第185話: 迷子の少女

ユイを捜すために、俺とルーの二人で城へと向かっていた。


すれ違いになってはまずいので、アリスには宿屋で待機してもらっている。

レーダーがあるとはいえ、その範囲は1kmと心許ない。

人探しのプロといえば精霊のノアなんだけど、今はいない。

なんでも、数日前から用事があると言って、俺の元を離れている。


取り敢えず、昨日の宴の会場である城まで向かう事になった。


「ユウさん、あの屋台のあれ、美味しそうですよ!」


俺の袖をクイクイと引っ張るルー。

チョップをお見舞いしてあげようと思ったが、もしかしたらユイがお腹を空かせているかもしれないと思い、串に刺さったイカ焼きもどきを3つばかり購入する。


それを頬張りながら、鼻唄まじりでテクテクと歩くルーに、やはり俺のチョップは炸裂した。


「ぷぎゃぁ!・・・はうぅぅ・・・ユウさん酷いですぅ・・」

「ユイが居なくなったのは、半分はお前の責任なんだぞ」

「うぅぅ・・分かりましたよぉ!捜し物が得意なファンちゃんを呼びますからぁ」


そう告げると、すぐにルーは精霊を召喚した。


体長30cm程の大きな赤い頭の精霊が舞い降りた。


「ファンちゃん、お願い。上空からユイちゃんを捜して」


ファンと呼ばれた精霊はコクリと頷き、ルーの額と自身の額をくっつけた。


なるほどね。あーやって、ルーの中にあるユイの情報を引き出してるのだろう。


情報を引き出し終わったのか、精霊はすぐに飛び出した。

真っ直ぐ上空へと登っていく。


「彼女は、蝿の精霊のファンちゃんです。高性能な眼を持ってて、10km先まで正確に読み取ることが出来るんだよ!」

「それは、確かに凄いな」

「建物の中にいても、体温を察知出来るんだよ。あっ・・・もうユイちゃん見つけたみたい」

「早いな。ていうか、そんな高性能精霊がいるなら、もっと早く教えといてくれないか?戦闘においての作戦の立案に関わるからさ」

「え?私何故か怒られてる?あれ、なんで?あれ?」


精霊に連れられてやってきたのは、郊外の寂れた区画だった。

寂れたというより、ゴースト街と言っても過言ではない。

地震でもあったのか、それとも大津波でもあったのか、かつて家々が建ち並ぶ場所であったであろう残骸が、所狭しと密集していた。


「本当にこんな場所にいるのか・・」

「あっ、私のファンちゃんの力を信じてないですね!」

「信じてないんじゃなくて、ユイがこんな場所にいる理由が分からないんだよ」


誰かに攫われた?

