第353話:柱破壊計画3

「オディールすまない⋯。柱の破壊には成功したが、西班は俺以外全滅しちまった⋯」


 西班のリーダーを任されたのは、インベントリ一族でも最強の剣士ルッツ。オディールの最も信頼していた一人だった。


「何があった?」

「⋯⋯俺のせいだ⋯。俺が所在をあいつに教えてしまったんだ⋯くそっ」


 東班のリーダーを任されていたガウルからルッツ宛に連絡があった。内容は『東が片付いたから西の援護に向かうから場所を教えて欲しい』と言うものだった。ガウルとは幼い頃からの付き合いでもあり、何の疑いもなくルッツはその言葉を信じ、西柱の場所を教えてしまったのだ。

 結果的に援護の必要なく、西の柱の破壊に成功したが、その帰路でクオーツのアルザス率いる魔王軍20名と遭遇してしまった。健闘も虚しく、散り散りになり、やがて各個撃破されてしまった。ルッツもアルザスから致命傷を与えられるも何とかその場からの離脱に成功していたが、流れ出る出血量から恐らく自分はもう助からないだろうと思っていた。


「裏切り者は⋯やはりガウルの野郎だったか。まさか、アイツが裏切るなんてな⋯。見抜けなかった俺の失態だ」

「あぁ⋯先に行って待ってるぜ。んで、いい報告を頼むぜ。我等の⋯悲願でもある魔族再生を何としても⋯成し遂げてくれよ⋯な」

「ああ、必ずや果たして見せると約束する。どうか見守っていて欲しい」


 しかし、その後ルッツから返事が来ることはなかった。



「まさか、裏切り者は貴方だったのね、ガウル」


 実は直前にオディールから連絡があったから知ってたけどね。


 東の柱前へとやって来た私は、ガウルと数名の魔王軍に取り囲まれていた。

 北班の皆とは別行動を取っていた。こと戦闘においては他の者は足手まといにしかならない。むしろ、私の戦い方においては味方が周りに居ない方が本気を出せる。


「お前には感謝してもしきれないよ」


 ガウルが一歩前へ出て来て何故だか私に感謝の言葉を告げる。


「貴方に感謝されるいわれはないのだけど?」

「いやいや、お前は俺に自由をくれたんだよ。暗く狭い所で朽ち果てるのを待つだけだった俺にチャンスをくれたんだ」


 裏切り者のガウル。彼は投獄中に看守からとある裏取引を申し出されていた。

 それは、他でもない身内の監視だ。

 少しでもおかしな真似をした時はすぐに報告して欲しいと言うものだった。その見返りとしてガウルは百年で釈放される裏取引を結んでいた。


「あのままガスを吸わされ続け自我を忘れて危うく取引を保護にされる所だったんだよ」


 仲間たちと共に脱獄に成功したガウルは、ひっそりと仲間たちにバレないように内通していた魔王軍の幹部へと連絡を取った。

 ガウルは自分1人が自由になりたいが為に一族全てを売ったのだ。


「何の話をしているのか知らないけど、言える事は一つよ。裏切り者には死あるのみ」


 《闇の霧雨》


「おい、何かするぞ! 見た目は少女だがあいつは魔王選抜大会の決勝進出者だ。油断するな、すぐに取り押さえろ!」


 遅いよ。もう既に発動したから。

 闇色の煙が辺り一帯に充満していく。

 何人かが阻止しようと私へと襲い来るが、右に左に躱して精神汚染で再起不能にする。

 倒す必要? ないね。今は時間稼ぎ出来ればそれでいい。私たちの勝利はあくまで柱の破壊。敵の全滅ではない。


「魔術隊! 早くこの毒霧を霧散させろ! 治癒師は負傷者の回復を急げ!」


 寄せ集めの軍隊じゃ、統率なんて取れないよね。こっちにとっては好都合だけどさ────グッ⋯。


 あれ、身体が⋯。


「お前は捕縛させて貰った。無駄な抵抗はやめろ」


 身体が痺れて動がないや。何かの魔術? うん、駄目だね。魔力も練れないや。


 発動者はあの背の高い奴か。見たことあるね。確かクオーツの上位だったはず。


「おい、ミゲル。早いとこ殺した方がよくないか?」

「駄目だ。魔王様から言われている。なるべく生捕りにせよとな」

「他の団の奴らは皆殺しにしてるって話だぜ」

「確かにこんな危険な一族、また牢に入れておくより殺してしまった方が魔界の為だな」


 はぁ、揃いも揃ってコイツら馬鹿なの? 私なんかに気を取られてると、そろそろ⋯


 一筋の雷光が大地へと降り立つ。


 それはアーリャの放った剛雷だった。


 東の柱は断末魔の叫びをあげるように激しく燃え盛ると、やがて力なくその身を大地へと委ねる。

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