インスピレーションか?努力か?

「そうなんだよ。最後は勘なんだ。前例や道理じゃなくな」。と老人は、円団の中で若者たちに語る。いわゆる“成功者”と言われているその老人は、人生のついに際し、自分自身の経験談を若者たちに伝えようと決め、夜な夜な語り続けているのだった。


若者たちも、普通の老人の戯言を聞くほど暇ではないが、たった一代で国内有数の資産を有するまでになった成功者の薫陶を授かることはやぶさかではない。かくして、日々若者たちは老人のもとを尋ねるのだった。


それを聞いたある若者は「わかりました!僕も勘だけを信じて新しいことに取り組みたいと思います」。

老人は若者を一瞥した。向こう見ずなタイプだ。


──「バカモノ。勘というのは、あくまでも日々の努力や精進の結果に磨かれるものじゃわい。必死で必死で頑張った結果、脳が鍛えられて勘として昇華されるにすぎん。何にもない状態で突発的に生まれるわけがなかろう」。


円団では、努力の尊さについて語る時間が99%。最後の1%で勘の話をする。しかし、若者たちは“自分の聞きたい言葉だけ”しか聞いてはいないのだ。だから、成功には程遠い…。

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