いや、それはないな。

ユイを捕まえるとなると、余程の人数か、それこそ勇者クラスの人材が必要だろう。

あくまで、力で強引に連れて行く場合はだけどね。


精霊の言う通りに暫く進むと、少しだけ開けた場所に、一軒のボロ屋が見える。


精霊は、ルーに微笑むと、そのまま消えていく。


「どうやらあの中みたいですね」

「ああ、俺のレーダーにも反応があるよ」


レーダーに反応があると言う事は、最悪の事態にはなっていないと言う事だ。

取り敢えずは、ホッと肩を撫で下ろす。


しかし、レーダーで捕えたのは、ユイ一人の反応じゃない。もう一人いるのだ。


ログハウスとも言えなくない、手作り感満載の小さな小屋の正面扉を開けようと手を掛けた時だった。

小屋の中から、ユイが出てきた。


「あ、あれ、お兄ちゃんどうしてここに?」

「ユイが心配だから捜してたんだよ。離れる時は連絡するように言ってただろ?何かあったかと思って心配したんだからな」

「うぅ・・ごめんなさい・・」


ユイが俺に抱きつきながら謝る。

そのユイの頭を優しく撫で下ろす。


この光景を小屋の中から見ている一人の人物の姿が見える。

警戒しているのか、体の半分をドア越しに隠していた。


「何があったのか説明してくれるか?」


ユイは、コクリと頷いた。


「ミラ、この人が話してた私のお兄ちゃんだよ。危なくないから出て来て大丈夫だよ」


ユイの言葉に、まだ若干の戸惑いを感じながらも恐る恐る小屋の中から出て来たのは、ユイと同い年くらいの少女だった。

特徴的なのは、耳が長くピンと立っている。

金髪碧眼で、端正な顔立ち、見た目通り、あどけなさを残している。

違和感があるとすれば、終始無表情な所だろうか。

美少女が無表情というのも勿体無い気がする。

何処と無く、クロとイメージが似ているかもしれない。


ユイの背後に隠れながらもこちらを伺っている。


名前:ミラ・ロッド

レベル24

種族:ハイエルフ

職種:モンスターテイマー

スキル:捕獲(テイミング)Lv5、調教Lv2、召喚、収納、キャスリング


エルフだと思っていたが、まさかのハイエルフだった。


「じゃあまず、自己紹介からしようか。俺は冒険者のユウだ。キミの名前を聞いてもいいかい?」

「・・・」


あれ、無反応か。

何かおかしな事を言っただろうか?


「お兄ちゃん、ミラはね、初対面の人だと、恥ずかしくて、お話し出来ないみたいなの」

「そうなのか、ならしょうがない。また後で、教えてくれるかい?」


ハイエルフの少女は戸惑いながらもコクリと頷いた。


「でだ、なんでユイはここにいるんだ?」

「えっとね、話すと長いんだけど・・」


ユイの話はこうだった。

晩餐会の後、ルーと一緒に宿までの帰路中に何処からともなく女の子の泣き声が聞こえてきたそうだ。

ルーは、酔っていて全く聞こえなかったみたいで、

最初はユイも気のせいかもと思い、通り過ぎていたが、やはり気になり、声の聞こえた場所まで舞い戻った。

そこにいたのは、小さく蹲っていたハイエルフの少女だった。酷く憔悴しきっていて、来ている服もボロボロだった。

泣いていた理由を聞こうとしたが、最初は何も答えてくれなかったそうだ。

しかし、ユイは一人泣いていた少女を放って置けず、夜通しずっと側に寄り添っていた。その甲斐あってか、朝方には片言ながらも意思疎通出来るようになり、この場所まで移動した。

ここは、ハイエルフの少女が一人寝泊まりしている小屋のようだ。


「ミラはね、1週間位前にスキルが暴走しちゃって突然この場所に飛んで来ちゃったみたいなの。だから、元いた場所まで送り届けて上げたいの」

「スキルの暴走?」


確かミラは、モンスターテイマーだった。

スキルは、調教だとか、召喚、収納など、一般的なものだった気がする。

いや、もしかしてこれか ''キャスリング''

しかし、どんな効果なんだ?


(自身が使役しているモンスターと場所を入れ替える事が出来るスキルです)


物知り精霊のセリアだ。


(なるほど、使役モンスターと術者の位置を入れ替えるのか。それを使えば確かにその話は頷けるな)


だけど、使役モンスターが、そんなに離れた場所にいた理由は何故だろうか?


「この子が元々いた場所は、ここから遠いのか?」

「うーん、分からないみたい。自分が居た里がどの辺りにあるのかミラは知らないみたいなの」


帰る場所が分からないんじゃ、手の打ちようがないなぁ。

そういえば、以前ハイエルフの里を訪れた際にハイエルフの里はこの世界に3箇所しか存在していないと、聞いていた。


テュナさんの里を除けば、2分の1の確率という事にはなるが、どちらにしても里の場所が分からない。

テュナさんなら知っているだろうか?


「ちなみに里長の名前はテュナさんだったりする?」


ミラは首をフリフリしていた。


「お兄ちゃん、何とかならない?」

「そうだなぁ、その里の特徴とか何か分からないか?例えば、寒い所だとか、山々に囲まれているだとか、大陸名でも分かれば違うんだけどな」

「ミラ、どう?何か分かる?」


ミラは、同じく首をフリフリしている。


つまり、情報ゼロで、この少女の里を見つけないといけないのか。


(テュナさんに聞くのが早いかもしれませんね)

(そうなんだけど、あそこまでかなり遠いんだよね。それに正確な場所を覚えていないから、ガゼッタ王国のシャロン王女に聞く必要があるかな。ガゼッタ王国ならば、ポータルにメモしているから一瞬で行く事は可能だけどね)


「取り敢えず、俺たちが止まってる宿に戻ろう」

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