追跡者
アルフォンスが行きついた場所は、森の中。――忘れ去られた街があった場所。
アルフォンスは歩を止めると、一度体を伸ばすようにし欠伸をする。
そして自分を尾行する者に向け言った。
「そろそろ姿を現してもいいんじゃない?」
「…………」
一瞬の間を置いて、その者が木陰から姿を見せる。
その音を聞き、アルフォンスも向き合うように振り返った。
「どうしてボクの跡をつけた?」
「…………」
「これはキミの意志じゃないよね。誰の指示?」
「…………」
「……答えない、か」
(まぁ、感情を読めばある程度はわかるだろうけど)
アルフォンスは読心を使う。――が、それは通用しなかった。
邪神竜を
――これは、できなかったわけではない。“通用しなかった”――つまり、意味がなかったのである。
追跡者には感情がなかったのだ。彼は、――もう既に死んでいる。
死人の体を誰かが操っているのだろう。
(へぇ、面白い)
アルフォンスは思わず口の端をあげた。
『おい、どうする。これじゃ下手に動けねぇぞ』
邪神竜がそうアルフォンスに問いかける。
その言い方はどこか面白がっているようだった。
アルフォンスがこの状況をどう打開するかに興味を抱いているらしい。
『まぁ、そうだね、魔法は使えないかな。……それと、本体についても探る必要があるね』
目前の死人を誰がどこで操っているかわからない。
しかし、第三者が関わっているのであれば、目前の死人に“アルフォンス”という存在の正体を知られるわけにはいかないのだ。
僅かの間思考を巡らせ、アルフォンスは追跡者に言った。
「素直に姿を現したってことは、死ぬ覚悟ができているってこと? それとも、ボクを殺す気でいるのかな」
変わらず無言でいる追跡者に、アルフォンスは小さく息をつくと続けて話しかける。
「まぁ、どちらにしろ、ここで戦うことに変わりはなさそうだね。――丁度いい。せっかくいろいろ買い揃えたんだ」
そう言いながら、アルフォンスは指輪から短剣を出し両手に握った。
しかし、追跡者は何の動きも見せない。
「――練習相手になってもらうよ」
そう言い放った瞬間、アルフォンスは追跡者めがけ駆け出した。
追跡者の目前で両手に握る短剣を横に振るうが、追跡者は上に飛び上がりそれをかわすと、アルフォンスの後ろに着地する。
それと同時に追跡者は後ろにのけ反った。その目前をアルフォンスの短剣が横切る。
体制を立て直そうとする追跡者に向け間髪入れずに放たれる短剣。
「…………」
――鈍い音をたてながらそれは追跡者の腹部に刺さった。
しかし全く動じない。少しも声を漏らさず、表情一つ変えない。
そして何より、刺さっただけであることが、その体にもう魂がないことを物語っていた。
「へぇ? 隠すこともしないんだ、もうその体が死んでるってこと」
「…………」
(それだけじゃない)
敵は、攻撃をしてこないのだ。
その身を盾にしてまでの目的、それは、ただ一つ。
――“情報”だ。
「申し訳ないけど、キミの目的を達成させるわけにはいかない」
アルフォンスがそう言ったその時、追跡者の背後に一つの影が迫った。
アルフォンスは彼の目を真っ直ぐ見つめ、口に三日月を浮かべて、言う。
「待ってて? すぐ、キミを殺しにいくよ」
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