第230話: 魔界大戦開戦

混乱の最中の城内。


魔族達が我先へと城内を忙しなく走り回っていた。

装着した武具をカチャリと鳴らしながら一際物音のする方へと誘われていた。


城外からは戦火の音らしきものが聞こえており、時折爆発音なんてものも鳴り響いていた。


ある一室で、一人の少女が頭を抱えていた。


「一体全体、あいつらは何者よ!仲間達もどんどん寝返っていってるし、この魔界で何が起こっているのよ!」


そんな少女の問い掛けに応える者はいなかった。


この時、敵軍勢に魔王城のすぐ近くまで攻め入れられ、魔王軍本体と睨み合う事、半刻の時が過ぎようとしていた。


魔王不在の中、魔王代理としての仕事をしていたメルシーは、、、



「事前にユウから情報を貰っていたのに、ここまで後手に回るなんてね・・・舐めてたわ・・」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1日前に遡る。



「ユウ様、やはり奴等の目的は魔界へと繋がる転移門のようです」


くそっ、間に合わなかったか・・。


急ぎ転移門までやって来たが、連中は既にぞろぞろと転移門を潜り、魔界へと足を運んでいた。

死神野郎もどうやら既に魔界へ渡ってしまったようだ。


「どうしますか?」


ジラが怪訝な眼差しで問い掛ける。

魔族のジラは、すぐにでも故郷の窮地に駆けつけ、不届きな侵略者供をその手で蹴散らしたいはずだ。


どう行動すべきか俺は悩んでいた。


7大魔王は、死神野郎の他にもいる。

現在、主だった侵略行為の徴候は現れていないのも事実。

魔界は、恐らくこの世界で一番の強者達が集まる場所だ。

正直、俺なんかよりも強い連中がたくさんいるだろう。

既に魔界へと渡ってしまった今、ここで俺が出向くより、魔界は魔族達に任せて、俺は他の7大魔王の対処にあたった方が良いかもしれない。


「ジラ、クロ聞いてくれ。二人には酷な言い方かもしれないが、魔界は魔族達に任せて俺達は地界側を担当しようと思うんだ」

「はい、私もそれでいいと思います。あっちにはフラン様やクオーツもいますからね」

「分かった」


ジラは若干遠くの方を見て、何かを思っているようだ。

自分の故郷が今まさに侵略されようとしているのだ。

心配な気持ちもあるのは当然だろうが、それ以上に仲間達を信頼している感じに見て取れる。


チラリと転移門へと目をやるとまだ後続部隊が続々と魔界側へと渡ろうとしていた。


「そうと決まれば、少しでも魔界側の負担が減るように、あいつらを蹴散らすぞ!」

「手加減は?」

「本気出していい?」

「必要ない。全力で行く」

「はい!」「了解」


そんなこんなで奇襲で不意をついたつもりだったが、待ち構えていまかのように、こちらの姿を確認すると、すぐに武器を構えている。

それだけに、猛者達と言う事なのだろう。


しかし、俺の心配は杞憂に終わり、当初20人程残っていた死神の兵隊供を一人、また一人と駆逐していく。

それでも一人一人の実力はかなり高い。

目に見えているレベルも大体が50以上だし、低い者は厄介なスキルを使用してくる。

