第285話: 勇者連合
ユリシアとの戦闘によるエルフ達の傷はまだ癒えていない。
それは肉体的にではなく内面的な精神的なものが大きかった。
薄氷の勝利と引き換えに失った犠牲はあまりにも大きい。
それを乗り越えるのには時間という治療薬が必要不可欠だった。
恐らく、エルフ超会議の結論何もしないと言うのはそう言う意図が込められていたんだろう。
一度恐怖を覚えてしまえば、それらを克服するのは並大抵の事じゃない。
ユイに聞いた話だと、エルフ族の英雄も亡くなったそうだ。
人々の期待を一身に背負う、勇者や英雄と呼ばれる存在は、逆を言えば失えばそれだけで人々は戦意喪失してもおかしくない。
そんな状態のエルフ達に、一緒に戦って欲しいなどと言える筈もない。
残念だけど、次の戦いは彼等エルフ達の力は期待出来ない。
寝室へと戻ると、戦闘準備万端ですと言わんばかりの5人の姿があった。
「お兄ちゃん、すぐに行けるよ!」
話は聞いていなくとも察してはいたのだろう。
「ユウ様、死霊大陸へ行かれるのですか?」
ジラが心配そうに質問を投げかける。
「ああ、少なくとも状況だけでも確認に行くつもりだよ」
残る7大魔王は後2人。
死霊大陸に1人とククルス山脈に1人。
ククルス山脈には現在魔女達が向かっている。
本当ならば俺もククルス山脈に向かう筈だったんだが、この状況下では死霊大陸に向かうしかない。
しかし、行くのは…
「俺一人で見てくるよ」
当然の事ながら全員が猛反発する。
「一人でなんて絶対に行かせられません!」
「お兄ちゃん、私怒るよ?そんな危険な場所にましてや一人でなんて絶対だめだからね。私も一緒に行く!」
「何か勘違いしてないか?」
別に皆が足手纏いだからと言うわけではない。
戦うにしても情報が必要だ。
まずは偵察して状況を確かめる必要がある。
それならば最小人数でなければならない。
それを説明するが、それでも不安なのか簡単には了承してくれない。
「ユウ様は恐らくですが勇者様達の身を案じていませんか?」
流石にジラは鋭いな。
「全滅したと知らせを受けても、それでも信じているんですよね?」
俺の事を宿主とし、俺の中にいるセリアが出てくる。
「バレバレだな。そんなに顔に書いてあったか?」
「分かりますよ。ある意味精霊である私とユウさんは繋がってますからね。あわよくば偵察の際に助けにいくつもりなんですよね?」
「私も行く!」
「だめだ。それこそ敵に見つかれば戦いになりかねないんだ。そうなれば、いくら俺達全員で行った所で勝ち目はないよ」
それが俺が感じている。イメージしているそいつの強さだ。
今まで戦ってきた、どの7大魔王よりも強い。
対峙した訳ではないが、これだけ離れてるってのに奴の気配を感じる。
海の遥か向こうにいるにも関わらずだ。
正攻法で勝てる相手ではない。
「分かりました」
ジラは今まで以上に真剣な表情をする。
「絶対に魔王と対峙しないと約束して頂けるならば、一人で行かれる事を許可します」
ユイが驚きの表情を向けるが、ジラは頷きでそれを返す。
「約束する。どんな状況になっても、戦うという選択肢は選ばない」
「むぅぅ、すぐ帰ってくる?」
「そうだよ、私達にはやっぱりユウさんがいないとね。誰が私のご飯を作ってくれるのさ!」
「ルー。そういえばお前少し見ない間に太ったか?」
「ふぇ!……嘘!そんな事ないよ!絶対ないない!」
自分のお腹を触りながら、若干気まずそうな表情をするルー。
これはもしかしてズボしだったか?
