シーン2 青春ドラマにありがちな屋上での告白
高等部の屋上で、瑞希は絶叫した。
「たーまーさーぶーろー!」
屋上に吹く風は強い。
その風と共に姿を現した玉三郎に詰め寄る。
「あんたでしょ、空調の配線いじったの!」
「一介の中学1年生にそんなことできるわけが」
「おだまり! 知ってんのよ、鳩摩羅衆がよちよち歩きの頃から錠前破りだの時限装置だの仕込まれるって」
玉三郎の眼前に、何やらややこしい配線が施された機械がつきつけられた。
ご丁寧に「白堂獣志郎」と署名してある。
「俺、玉三郎」
「都合のいい時だけ玉三郎になんないでよ、玉三郎!」
「俺のことは獣志郎と」
さっき自分で玉三郎って名乗ったでしょ~が、とは突っ込まないで、瑞希は微かに震える背中を向けた。
低く抑えた声だけが聞こえる。
「どーして邪魔ばっかりすんのよ。あたしに恨みでもあるの?」
「いいや」
「じゃあ、兄貴?」
恨みはないよ、とどぎまぎしながら答える玉三郎に、瑞希は頬を紅潮させて向き直った。
「じゃあ何? そりゃ、兄貴は顔と成績はいいかもしれないけど、見たら分かるでしょ? バカの一言しかないじゃない。あんたが構うことないでしょ!」
玉三郎は不満気に答えた。
「何で俺が構っちゃいけないのさ」
「だってあんた」
瑞希の言葉がそこで途切れた。玉三郎をじっと見たり、雲一つない青空を見上げたり、じっと何か考えている。
やがて口を開いた。
「まあ、格好いいし」
「あ、これ、もしかして告白?」
うつむく瑞希に、玉三郎は手を叩いて笑いだした。
その笑いは、むきになって「違う」と叫んでも止まらなかった。
「周りの女子がそう言ってるの!」
へえ、と照れ笑いする少年に一瞬だけ見とれた瑞希は、余計に金切り声をあげる。
無理もない。
そもそも、瑞希に友達はいなかった。
「だいたい、あんた鳩摩羅衆でしょ? 騒ぎ起こしてチマチマ稼ぐのが仕事でしょ? アニキ構って何か得があるの?」
「元はちゃんと取るさ」
しれっと返ってくる答えに、瑞希は更に踏み込む。
「ど~やって?」
「言えない」
「何で?」
鳩摩羅衆の掟、と今度は真顔で答える玉三郎。
「吉祥蓮には吉祥蓮の掟があるだろ、それはいいっこなし」
追及の言葉にぐっと言葉に詰まって、瑞希は声を押し殺した。
「とにかく、兄貴はあんたが相手にすることないの! 普通だったら黙殺よ、無視よ、路傍の石よ」
「その割にはやたら世話焼いてる気が」
「兄貴だから! たまたま兄貴になったから!」
「理由になってない」
「だって、なんか、ほっとけないじゃない!」
「ほっとけないだろうね」
「そうでしょ? ……え?」
きょとんとして目を見開く瑞希を、玉三郎はまっすぐに見つめていた。
「そういうところ、いいな」
「どういう意味?」
視線をそらした瑞希だったが、続く一言には、直立して固まった。
「好きだよ」
すっかり高くなった青空から、一陣の風が吹き降ろしてきた。
白い夏服の袖と、膝下までのスカートをその風になびかせて、瑞希は目を見開いて立ち尽くした。
その顔を、玉三郎は真剣な表情でまっすぐに見つめる。
二人はしばしの間、沈黙した。
やがて、この一言で瑞希の心臓は一瞬だけ止まった。
「君の兄さんが」
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