しかし、それを補って余りあるジラとクロの強さに敵は残り2人にまで減っていた。


逆に言うとこの2人は、最初から最後まで傍観しているだけで、一切手を出してくる事はなかった。


不気味だな。


腕を組んで涼しい顔して俺達の戦闘を眺めていた。


残った2人と睨み合う。


ジラとクロに治癒ヒール状態回復リフレッシュを施し、暫く相手の出方を伺っていると、、


「主人様に邪魔する輩が現れると聞いて待っていたのだがな、貴殿らがそうか?」


奇襲に対して驚いていなかったのはそう言うことか。

こいつらは俺達が邪魔するのを知っていて待ち構えていたって事だ。


「どうやら、そうらしい。俺達の事を待ち構えていたみたいだな。質問ついでだ教えてくれないか?なんで仲間達が倒されるのを黙って見てたんだ?」

「仲間?笑わせる。此奴らはただの捨て駒よ。貴殿らの実力を測る為のかませ犬に過ぎん」


仲間を捨て駒扱いとはな、お前とは一生分かり合えそうになさそうだ。


「へえ、そうかい。で、俺達の実力とやらは測れたのか?」


にしても、あれで捨て駒扱いとはな・・・魔界に乗り込んだ本陣は一体どれ程の連中なのだろうか。

そっちは頼んだぜ、メルシー、フランさん。


「一目見て必要ないと判断した。我一人でも貴殿ら三人を相手にするのは造作もない事だ」


冗談だよな?


ブーストまでは使用してなかったけど、そこそこ本気出してたつもりなんだけどな、もしそれが本当ならかなりヤバいかもしれない。

最初から、この二人にだけは鑑定アナライズが無効だったから嫌な予感はしてたんだよな。


さっきから喋っているのは、長刀を腰に携えた侍風な剣士だ。

鑑定アナライズが使えない以上、奴の強さは不明だが、奴の隣にいるボロ布を頭から被っている種族、性別すら不明の人物。

こいつの方が嫌な気配をビンビン感じるんだよな。

しかしこの気配、前にも感じた事があるような・・。


「ユウ様、まずは牽制で速攻の大技試して見ても?」


ジラの小声を頷きで返す。


ジラの魔力が瞬間的に増大したのを感じとったのか、侍野郎が一歩前に繰り出し、腰の長刀に手を掛けて構えを取っていた。

同時にジラのフレアが侍を襲った。


発動から着弾まで1秒あるかないかの速攻だった。

ジラ曰く、速度重視の為に威力は抑えめとの事だったが、まともに喰らえば火傷では済まされないだろう。

むしろ溶けて無くなるんじゃね?


しかし、侍は避ける仕草を一切見せず、そのまま着弾したかと思いきや、長刀を抜刀し、縦一文字に迫り来るフレアを両断した。


これにはジラも声を漏らす。


本来魔術を斬り裂くなんて行為は出来るはずもなく、ただ斬り裂いただけではなく、そのままフレア自体が掻き消えてしまった。


続け様にジラは雷撃ライトニングボルトを撃つ。


正確無比に狙いすました光速の雷撃を侍はまたしても斬り裂き掻き消した。


「こいつは驚いたな」


感心してばかりもいられない。

どう言った訳か、あの侍は魔術を斬る事により、魔術自体を打ち消してしまえるようだ。

ならば接近戦に持ち込むか?

無理だな。

近づこうものなら、間違いなく高速抜刀術の餌食だろう。

そんな侍が俺の世界の何処かにいたっけな・・。


「ユウ様、あの者の相手は私とクロに任せて下さいませんか?」

「手はあるのか?」

「はい、相手には悪いですが、二人でなら問題ないと思います。それに・・・」


ジラの視線の先には、やはりあのボロ布野郎がいた。

ジラも気になるか。


「分かった。あっちは俺が相手をするよ」

「ありがとうございます。お互い油断せずに行きましょう」


クロの頭をポンポンと触る。


「クロも頼むぞ」

「本気出す」


ああ、いつだってクロは全力だよな。期待してるぞ。


「と言う訳で別れて戦わせて貰う」


侍野郎もこちらの意を汲んだのか、一人距離を置いて離れて行く。

それをジラとクロが追って行く。


改めて対峙して漂って来る、強者の気配。

ボロ布のせいで視界を大幅に妨げられてるってのに、それでも攻め入る隙が全く見出せない。

しかし、そんな奴を俺は知っている。


「二人っきりになったんだし、そろそろその布を取って正体を明かしたらどうだ?」


「フフフ、久し振りだね。まさかまたキミに逢えるとは思わなかったよ」


そう言い、フード毎羽織っていたボロ布を脱ぎ捨てる。


予想通り見覚えのある顔だった。


こいつの醸し出す気配は、独特だ。

実際に対峙した者には分かる。


「俺は逢いたくなかったけどな、スイ」


ただの少年の容姿にしか見えない彼が、少し前に不死の王ノーライフキングとして世界中から恐れられていた存在だ。


死んだ者を生き返らせて僕にすると聞いた時からこうなる事は予想していた。

逆に言うと、予想が外れる事を願ってたんだけどね。


「まぁ、そうつれないこと言わないでよ。折角こうして復活して再びキミと・・・・いや、ユウと逢えたんだからさ」

「名前を覚えていてくれてたとは光栄だね」

「記憶力は悪い方じゃないからねっと・・・」


何故だかスイは、自分の額にワンパンを入れる。

額に蚊でも止まっていた・・訳じゃないよな。


突然の不可解な行動に首を傾げていると、、


「どうやら僕を束縛している呪印がさ、ユウと戦えとさっきから大音量で頭の中で叫んでるんだ」


まさか、スイとまた戦う事になるなんてな、あの時は瀕死の重傷を負いつつなんとか勝利する事が出来たが、もう一度勝てるかと言われたら、そんな自信は無い。

出来れば戦いたくない。

そんな俺の内心を嘲笑うかのように、スイが構えを取る。


あれ、妙だな。

スイが杖を持っていない。


スイは、俺と同じ魔術師だ。

魔術師は、杖を媒介にして自身の魔力を跳ね上げる。

実力の拮抗した相手と戦う場合、杖がないだけで大きなビハインドになる。

もしくは、舐められているとか?


巨大な魔力のうねりを感じ、俺はその場を一歩下がる。

スイは右の拳に膨大な魔力を溜めている。


先程とは一転して、隙だらけにも程がある。

今なら、渾身の一撃をスイにぶつける事も出来るかもしれない。


しかし、、


何故だかその行為を喰い入るように見ていた。

本来ならば、相手の溜めなど待ってやる道理はない。

だけど、何故だか目を離さずにはいられなかった。


スイがニヤリと笑みをこぼしたかと思いきや、その右拳を自らの頭にクリーンヒットさせたではないか。

先程のワンパンの比ではない。


魔力の放出も相待って、スイの頭は跡形もなく消え去り、その体躯はグラリと揺らぎ、地面へと倒れ込んだ。


え、自殺?

いや、それはないか。


常人なら頭が吹き飛べば死は免れない。

しかし、スイの場合は急所を貫かない限りは首を落とされようが、死ぬ事がないのは前回確認済みだ。

それが不死の王ノーライフキングの名前の由来でもある。


暫く傍観していると、吹き飛んだ頭部の箇所が見る見るうちに再生していく。

正直、この隙を狙えば簡単に倒せるじゃないかとツッコミを入れられそうだが、そんな無粋な真似出来るわけもない。

俺とスイは確かに敵同士だけど、最後の最後は死力を使い果たし、互いを健闘し合い、誰にも教えた事がないと言う真名まなや今では失われた魔術ロストマジックまで教えてもらった。


そう言えば、貰うだけ貰って俺の方は何も返せていないんだっけな・・


一人思考を巡らせていると、


「何をさっきからブツブツ言っているんだい?」


いつの間にやら再生したスイがすぐ目の前に立っていた。


「なんであんな真似を?」


むしゃくしゃしてやった。なんて言わないだろうな。


「誰かに操られるなんて、まっぴらごめんだからね。確信はなかったけど、今のやり方でどうやらあの死神くんの呪縛からは解放されたみたいだね」

「相変わらず、無茶しやがって。なら、もう自由の身って事?」

「そうなるね」


こちらを向き、意味深な笑みを浮かべるスイに少しばかりの恐怖を感じる。


「まさかとは思うが、あの時やられた恨みを晴らすとか言わないよな?」

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