車両

「どうなっているんでしょうね?」

 男は横の女性に聞いた。

 ふと気がつくと、自分と、横に座っている女性以外は、まったく誰もいないという異常な状態に、不安を共有したかったという心理が働いたからだった。


 女に話しかけると、待っていましたとばかりに、一気にまくし立てるように話し出した。


 多少、精神的な病についての知識をもっている男は、(鬱症状に対する薬を処方された人間特有の症状だな)と感じていた。


 少しうんざりしながら、女の話に相づちを打っていると、駅に止まる度に、徐々に人が増えてきたので、男はホッとした。


 しかし。

 良く見ると、みんなの様子が少しおかしいことに気がついた。

 一点を凝視している男、フラフラと車両を歩き回る女。


 そして。車両にアナウンスが鳴り響いた。

「え~。この電車はレティクル座行きの超特急でございます」


 それを聞いた瞬間。

 男は、忘れていた記憶を一気に取り戻した。

 男は、とあるビルから飛び降りたのだった。


 電車は、自殺者ばかりを乗せて、闇へと消えていった。

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