第75話 セイレーン(団長視点)

「おい、何なんだよさっきの風は?」

「せっかく呼び寄せた雲が吹き飛んじまったじゃねえか!」

長年、サーカス団の団長をやって来たが、こんな事は初めてだ。


「ちょっと、どうなってるのよ!」「楽しみにしてたのに!」

セイレーン達が怒っている。

「すみません、儀式自体は成功してたんですがね。さっきの暴風で雲が

無くなっちまって……」


「こっちはお金払ってるのよ!せっかく大量の獲物が取れる時期だっていうのに!」

そう、セイレーンはその歌声で航行中の船を遭難させて、人を食事にするという

魔族。

知恵はあるので魔物扱いされないが、その分厄介な存在となっている。


「あ~あ、これでしばらくはご馳走が食えなくなるじゃないの。」

「申し訳ない。」

ウチのサーカス団も慈善事業じゃない。

食われる人たちは可哀想だが、金を貰ってる以上は仕事として割り切っている。

「でも、どうしよっか?」

「そうね~……」


セイレーン達がひそひそ話をし始める。

嫌な予感……

「じゃあ……あんた達を食べさせて?」

ほら来た!


「いやいやいやいや、ほら私どもがいなくなると次回の雨乞いが

できなくなりますよ!?」

「他に雨降らせられるヤツ探すし。」

「私達、不味いですよ!?」

「食べてみないと分からないじゃない。」

話が通じない!


団員達に目配せをする。そして、

「逃げろ!!」

「「「イエッサ!!」」」

逃げ出そうとするが、

「させるか!」

セイレーンの歌が聞こえる。


「うお……」「くう……」

全員、男なのが災いした。歌の効きが速攻で体中に回る。

身体は動かない、意識も朦朧として……こんな可愛い娘に食べられるなら

それでいいかもなんて思っている自分に気付く。


「おとなしくなった。」「ケンタウロスとか上半分だけしか食えないんだけど。」

「ミノタウロスは顔から下だけだわ。」「ワーウルフは……食えるの?」

「じゃあやっぱりコイツが一番のご馳走ね。」

食える部位を相談してる。俺はどの娘に食べられるのかな?

「まぁいいや。ともかく……


いっただっきま~「見つけたぞ。」」


誰だ!?

見ると男が一人、抱えられた子供が一人、首根っこを掴まれた女が一人の計三人。

それに袋がガサガサと動いていた。


「わぁ~お!食事が増えた!」「アレも全身食えるよね!?あたし食べたい!」

セイレーンの興味もそっちに移った。

「いただき!」「あ、ずるい!」

一人のセイレーンが男に襲い掛かる。が、


「痛い!離してぇ!」

頭を鷲掴みして持ち上げてる。

馬鹿な!セイレーンは半人半魚の魔族だぞ!?ここが陸上とはいえ、人間が力で

勝てる相手じゃないはず!!


「何すんのよ!」「女の子に暴力振るうなんて酷いじゃない!」

そう言って残りのセイレーンも襲い掛かる。

しかし、

「いぎっ!」「ぎゃっ!」「むぐっ!」

剣を鞘から抜かずに振り回して倒してる。


「こうなったら……」

一人のセイレーンが歌いだした。


【誘惑】をラーニングしました。


気にせずに男がセイレーンに向かって歩いてくる。

「えっ!?嘘!あぎ!」

ついに最後の一人も倒された。

コレはつまり……私達も助かった!?


セイレーンが倒された事でサーカス団全員が動けるようになり、意識も戻った。

私は男の元に向かう。

「いや、ありがとう!助かったよ!君は何故こんなところに?その人達は?」

子供と女の方を見ると目がうつろで、

「こ、怖かった……」

「ソラ、ソラヲトブ……イヤ……」

ずっと同じ事を呟いていた。


私は言い知れぬ何かを感じたが、男は構いもせず袋を開け中のものを地面に

振り落とした。

「ウ……ぎぼぢ悪い……」

妖精が一人と……

「リディアル!?」

「すいませんでした、助けてください、すいませんでした、助けてください……」

いなくなったはずのサーカス団員の姿がそこにあった。


男は私達を見て言った。

「次はお前達の番だ。」

そこから先はよく覚えていない。

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