第313話: 特訓
ここは魔界のとある場所。
殺風景で見渡す限りゴツゴツとした岩場が広がっていた。
初めて魔界に訪れた際も確かこんな感じだったな。
そもそも何故こんな場所にいるのかと言えば、全ては魔王様の一言から始まった。
少し前に遡る。
全員を外の広間へと集めた時だった。
「集まって貰ったのは他でもない。7大魔王最後の1人の討伐に向けてな、他でもない神より神託をもらっておる」
まさかの人物の名に俺以外の全員が唖然とした顔で口を開けていた。
勿論、直接に神メルウェル様から聞いたのは俺なのだが、それを皆に説明するには色々と問題があった。
一個人である俺とこの世界の神と繋がっていることが知られれば、どういう末路が待っているのか想像に難くない。
それを魔王様に相談すると「妾が聞いたことにすればいい」と言ってくれた。
確かに魔王ならばまだ、神と近しい間柄と言えなくもない⋯はず。いやでも魔王と神って、どうなんだろうか。
「魔王の戯言など信用できんな」
魔王様に殺気を込めた眼差しで睨むのは、勇者レインだった。
魔王様自身は何とも感じていないようだったが、イスとフランさんがそれに反応する。
「場の空気を乱す発言、行動は慎んでください」
「身の程ってものを弁えなさい人族」
イスがお返しとばかりに勇者レインに威圧を放つ。
勇者レインの前にガルシャが入る。
このギスギス感、何とかならんものかな⋯。流石に何もしないわけにはいかないか。
イスの頭を軽く小突く。
「っ⋯って、ユウ、何するのよ」
「言ってるお前が場を乱してどうするんだよ。この場には非戦闘員だっているんだから威圧は禁止だ」
後ろの方でガタガタと膝をつく人影がチラホラと視界に入っていた。イスは多少納得行かなさそうな態度を取っていたが、頭を下げた。
「ごめんなさい」
元々が敵同士、相容れない間柄なのだから、仕方がないとは思うけど、いい加減慣れてほしいんだけどなぁ⋯。
完全に勇者一行vs魔王様一行の構図になっていた。
「信じられん奴は別に構わん。これは強制じゃないし、妾にそんな権限もないしな。じゃが、恐らくこれに従わなければ、妾らは負ける。全員死ぬじゃろうな」
少しばかりの沈黙が流れた後、勇者レインが武器を手に取り、魔王様の前へとゆっくりと歩み寄る。
「俺と1vs1で戦ってくれないか」
人族と魔族は停戦協定を結んだとはいえ、今までの経緯もある為、そう簡単に仲良くなれる訳じゃないと言うのは理解する。ましてや第一線で魔族たちと交戦してきた勇者たちは色濃くその傾向がある。幼少の頃から魔族即ち倒すべき敵と教育を受けていたのだから。
で、決闘を申し込まれた魔王は承諾し、勇者レインと一騎討ちを行なった。
結果は開始10秒で魔王様のKO勝ちだった。
まぁ、そうなるよな。俺でさえ今の勇者レインならばそう苦戦することなく勝てる自信がある。
魔王様は流石に無理だけど。
「俺の負けだ。素直に従う」
魔王に放った言葉だったが、もしかしたら勇者の仲間たちに向けた言葉だったのかもしれない。
他の仲間たちも遅かれ早かれ反発していたかもしれない。一触即発だった場の雰囲気を敢えて自分1人で背負い、ケリをつけたのか。
その後は、勇者一行も素直に魔王様の話を聞いていた。
「さて、神からの伝承に選ばれし者たちに妾自らが修行をつける」
そうして範囲転移により、魔界へとやって来た。
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