第34話: 脱出
水上都市アクアリウムの湖底で、突如として裂け目の中に吸い込まれてしまった。
吸い込まれた先は、なんと広大な荒廃した遺跡群だった。
その中で初めて出会った人物⋯と言っても精霊なのだが、剣呑な空気が流れていた。
「地の精霊と言えば、1000年以上も前に守護している都市と共に消えてしまった精霊と言われています。私が生まれる前の話ですので、定かではありませんが⋯」
「へぇ、あれから1000年も経つのかぁ〜」
ノアと名乗る精霊は感慨深そうな顔をしていた。
俺は、疑問に思っていた事を口にする。
「ここは、ツガール帝国なのか?」
「そうだよ」
意外にも返答がアッサリしていたのでどこか拍子抜けだったが、その後ノアさんに事の成り行きを説明してもらった。
今から約1200年前に突如として何者かの攻撃により、当時大帝国として名を馳せていたツガール帝国は一夜にして、この異空間に飛ばされてしまった。
何年も何十年も人々は脱出を試みたが、とうとう脱出する事は敵わなかったそうだ。
以降1200年もの間、誰もこの地へ訪れる事は無く、今に至っている。
いや、至っていたはずだったのだが、そんな所に俺たちがやってきたのだ。
「なぜツガール帝国が狙われたんだ?」
「当時ここには、最強と謳われた勇者がいたの。ツガール自体がその勇者に集った猛者達の溜まり場となっていたから、魔王に狙われたのよ」
え?魔王?
「それで合点が言ったわ。約1200年前と言えば、魔族大行進があった時期ね」
ノアさんは、その行進自体は知らないらしい。
恐らくここへ飛ばされた以降の話なのだろう。
セリアの説明によると、魔族大行進と言うのは、魔族がこの世界を統治しようと大躍進を遂げた時期があったのだぞうだ。
「大躍進が出来たのも、当時の強敵達をここへ閉じ込める事が出来たからだったのね」
俺には事情が良く分からないが、取り敢えず双方が納得したのなら良しとしよう。
さてと、まだ問題が一つある。
今までノアさんが、ここから出る事が敵わなかったのなら、一体どうやって俺達はここを脱出すればいいのかだ。
「出る方法ならばあります」
「お、あるのか?というかまた心を読んだな」
「そうですね、ノア」
「バレてたかぁー」
てへぺろをしているノアさん。
それはそれとして、今まで脱出する事が出来なかったのに一体どんな方法があるのだろうか。
「この異空間は恐らく魔王が作ったものです」
「うん、それで?」
「私たちは、ここへどうやって来ましたか?」
「裂け目か?⋯ああ、なるほどな。1200年と言う長い歳月の影響下で、この異空間を維持する事が出来なくなっているのか」
「そうそう。こっち側からその裂け目を攻撃して、裂け目を大きくしちゃおうってわけだよ!」
「その裂け目が何処にあるのかは分かってるのか?」
「もちろん!もう見つけてあるよ!」
どうやら、この異空間から出る為の希望が見えてきたようだ。
早速その場所へ案内して貰う。
「その前に少し立ち寄りたい所があるんだけど、いいかな?」
忘れ物だろうか。
1200年もここに居たんじゃ、色々と思い入れもあるのかもしれない。
一緒に来てというので、付き添う事になった。
廃墟群を抜け、瓦礫を撤去しつつ何処かの部屋の前に案内された。
「この部屋の物をキミたちにあげるわ。持てる分だけになっちゃうけどね」
そう言い、ノアさんは勢いよく扉を開ける。
扉が開かれて、中から光が差し込む。
そのあまりの眩しさに俺は目を開けていられなかった。
目が慣れるのを少し待ち、徐に目を開けてみる。
視界の先に見えたのは⋯
「この帝国に備蓄していた金銀財宝を私が約1000年かけて集めたものよ」
「なっ⋯」
以前、先生と討伐したドラゴンが住んでいた洞窟で見つけた財宝とは、比べ物にならない量だった。
「もう誰の所有物でもないから好きなだけ持っていっていいよ」
俺は、あまりの光景とそのボリュームに数秒ほどフリーズしていた。
「本当に全部貰っていいのか?」
「うん、好きなだけね」
ならば、お言葉に甘えて。
俺は目の前の金銀財宝の山を一瞬で全てストレージへと放り込んだ。
「ええっっ!」
今度はノアさんが口を開けたま驚きのあまり硬直している。
凄まじい量だったが、ストレージの種類的には50種も無かった。俺の場合、量ではなく種類なのだ。
良く見ると、聖剣アスカロンなんて代物まで獲得していた。
「ノアさん、聖剣なんてものがあるんですけど」
「ふぇ? あ、ああ、勇者が使っていた剣かな。ちなみに聖剣は勇者以外には扱えない代物なんだけどね」
何故かドヤ顔をしている。
「って、そうじゃなくて、今のは魔導具か何かなの?一瞬で消えたけど」
「まぁ、そんな所です」
「ふ~ん。あ、あと私の事はノアで良いから」
獲得した中身の確認は、また後でする事にして、ここから脱出の時間だ。
ノアに連れられて、裂け目の前まで到達していた。
「どうやらここのようですね」
セリアが俺の中に戻る。
「ドドンとやっちゃって!」
ノア、いくらなんでもそんな簡単にはいかないと思うけど⋯
取り敢えずやってみるか。
「ユイ、クロ、後ろに下がってるんだぞ」
2人揃ってラジャーのポーズをとる。
俺は杖に大量の魔力を込めていく。
そして、杖を裂け目に向ける。
「ファイアー、アクア、ライトニングボルト!!」
同時に3属性ボルトを最大Lvで撃ち込む。
成り行きを見守っていたが、どうやら効果があったようだ。裂け目の亀裂がドンドンと大きくなっていく。
しかし、この程度ではまだ足りない。
さっきよりも魔力を込めて、連続で3属性ボルトを放っていく。
”エレメンタルボムを獲得しました”
何やらスキルを覚えてしまった。
このタイミングで覚えたって事は、使わない手はないだろう。
試しにLvをMAXまで振って撃ってみる事にする。
「エレメンタルボム!」
そう唱えた瞬間、杖の先から虹色の玉が飛び出し、裂け目に向かって飛んでいく。
そして玉が裂け目に振れた瞬間だった。
ドゴォォォォォォ!!!!
