第61話

 一〇人テーブルを六人で囲み、残るは校長ただひとり。


 だが、ここからが本番だ。


 いくらか反撃したとはいえ、校長がチップリーダーであることには変わりない。攻撃的な態度で振る舞い、もっと多くのチップを勝ち取ろうとするのが、チップリーダーのセオリーだ。


 実際、校長は全く動じず、極めて攻撃的だった。


 次のハンド。つまり第七ハンド。SB校長、BBは僕。先の三人がフォールドし、ディーラーポジションの桐原さんがレイズして入った。このレイズはスチールというテクニックで、残るSBとBBがフォールドすれば、ブラインドのチップを労少なく獲得できる。


 しかし、相手が攻撃的なプレイヤーに対してはあまり有効でないのだ。レイズ額が調節できないフィックスリミットだとなおさらだ。校長は一瞬もためらわずリレイズした。僕はフォールド。桐原さんは、困った顔をしてコールした。


 フロップは ♡T♡J♣J。


 とても攻めづらいボードだ。桐原さんはチェックし、校長は容赦なくベットした。桐原さんは唇を引き結んでフォールドし、ハンドは校長の勝利に終わった。どうにも、攻撃力という点でこの二人の相性はよくなさそうだ。




 次の第八ハンド。SB僕、BBは勇。校長がディーラーポジションだ。


 飛鳥さん、和尚、桐原さんとフォールドした後、今度は校長がスチールを仕掛けてきた。僕は下りたが、勇がリレイズし、受けて立った。


 フロップは ♣A♠8♣6。


 勇がベット。校長がレイズ。勇はコール。


 ターンは ♠5。


 勇はチェック。校長がベット。勇がレイズすると校長はコール。


 リバーは ♠4。


 勇は少し考えてチェック。校長のベットにコールした。


 ショーダウン。


 勇の手札は ♢A♠K だった。エースのワンペアである。


 校長は ♣7♡6。酷い手札だ。だが、ディーラーはチップを彼の元に移動した。リバーでストレートが成立したからだ。


 この手札でスチールに失敗したなら、普通はあきらめてフォールドするものなのに。そこで応じるフィッシュプレイに負けるのか。




 その後は、しばらく大きな動きはなかった。校長は攻撃一辺倒ではなく、ちゃんと緩急をわきまえていて、動かないときはまったく動かなかった。それゆえ、攻めてくるときの恐怖感がハンパないのだ。


 第一〇ハンドで、ストラクチャ第二レベルは終了。第三レベルに上がり、ブラインド額は三〇$/六〇$となった。


 第一一ハンド。SB桐原さん、BB校長。


 和尚が再び仕掛け、レイズした。桐原さんコール。校長は少し考えたが、コールした。


 フロップは ♠8♡6♣9。


 校長がチェック、和尚がベット、桐原さんはフォールド、校長はコール。


 ターンは ♠9。


 校長がチェック、和尚がベット、校長はコール。


 リバーは ♣A。


 校長がベット、和尚がレイズ、校長がリレイズ、和尚は「くそっ」と小さく毒づきながらコール。双方ともエースを持っているのは間違いないやりとりだが、これは―――。


 ショーダウン。


 校長は ♠A♢T、和尚は ♢A♢8 だった。和尚は8を持っていてそのペアがあることを強みに攻めたわけだが、ターンでボード上に9のペアができてしまった。この場合、双方ともエースと9のツーペアとなり、手札の残り一枚キッカーの優劣で勝負が決まる。従って、10テンの方が上だ。校長の勝ちである。


 校長は強気なだけでなく、今日の勝負に限っていえば、凄まじい強運の持ち主というしかない。僕が勝った第六ハンド以外、実に都合よく、彼が勝てるカードばかりが、奇跡のようにターンとリバーに現れる。これも魔王の力、というべきなのか……。




 一方で飛鳥さんは、これまでのところまったく動きがない。部活でやっているときは、それこそ今の校長のような、どんどんハンドに参加しては容赦なく攻撃的なベットを繰り出す、いわゆるルースアグレッシブが飛鳥さんのスタイルなのに。


 彼女がフロップにさえ参加してこないのは、よほどの状況だ。見た感じ、彼女が思考を巡らせている様子がない。つまり、考えるまでもなくフォールドせざるを得ないような、そんなひどい手札しか来ていないようだった。



 次の第一三ハンド、SB校長、BB僕になったところで、その飛鳥さんがレイズした。和尚、桐原さんとフォールドし、校長は―――ちらりと飛鳥さんをにらみつけたが、すんなりとフォールドした。単に手札が悪かったのか、それとも―――いや、あの視線は、どうも警戒しているように見て取れた。


 校長は、普段の飛鳥さんがルースアグレッシブなのを知らない。ルースの逆、タイトプレイヤーだと考えたのだろう。つまり、今までフォールドばかりの飛鳥さんが急にレイズしたから、勝負に出られるいい手が入ったに違いない、と推測したのだ。


 実際はどうだろう、今回も、よく手札を見て考えた様子がなかった。つまり彼女が望んでいるのは―――僕はコールした。


 今回は、ボードの内容は関係ない。


 フロップで、僕チェック、飛鳥さんベット、僕コール。


 ターン同じ。僕チェック、飛鳥さんベット、僕コール。


 リバーでは、僕チェック、飛鳥さんのベットに、僕はフォールドした。飛鳥さんは小さく頷いた。


 このハンドで、僕は飛鳥さんに三〇〇$融通できた。今、チーム内でいちばんチップを持っているのは僕だから、下手に貯め込んでおくくらいなら、他のメンバーに融通するのもひとつの手だと、そういう指示を出すためのレイズだったのだ。グラサンたちのようにプログラムでやるのでなく、自分の意志で。



 その後は大きな動きなく、第一七ハンドが終わった時点で、ストラクチャ第三レベルは終了。一回目の休憩に入る。

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