暖かな「休日」~その2~

 すっかり迷っちゃった……明希は交差点で立ち止まっていた。情報端末スクリーンを見ても、これでは雑貨屋に行くどころか、駅に戻る事さえ不可能に近い。明希は都会の恐ろしさを身に染みて感じていた。


 「明希ちゃん! 」突如、交差点に声が響く。明希が声のした方に振り向くと、そこに昨日の女性士官、つまるところの珠樹が立っていた。


 「もしかして……道に迷ってる? 」開口一番に珠樹はこう言った。


 「分かりますか? 」明希は恥ずかしそうにこたえた。


 「ちょっと見れば分かるわよ」


 「そうですよね」田舎者丸出しで恥ずかしい……そう思って明希は下を向いた。


 「どこに行きたいの? 案内してあげるわ、丁度暇だし」


 「いいんですか? 」昨日会ったばかりの人に道案内をしてもらうなんてなんだか悪い気がして、明希は遠慮がちに訊ねた。


 「もちろん! どこでも言って、この辺詳しいんだから」珠樹は手を後ろで組みながら笑った。


 「それじゃあ……雑貨屋さんに行きたいです」


 「分かったわ、こっちよ」珠樹は明希と肩を並べると、横断歩道を渡り始めた。


 ~午前十二時十四分~

 

 「ここの三階よ」珠樹は大型の商業施設を指差した。明希が三十分ほど前に通りすぎた所だ。


 「ありがとうございます」明希は小さく頭を下げた。二人は雑貨屋に入っていく。


 「雑貨屋さん、なんて可愛いわね」


 「あんまりいらっしゃらないんですか?」


 「ええ、久しぶりに来たわ」エッフェル塔のミニチュアをつまみながら珠樹が呟いた。


 「そうなんですか」天井からぶら下がったエプロンを手に取る明希。黄緑のストライプのものと、青のドットのものを交互に見比べている。


 「どっちの方が似合いますかね? 」振り向いた明希にそう聞かれた珠樹は、一瞬の間の後、無難にこう答えた。


 「きっとどっちでも似合うわよ」と、


 「そうですか? 」少し悩む素振りを見せた明希だったが、すぐにこう言った。


 「じゃあ私……黄緑のほうにします! 」丁寧にエプロンをカゴに入れる明希


 「いいと思う、とっても可愛いわ」珠樹は微笑むと、骨の鍋敷きをカゴに入れた。であることを忘れて珠樹は純粋に買い物を楽しんでいた。


 「いい買い物しましたね」明希は袋を掲げて中を覗き込んだ。


 「そうね」珠樹がそう言うと、同時に彼女のお腹が悲鳴をあげた。

 

 「そういえば、お昼ごはんまだでしたね」明希は至極自然にそう聞いた、


 「それじゃあ、何か食べたいものある? 大体どこでも分かるわ」珠樹も顔を真っ赤にしながら、それでも何事も無かったかのように聞き返した。


 「甘いものを食べたいです」明希は少し考えてから言った。


 「……かぁ……」予想斜め上の明希の回答に珠樹は慌てた。どうしよう、この辺の食べ物屋に詳しいと言っても、よく行く飲み屋か食べ放題の店しか知らない、珠樹は組んであった手をほどき、AIにハンドサインを送った。


 『この辺で何か甘いもの食べられるところ探して』


 『了解しました、案内します。でよろしいですね』


 『なんでもいいから、とにかく早く』


 『分かりました』

 

 「本当に広いですね、ここ」


 「そうね、私もはじめはよく迷ったわ」


 そんな会話の合間に、AIが割って入る。


 『珠樹さん、パンケーキなんてどうです? 最高に甘くて女の子っぽいですよ』


 『私には無縁の料理ね』


 『たまには……いいんじゃないですか? 』


 『そうね、そうするわ。案内をスタートしてちょうだい』


 「お昼はパンケーキなんてどうかしら? 」


 「いいですね、パンケーキ」珠樹の提案に明希は顔をほころばせた。上手く行ったようだ。このままご飯を食べて、その後は……我ながら巧妙な計画だ。珠樹は口角を僅かに上げた──


 



 


 


 


 


 

 

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