第354話: 柱破壊計画4
辺り一帯は柱倒壊時の粉塵と爆炎と毒霧で充満していた。
それを好機とし、拘束から脱出した私は目眩しの黒煙を連続で畳み掛ける。
「くそっ、伏兵がいやがったのか。おい、何も見えないぞ!」
「あらら、あれは破壊されちゃ不味かったんじゃないか?」
「何も見えねえ、魔術隊! 早くこの鬱陶しい煙を吹き飛ばしやがれ!」
所詮は寄せ集めの集団。一度混乱すれば脆いね。さて、作戦は成功したから迅速にこの場から離脱する。いつまでもこの場にいる意味はない。
姿を消し、気配を殺す。それにしても敵さんの数が多い。少し遠回りにはなったけど、何とか落ち合う場所へと辿り着いた。
暫く皆が来るのを待ったが、誰一人として現れなかった。誰も来ないということは、つまりはそういうことなのだろう。
(オディール、東の柱を破壊した。次の指示を頂戴)
(ははっ流石だな。残りはここ、南側だけだってのに、大部隊の待ち伏せにあってな、手を焼いている。お前たちもすぐに来てくれ)
これで残りの柱の数は一つ。それを破壊すれば、この魔界が崩壊するらしい。私たち一族を陥れた奴等全員に仕返しすることが出来る。
これは喜ばしいこと⋯なの?
うーん?
何故だろう、一族の悲願だと教えられたからなのか、私本来の考えを強引にねじ曲げられているような妙な感覚ね。
(了解。
(なに、一人だと? 他の者はどうした?)
敵に囲まれ別々に逃げて、集合場所に現れなかったのだから、たぶん全員やられたのだろうとオディールに私の推察を報告する。オディールは少しの沈黙の後、最後の柱の場所を私へ告げた。
《
最後の場所へと向かう道中、背後から何者かの気配を察知したかと思えば、私は相手の不意打ちを喰らい、その場から動けないでいた。
「悪いね嬢ちゃん。人相書きによると、お嬢ちゃんが例のお尋ね者らしいね。悪いけど、俺っちの刀の錆になってもらうよ」
その風貌は、ボロボロの着物を纏った刀を四本腰に携えた長髪の男だった。
名はシューザス。魔王軍に三人しかいない特務隊と呼ばれる凄腕の剣士だった。
あんなにジャラジャラと、同時に使う訳でもないのに、あんなんじゃ戦闘の邪魔にな────速い!
ッグッ⋯⋯なんて速さなの⋯。目で追うのがやっと。それに、今は不意打ちの先制攻撃でやられた右足を引きずったまま、逃げられるような相手じゃない。
毒霧で相手の視界と自由を奪うしかない。この中にいれば、私は安全。私には毒は効かないのだから。今のうちに作戦を考えるしかない。
「おっと毒か。それにコイツはかなーり強力なやつだね。相手の土俵で戦うほど、俺っちはマヌケじゃないさね」
シューザスが刀身を手でなぞると刀身が淡く紅色の光を灯した。そのまま毒霧目掛け横なぎに一振りする。
紅い一閃は、風圧で周りを巻き込みながら、背後にあった家屋を両断したかと思えば、次いで勢い良く燃え出した。
《
放たれた直線状その全てを燃やし尽くす斬撃。
「ちっ、逃したか」
毒霧をキレイさっぱり消し去った先にリシルスの姿はなかった。
何なのアイツの強さ。反則じゃない。初めから逃げに転じていなければ、今頃私は真っ二つだった。
魔王軍の紋章をつけてたってことは、魔王軍なのだろうけど。元老院やクオーツ以外にもあんな隠し球を持ってたなんて。
その後、オディールの待つ最後の柱の場所へと赴いた私の視界に飛び込んできたものは、絶望的なまでの光景だった。
それは、あの女がいたのだ。
物陰から柱を視認出来る距離まで移動した私は、その柱の前に佇む二人の人物に息を呑んだ。
現魔王ノース。そして前魔王ナターシャ。
魔界でも最強の一角である人物が私たちのターゲットの前で守りに入っていたのだ。
これはもう詰みなんじゃないの?
あのナターシャ相手に小細工が通用するとは思えない。ここは、まずオディールに連絡を取ってから判断を仰がないと。
(オディール、到着した。なんで新旧の魔王がいるの)
(ああ、笑えない冗談だろ? だが、安心しろ手はある。近付けないのなら、遠方から破壊するまでだ。なに、魔王を倒す必要はないのさ。柱さえ壊してしまえば俺たちの勝利だ)
確かにそうだけど、遠距離だってあの二人に通用するとは思えないんだけど。
まずは、目眩しで広範囲に────。
視界の先に見えたのは、今最も会いたくない存在だった。
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