第315話: 2代目魔王ナターシャ1
アリオト様から魔王の座を託され200年余の歳月が流れていた。
ここは、魔界と呼ばれる魔族だけの世界。
邪神ディアスとアリオトとの命を対価にした契約により、魔族たちは安住の地を与えられた。
以降200年もの間、魔族たちは外敵のいなくなったこの魔界で繁栄を遂げていた。
当初200人そこらだった人数も今では50倍近くにまでなっていた。
何もない不毛の大地だった魔界も魔族たちの手により、家が建てられ、その数が増え街となり、やがていくつかの都市が造られた。
短期間でこれ程早い発展を遂げることが出来たのも、偏に2代目魔王であるナターシャの尽力が大きかった。
ナターシャは、これまでとは違ったやり方で魔界統治を行なっていた。
武勇に優れる者イコール地位が高いというこれまでの実力主義の概念を見直し、知性の高い者も地位の高い役職につけるという新たな実力主義を確立させていった。
また、平和と言えど有事の際に備える為にも自衛と名打ち、戦力の育成にも尽力を尽くしていた。
魔族の中でも特に武勇に優れた者を自衛の為の最高戦力となる30人からなる特殊部隊。総じて彼等のことをクオーツと呼び、人々から畏敬の念で崇められていた。クオーツに選ばれれば、魔王城への出入りが認められ、魔王との謁見も認められていた。
また、生活する上で色々と優遇されていたこともあり、彼等はその地位を奪われないよう、日々特訓に明け暮れていた。
そんな最中、魔王城の寝室で就寝中のナターシャの部屋の前に側近の一人であるビャッコが慌ただしくドアを叩いた。
「ナターシャ様! 急ぎお知らせしたい内容が御座います!」
目元を擦り、小さく欠伸をすると、ナターシャはドアの方へと歩み寄る。
「ビャッコよ。こんな真夜中に⋯⋯城内ではもう少し静かにしてくれといつも言っているではないか」
「一大事なのです。すぐに手を打たねば魔界全土が恐怖に包まれることになります」
乱れた長い髪を手櫛でサッと整え、鏡で身なりをチェックした後、扉をゆっくりと開ける。
「はぁ⋯。こんな朝っぱらから一体何が起きたのですか?」
ビャッコは酷く同様しているようだった。
この魔界でも屈指の強さを誇るビャッコがこれ程までに取り乱しているのだ。それ程の案件なのだろう。
「忌み子が生まれたのです」
ナターシャの顔色が変わる。
「何、それは本当ですか?」
まさか、忌み子とは⋯。
確か、昔アリオト様に聞いたことがあった。
忌み子とは、赤子が禍々しいまでの魔力を体外に放出したまま生まれ出てくる子のことを指していた。
忌み子と呼ばれる所以は、あれは私が生まれる500年程前だったかしら。
過去に一度だけ、我々魔族の中に忌み子が生まれた。その赤子は、周りの子たちよりも数倍の早さで成長し、やがて産みの親である両親を殺した。
当時はまさか子供がやったことだとは思われず、外部犯による犯行で片付けられてしまった。
まさか当時5歳の子供がそんなことをするとは誰も予想していなかったのだ。
子供の名前はギド。名付け親は自らの手で殺め既にこの世界にはいない。
彼が忌み子と呼ばれる所以となった出来事はそれから数年後の後だった。
ギドの産まれた集落が彼を残して全員忽然と姿を消してしまったのだ。
この不可解な事態の調査に乗り出したのは、当時斥候部隊を率いていたアリオトの弟でもあるアランだった。
たった一人生き残ったギドを不審に思ったアランはすぐにギドを拘束した。
この判断は概ね正しかった。
しかし、失敗だったのは、動けなかったギドをすぐに殺さなかったことだった。
そのままアリオトたちのいる中央部隊連へ連行されたギド。
その道中に事件が起こってしまった。
ギドは突然魔力を暴走させたかと思えば、その隙に拘束を解き、連行の任に就いていた魔族二体の首を刎ねた。
殺気を感じたアランは間一髪後ろに飛び退き、ギドの攻撃を回避した。
ギドは自身の膨大すぎる魔力に翻弄され完全に自我を失っていた。
まるで何者かに操られているようだとアランは感じていた。
「はははっ、冗談じゃない。あんなのどうやって止めればいいんだよ」
ギドの周りには高濃度に圧縮された魔力溜まりが複数発生していた。魔力溜まりは、渦巻きながら不気味な程にその存在感を誇張していた。
一人が警戒しつつも魔力溜まりに近付くとまるで太陽にでも触れたように一瞬でその身が溶けてしまった。
ギドの集落全員が消えた理由はまさにこれだったのだ。
濃すぎる魔力が意思を持ちギドの身体を操っていた。
その後、事態を聞きつけた仲間たちが集まり、事態の収拾を図るも犠牲者だけが増えていった。
近付くことはおろか、遠距離から放つ魔術も全て周りの魔力溜まりが吸収してしまい、まさに八方塞がりだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます