第221話: 精霊界1

プラメルを後にし、向かった先は水上都市アクアリウムだった。


ここは都市の至る所に水路が走っており、住む人全てが水の恩恵を受けている。


中央には巨大な噴水があり、定期的に祭りめいた催しが開催されていた。


また来ようとは思ってたけど、まさかこんな形で戻って来るとは思わなかったな。

すぐにこの水上都市アクアリウムの長であるベルグドさんの元へと向かう。


城門の門番に止められたが、素性を明かすと、ロクに疑いもせずに通行を許された。

俺としてはありがたいけど、警備的にはそれで大丈夫なのかよ・・・と心の中でツッコミを入れつつ城の中へと入って行く。


暫くすると、城内で懐かしい声が聞こえて来た。


「ユウさんじゃないですか!」


水上都市アクアリウムの長であるベルグドさんの娘のサナだ。


「サナさん、お久し振りです」

「びっくりしました。いつこちらへ?」

「ついさっきです。ベルグドさんに緊急の話があるんだけど、今何処にいるのか分かりますか?」


サナと一緒にベルグドさんのいる場所へと急ぎ向かった。

朝から重要案件との事で、会議室に篭って出てきていないと言う。

こちらも十分に重要案件な為、申し訳ないけど割り込ませて貰うよ。


サナが扉をコンコンとノックする。


「サナです。ユウさんがいらっしゃいました。急ぎお父様にお話ししたい案件があるようです」

「何!分かった。すぐに向かうと伝えてくれ!応接間に案内しなさい」


その後、サナさんと一緒に応接間で待っていると駆け足で息を切らしながらベルグドさんがやってきた。



「ユウ殿!お待たせして申し訳ない!はぁ、はぁ・・」


急ぎの用とは言ったけど、そんなに息を切らすほど急がれると、何だか申し訳ない気持ちになってしまう。


「お久しぶりですベルグドさん」


サナが退出しようとしていたので、一緒に聞いてもらう。


7大魔王の脅威が今まさに迫っている。

この世界を征服せんと既に行動を開始している。

例の如く、手書きとは思えないクオリティの高さの手配書を渡す。


「この世界の危機などと、にわかには信じ難いが、他ならぬユウ殿の言葉だ信じよう」

「私達、いえ、アクアリウムは何をすれば良いですか?」

「はい、さっきも言いましたけど、奴等はどんな手腕を用いてくるか見当もつきません。本人達が直接攻め入ってくるとは思いませんが、都市の入り口には、警備隊の増援と、ギルドで冒険者に依頼を募り、戦力を固めておいて下さい。来るべき戦いに向けて準備もお願いします。何か大きな動きがあれば、すぐに連絡するようにします」

「分かりました。お父様、周辺の小規模な集落の方達には、一時的にアクアリウムに避難して頂きましょう」

「そうだな。すぐに手配させよう」


ベルグドさんが、慌ただしく応接間を出て行く。


「強大な敵に対して、私達に勝ち目はあるのでしょうか・・」


ボソリと発せられたサナの言葉に、俺はすぐに応える事が出来なかった。


たぶん俺自身、不安なんだと思う。

奴等の強さを一番感じているからこそ、どうにか出来るのかと不安になってしまう。


「勝つよ。どんな手を使ってもね。この世界の人達皆が協力すれば、勝てない相手はいないさ」

「ふんっ、偉そうな事言ってあんたなんかに出来る事なんてたかが知れてるわ」

「もう、アクティナ。ユウさんに失礼でしょ」


アクティナは、セリアやノア達と同じ、精霊と呼ばれる種族だ。

精霊には、それぞれ守護する属性を有していて、アクティナは水を司る精霊だった。

ちなみにアクティナは、俺を嫌っている。

当然それは一方的なモノなのだが、理由としては俺がセリアの宿主をしているからだ。

アクティナは、セリアの事を心底慕っている。

そんなセリアの宿主をしているからこそ嫌われているようだ。


「それより、セリア様は?」

「ああ、セリアとノアは訳あって別行動を取ってるよ。行き先は聞いたけど、教えてくれなかったな」

「ふうん、愛想つかされたんじゃないの?」

「そうかもな。主人らしい事なんて何もしてあげれてないからな」

「あら、偉く今日は素直ね」

「気分的に余裕がないだけだよ」


アクティナとの会話を適当に切り上げ、水上都市アクアリウムを後にする。


「綺麗な都市でしたね。綺麗な水は清潔感を表します。その水に囲まれた人々もまた心が洗われ清らかな方が多いのだと思います」

「そういえば、ジラは初めてだったな。みんながみんなそうだとは思わないけど、良い人が多いってのは俺も同感だな」


次の目的地へと向かう途中にセリアから念話が届く。


(ユウさん、お久しぶりです。今良いですか?)

(久し振りセリア。ちょうど移動中だから大丈夫だ)

(ユウさんに会って頂きたい方がいるんですけど・・・)


最後の溜めが気になるが、一体誰の事なんだろうか。


(ちなみに誰に?)

(それは、直接会った時に説明します)

(分かった。ちなみに今は、水上都市アクアリウムを出発する所なんだけど・・・)


「って、なんでいるんだよ!」


視線の先に今まさに念話で話していたセリアを発見したのだ。


「私とユウさんは、運命の糸で結ばれた存在です。離れていようが、こうして一瞬の内に距離を縮める事が出来るんですよ。ジラさん、クロさんお久し振りです。また一緒に旅が出来ますね」

「また宜しくお願いします」

「よろしく」


こうやって、しれっと時々冗談を言うんだよな。


「本当の所は?」

「はい、ユウさんが宿主となり、ある程度の時間を共有した事によって、こうして移動が可能になったみたいです。ちなみにノアにはまだ無理です。私だけですよ?」


冗談はこれくらいにしてもらって、本題へと入る。


「で、誰に会うんだ?」

「はい、それがですね・・・非常に言いづらいのですが、、」


躊躇するセリアも珍しいな、などと呑気な事を思ってる場合じゃない。何故だか嫌な予感がする。


「じゃあ、やめよう。今は忙しいしね」

「いえ、それは駄目です。今この世界に迫っている危機にも関係する事なんです・・・でも正直な所、私自身も出来る事なら行きたくないです。会いたくないです」

「それってもしかして・・・・」


以前聞いていた事を思い出した。

セリアが行きたくない場所、それは・・・


「非常に不本意ですが、精霊王の元にお連れします」

「精霊王って確かセリアの父親だったよな」

「はい、そうです。それに喧嘩別れして以来一度も精霊界へは帰っていません」


セリアにとって会いたくない人物であり、戻りたくない場所。

それでもそうまでしてでも行かなければならない理由があるのだろう。


「細かい説明はあっちで行います。訳あってすぐに精霊界へ向かいます」

「今すぐじゃないと駄目なのか?」

「はい、ユウさんは魔界と地界は知っていますよね。精霊界、即ち精界は、それらと同じ第三の世界に分類されています。異なる世界同士は直接的には繋がっていません。ある特殊な条件下において行き来する事が出来ます。と言うわけで、あと数分もすればあちらとの繋がりが途絶えて、次に行き来出来るようになるには、私達の力だけでは数年の歳月が必要なのです」

「と、取り敢えず質問は後でするとして、急がないといけない事は分かった。で、どうすれば精霊界へいけるんだ?」

「私達もお伴しても宜しいのでしょうか?」


未知なる場所と聞いて興味津々なのだろうか。

ジラにしてもそうだが、クロは犬耳が忙しく動いている。


「はい大丈夫です。元より精霊界へ外部の者が来る事自体が異例ですので、今回だけ特別です。では、目を閉じて下さい」


何が起こるのか若干不安になりつつも、言われた通りに目を瞑る。


「いいですか?絶対に目を開けないで下さいね。異界の果てに閉じこめられてしまう恐れもありますので」


え、何それこわい。


暫く待っていると、唇にわずかな感触を覚えたかと思うと、少しばかりの脱力感に苛まれた。

良くある魔力を消費した時に感じる脱力感だ。

すぐに目を開けようと思ったが、先程の忠告があったのを思い出し、グッと閉じる。


どれくらいの時間目を閉じていたのか不明だが、仄かに香る草花の甘い匂い、体感温度も先程までとは何度か上昇している気がする。


いつまで瞑っていればいいのか、いっその事、目を開けてしまおうかと思い始めた頃、袖をくいくいと引っ張る感触が伝わってくる。


「いつまで閉じてるの」


クロから指摘を受ける。

え、だって、まだ目を開けていいって・・・


目を開けると、隣にいたジラもクスクスと笑っていた。


事態が飲み込めず一人右往左往していると、景色が一変していた事に気が付いた。


「ユウさん、ここが私の故郷の精霊界です」


言われて見渡すと・・・すげえな・・・。

まさに圧巻の一言に尽きる。


まるで海底の中にいるようだった。

空はスカイブルーの快晴に、何やら見たこともない生物が揺ら揺らと浮いている。

小さな可愛らしい妖精めいた生物が楽しそうに遊んでいる。キャッキャと声を出しながら鬼ごっこでもしているのだろうか。


風景に至っては、まず目に付くのは逆向きに蠢いている滝だろうか。

明らかに重力に逆らっている滝の流れに違和感を覚える。

魚のような生物が仲良く泳いでいる。


「ユウ。あれ、大っきい」


くいくいと袖を引っ張るクロに促されて視線を送ると、体長20mはありそうな巨人が歩いていた。


「巨人だな・・・踏みつぶされるなよ」

「やられる前にやる」


いやいや、頼もしいけど、たぶん敵じゃないから間違っても手は出すなよ?


「ようこそ、精霊界へ」


見慣れた姿の人物が目の前に立っていた。

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