第65話

 残りは、三人。


 校長は、僕らがカードを通して言葉と命を交わした光景に、まったく興味がないようだった。むしろ、人数が減っていくことを楽しげに見ていた。


 次の第三五ハンド、SB校長BBが僕。数が減ると強気のスチールも決めやすい―――とばかりに、校長がまたレイズしてきたので、今度は僕がリレイズして防いだ。僕も、いつまでも傍観者ではいられない。


 第三六ハンドは校長と僕がともにフォールドして終わり、ここでクロックが、第六レベルの終了と二回目の休憩入りを告げた。




 落雷の影響で配電盤に異常が生じたそうだ。講堂は別系統で無事らしいが、特別教室棟はあちこち停電し、音楽室も然りだった。外はまた雷雨が激しく、夏至直後であるから日没には早いはずだが、閃く稲妻以外、辺りは真っ暗だった。


 休憩の間飛鳥さんは、窓際の椅子に腰掛け、机に脚を投げ出して、ぼーっと天井を見つめていた。稲光に照らされる白い顔は、少し赤く染まっているようだった。


 「さくらちゃん―――?」雷におっかなびっくりしつつ近づいた桐原さんを、飛鳥さんは押しとどめた。


 「ムリすんな、はるこん。……しばらく、黙っててくれ」


 「せめて糖分補給はしてね?」城市先生がチョコレートを差し出すと、ほとんど焦点の定まらない目で、アーモンドチョコを口に放り込んでしゃぶり始めた。


 雷鳴のせいで会話もままならぬ中、五分間が過ぎていく。


 みんな黙って、稲光に明暗を繰り返す飛鳥さんの横顔を見ていた。……それは、僕もまた。


 「大丈夫。大丈夫。ちょっと、疲れがあるだけ。―――大丈夫」


 誰にも向けていない言葉が漏れる唇の端が、ニヤリと上がった。アーモンドを、かりっと噛み砕く。何か一線を、乗り越えたように見える。


 ……彼女は結局、仲間を喰らって、自らの命とした。やったことは校長と変わりない。けど、僕らの場合、そこには確かに、対話と願いがあった。そう思う。


 「大丈夫―――あたしは、魔王だ」自分に言い聞かせるように、飛鳥さんはつぶやいた。



 おそらく、もう休憩はない。


 次の休憩までに―――いや、次のレベルで決着はつくだろう。





 休憩を終え、選手入場。


 きりっと眉根を上げて、背筋を伸ばして、講堂のA入口から、飛鳥さんが入っていく。足取りに、重みがある。さながらノシノシと、突き進む。―――その後を、へらへらしながら僕がついていく。


 B入口から校長が姿を見せた。外で煙草を吸っていたのか(だから南高は全面禁煙だってのに)、大きく吐いた息が白くけぶっていて、まるでこれから火でも吹きそうだった。


 通路の途中で、二人は視線をぶつけ、火花を散らした。


 大宅は今度こそ派手なアナウンスで出迎えたかったようだが、その光景を見て、ふっと押し黙った。入り込めない何かが、そこにあった。


 パイプフェンスの外側なら観戦を許されて、退場となった仲間たちも入ってきた。彼らも静かに中継のディスプレイを見つめている。みな、固唾を呑んで見守っている。


 講堂の外で、再び稲妻が閃く。雷鳴が轟く。近くに落ちたのか、電気が瞬断して、照明が明滅する、あちこちで悲鳴があがる。その中で、微動だにせずにらみ合う、魔王を称する者たち。


 ―――まるで用意された演出のように。


 あぁ、来る。次で勝負が決まる。そんな予感がした。そのつもりで、僕も心構えしなくてはならない。

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