつぞやの方々のおかげだろう。感謝してもし足りないくらいだ。

私もモーグレット家に仕える執事として、これからも粉骨砕身、

気を引き締めていこうと思う。


◇月◎日

私はもうすぐ死んでしまうだろう。

八十年もの間、モーグレット家に仕える事ができて幸せ者だ。

ケヴィン様も見舞いをして頂いて、心配をかけてしまうのが心苦しいが、

寿命というものには勝てない。

愛するアウレア様、あなたのご子息は逞しくなられました。腹違いである

レーグル様とも力を合わせ、家業の商会を成長させていき、お孫様も

わんぱくながら、優しい子になられています。

もうすぐ私も、あなたの元へ行く事になります。できるならば、その時

こそお傍にいられるよう、願います。



それ以降は何も書かれていなかったが、代わりに絵が一枚だけ、挟まれていた。

とても綺麗な女性の絵だった。

おそらく日記の中に名前があった、アウレアという人だろう。

人の過去を覗き見るのは、趣味が悪いとも思ったが、これでモーグレット家が安定したのを知って、元の時間に戻ってこれたのを実感できた。


多分、片思いしてた相手の子を守ってたんだろう。

「勝手に見て悪いな、誰にも言わないから恨むなよ?」

日記を元の場所に戻し、俺は玄関へと向かった。

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