元も子もない。

「必ず、捕らえよ。情報を聞き出すために、絶対に生きて捕らえるように」

 とある国の独裁者は命令を下した。外国のスパイを捕まえるべく、強い指示を出したのだ。


 とある国では、独裁の意向が何よりも優先される。まずは直接指示を受けた官僚たちが黙々と動き、さらに下に指示を出す。


 その結果、スパイは捕まったが、死んでしまった。無理やり強引に進めすぎたため、殺してしまったのだ。


 ──忖度が下へ下へと流れるうち「必ず捕らえよ」の命令だけが独り歩きし、必定となってしまっていたのが原因。死んでしまってはどうしようもない。情報は入らぬままだ。


 直接指示を出した官僚に感情をぶつけようにも、またその怒りが下請けから下請けへと流れていった結果、どうなるかもわからない。そう考えると独裁者は怒り狂うこともできないのだった。

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