「あははっ、悪い冗談だ」
ルーが涙目になる。
相変わらず揶揄いがいのある奴だな。
「絶対すぐ帰ってきてよ?」
駆け寄って抱き着いてきたユイの頭を優しく撫でる。
「ああ、すぐ戻ってくるよ。リン達を連れてな」
リンやサーシャは絶対生きている。
必ず連れて戻る。
その後、みんなと別れた俺は、自らの転移出来る死霊大陸から一番近い場所へと転移した。
ここはバーン帝国へ渡る際にも利用した港町ペリハーファ。
死霊大陸は別大陸の為、当然の事ながら海を渡る必要がある。
以前は高速船で大陸移動したが今回は船を探す時間すら惜しい。
と言うか、港町のくせして船が一隻も見当たらないぞ。
出払っているのか?
「すみません、船が見当たらないんですけど、何かあったんですか?」
港にいた船頭に問い掛ける。
「そうなんだよ、3日程前にな勇者様御一行が全ての船を持ってっちまったんだよ」
「ああ、あれはまた凄い人数だったべなぁ。きっと何処かで戦争でもしてるんじゃないだべか」
勇者連合が使ったのか。
死霊大陸に渡ろうと思えば船を使う必要がある。
そうなれば、ここのような死霊大陸側の海に面している場所から立つのは当たり前か。
仕方ない。
何が起こるか分からないから魔力は温存しておきたいけど、まぁ、そんな時の為にポーションを大量に持って来たんだけどな。
方角を確認し、全速力で向かう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
死霊大陸
サーシャ視点
一体何が起こったの…
意識がボンヤリとしていて、まだ夢の中にいる感じ…あれ、、この感じは…あ、あれかな、初めてお酒を飲んだ時のよう…やめよう、不謹慎ね。。
えっと、、確か…
突然魔王の剣が光ったと思いきや、私が展開してた防壁が砕ける音がして…それで…
覚えてるのはそこまで。
どうやら、気を失っていたみたい。
ゴツゴツしたものが私の下に…
サーシャは恐る恐る周囲を確認し、そして絶句した。
なっ…
サーシャの下や周りには沢山の朽ち果てた仲間達がそれこそ文字通り転がっていた。
その大多数が横に両断されていたのだ。
思わず叫びたくなるも、両手を口に当て必至に堪える。
嗚咽を漏らしながら、まるで金縛りにでもかかったかのように暫くその場から動けない。
しかし、この場では逆にそれが災いし助かったのもまた事実。
ここで大声をあげ、派手に動き回ってしまえば、生きている事を気付かれてしまっただろう。
冷静になるまで、気持ちが落ち着くまでサーシャはその場から動かなかった。
やがて冷静になったサーシャは恐る恐ると言った感じで再び周囲を観察した。自分の置かれている現状を把握する。
これ、みんなやられちゃったの…?
私達は後続部隊に配置されてた。
遠くに魔王を視認できるかなくらいの距離だったにも関わらず、、理不尽過ぎるよ…こんなの酷すぎるよ…
でも、何故私は助かったの?
その時サーシャは右手につけていた指輪に目をやった。
薬指につけていた指輪の宝石が砕けていたのだ。
あぁ、確かこの指輪はユウさんが、もしもの時の為に持っているようにと言っていた指輪。
じゃあ、これが私の命を救ってくれたのね…
サーシャは砕けてしまった石のあった部分を愛おしそうに撫でる。
!?
その時だった。
刃を交える甲高い音が辺りに響き渡る。
まだ、誰かが戦ってる?
前線のあった部分には、もはや戦闘の面影はなく後続同様に死体の山が築かれているのが遠目で察知が出来る。
そこでサーシャはハッと気が付いた。
リンは?
リンはどこ!
サーシャは知っていた。
私同様に同じ指輪をユウより貰っていた事を。
その時、心の奥底に多少なりとも嫉妬してしまった事を覚えている。
でも、だったらリンもまだ生きてるはず。
リンは私と違い前線部隊の配属だった。
探さなければリンを。
きっと怪我をしているはずだから。私に唯一出来るのは、傷を癒す事だけ。
自分の責務を果たします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます