第83話 非凡な午後

昼過ぎにタイミングを見計らって、詐欺師が部屋に入ってきた。

「やほ~。」

「来たか。」


詐欺師には朝、部屋を離れる際に海賊船の内部を調べてきてくれと頼んである。

「どうだった?」

「う~ん……ここの人達、海賊じゃないかもね。」

「やはりか。」

「そうなんですか!?」

脳筋が驚く。例によって声がデカい。


「静かにしろ。周りに聞こえたらどうする。」

「すみません……」

「船の中身は小綺麗、捕まえた相手に地図とかを整理させる。

それにサーシャに飯を作らせたしな。」

「何がいけないんですか?」

「普通、何をするかわかんない相手に自分達の荷物を触らせないわよ。」

「食事は我が輩が毒とかを混ぜるかもしれないからであるか?」

「そういう事だ。」

それを聞いて頷く脳筋。


「となると、海賊って何者なんですか?」

「さあな。ただ、思ったより警戒心がないのを見ると、俺達が誰かを知ってる

可能性があるな。とすると、ウルム王の差し金ってところじゃないか?」

「え!?」

いつも以上に声がデカい。


「アリア、声が大きいである……」

「耳が、耳がぁ~!!」

至近距離で食らった詐欺師が地面をのたうち回ってる。


「お前な……」

「申し訳ないです……」

さすがに今の声はデカ過ぎたらしく、見張りが扉に近寄ってきて、

「おい、うるせぇぞ!!」

と、怒鳴られた。

「ごめんなさい……」

さっきから謝ってばかりだな、コイツ。


見張りが離れたのを確認して話を再開する。

「詐欺師、目的は何か分かったか?」

「魔石の採掘をしてるみたいね。」

「魔石?」

「倉庫に大量の魔石があったからね。」

魔石ってあれか、魔法を封じる事のできる石だったな。

そんなものが、ここにあるのか?


その時、

「キャァァァァァ!!」

女の悲鳴が聞こえた。

「女?海賊は男しかいなかったろ。」

「でも、どこかで聞いた事があるような……」


部屋の外が騒がしくなってきた。

「しょうがない、出るか。」

「でも、どうやって脱出……」


メギャ!


ドアノブを力を込めて回したら取れた。

「行くぞ。」

三人が呆けてる。


「勇者殿って本当になんなんでしょうね……」

「もう逆に尊敬しちゃうわ……」

「もうちょっと人間らしくして欲しいである。」

文句が多いな。


とにもかくにも脱出した俺達は海賊に見つからないように甲板に向かう事にした。

「人の気配がなくなってるな。さっきまで騒がしかったのに。」

「さっきの悲鳴といい、やはり何かあったようですね。」


そして甲板にたどり着き見たものは、セイレーン達とイカだった。

イカと言っても海賊船よりもデカく、大砲で近寄らないようにするのが

精一杯らしい。

「クラーケン!?なんでこんなところに!」

このままだと船が沈められる恐れがあるので、俺も外に出た。

「お前ら!?どうやって「話は後だ。アレを倒す。」ちょっと待て、オイ!!」


最初に使った魔法を思い出す。確か、

「水よ。深き生命の源よ。我が前に立ちふさがりし愚かな魂を

貫き滅ぼしたまえ…

アイススピアー!」


ミチィッ!ブチッ!


「ピュゴオォォォォォ!」

氷の柱がクラーケンに当たり、足や身体を引きちぎっていく。

それでも死んでないのか海にもぐろうとしたので、甲板から飛び出して

思いっきりぶん殴った。

あっという間に胴体も分解されて、もう動かなくなっていた。




「おい……アイツよぉ……」

「なんとなく言いたい事は分かります。」

「アイツに常識を当てはめちゃダメよ。」

「諦めるである。」

勇者殿の姿を見た全員の心が一つになった気がする。

”魔物の方がまだ可愛い”と。

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