とてつもない爆音と衝撃波が全員を襲う。
これには、さすがに全員、俺自身すら驚いていた。
さすがに耐え切れなくなったのか、裂け目が一気に広がっていく。大気にどんどんとヒビが広がっていき、やがてそれが大穴となり、大穴がブラックホールのように周りをどんどん吸引していく。
どうやら成功したようだ。
「開いたぞ!みんな!こっちに!」
俺は杖をストレージにしまい、ユイとクロの手を掴む。
そして、裂け目に向かって飛び込んだ。
「どう・私・願い・け・。私の⋯界を救って⋯守⋯。・願・ま・」
懐かしい声がする⋯久しく聞いてなかった声だった。キミは一体、誰なんだ?
次の瞬間、目を覚ますと、そこには青空が広がっていた。
先程まで見えていた、白のペンキで塗りたくった空間ではない。
どうやら、無事にあの空間からは脱出出来たようだ。
元の世界に戻ってきたとは限らないけどな。
左右を見渡す。
まず視界に入ってきたのは、ユイとクロだった。
どうやら、まだ眠っている。
良かった。2人と一緒なら取り敢えずここが何処でも俺は構わない。
正面を見ると、セリアが怒っている姿が見えた。
一瞬気のせいかもと思ったが、ノアに対して怒っているようだ。
「それでは、今日から宜しくお願いしますね、ユウさん」
「ん、ノアそれってどういう?」
どうやら、俺が意識を失っている時にノアが勝手に宿主の契約をしていたそうだ。
宿主契約って確か、対象者とキスして契約するあれの事だったような⋯。
なるほど、それでセリアが怒ってるのか。
さっきから「どういうつもりですか!」を連呼している。
俺的には、別に精霊が1人増えようが別に支障はないのだけど。
どのみち普通の人には見えない訳で。
何処かから「私だけのユウさんなのに!」と言う声が聞こえた気がしたが、スルーしておく。
取り敢えず現状の整理が必要だ。
俺達は異空間から無事に全員揃ってこっちの世界に戻ってこれた。
ところで、ここはどこだ?
辺りの光景に見覚えが無かった。
言い争いをしている2人は置いておくとして、ひとまずユイとクロを起こす事にする。
「ユイ、クロ起きろ、朝だぞ」
ユイは寝足りないのか大アクビをしていた。
クロはいつも通りでパッと目をあけて、キョロキョロと実にクールな寝起きだった。
仮にもレディーなのだから、ユイにも見習って欲しいものだ。
「ユウ戻ってきた?」
「ああ、無事に戻ってきたと思うが、ここが何処だか見覚えが無いんだよな」
「私ここ知ってるよ!」
どうやらユイには見覚えがあるらしい。
「宿屋の裏手だよ。ここへ来た最初の日にクロと探検したから間違いないもん!」
クロも頷いている。
なるほどね。というか、いつの間に2人でそんな事を。お兄ちゃん聞いてないぞ。
その足で宿屋に戻った俺たちは、昼過ぎにも関わらず、自室にてベッドにダイブしていた。
自覚がないから二度寝ではない。
次の日、目が覚めた時に何かの温もりが身体全体を覆っているのを感じていた。
いつもの真上からの重みではない。
恐る恐る片目ずつ開けて確認すると、ノアが俺に密着した状態で気持ちよさそうに寝ていたのだ。
セリアのような妖精サイズではなく、ユイやクロのような幼女体型でもなく、ノアは成人女性サイズの為、出るところは出て、引っ込むところはちゃんと引っ込んでいる。
男の俺としては、嫌な事はないのだが、気恥ずかしさの方が勝る為、正直ご遠慮願いたい。
俺は、いつもユイにしているように、ノアの頭をグリグリする。
「あいたたたっ!降参です!、いたいイタイ!」
「さては、起きてたな」
ユイとクロも今の騒ぎで起きてしまった。
セリアが俺の中から出て来た。
何やら冷たい視線を俺に送ってくるのだが、俺は無実で何にもしていないから、気にしない事にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます