捜索と崩壊
「まだ見つからないというのか!!」
火王の怒声が、執務室に響く。
アシュレイが城から姿を消し半年が過ぎた。
王女がいなくなったと国民や他国にバレてしまえば、いなくなったことのみならず王女の存在を今まで隠していたことも明るみになり、国の信頼にも差し障る。
そのため、一ヶ月目に捜索を開始したが大々的にできるはずもなく、地道な捜索が続いた。
火王の予想に反し、アシュレイの存在は簡単には見つからない。
火王自身が捜索に出るのが一番の解決策にはなるのだが、火王は国の代表としてその容姿は世界中に知れ渡ってしまっている。
火王自身が出てしまえば、何のかあったのではないかと一瞬で悟られることだろう。
“国の視察のため”――。
その理由が一番なのだろうが、それならば宰相で十分。
結局、国民の不信感を買ってしまうのだ。
思い通りに行動できないことに、火王は自分自身にも腹を立てていた。
宰相アレックの心にも焦りが見え始める。
国内では大きな問題はないため、アシュレイの身に何かあったというのは考えにくいが、無かったとも限らない。
また、あってからでは遅いのだ。
アレックは国民に怪しまれない程度に分身の数を増やし、そして“読む”能力を常に意識しながらアシュレイの捜索に取り掛かった。
――だが。
そんな彼らの努力も空しく、アシュレイを見つけることは出来ず、そのまま一年が経とうとしていた。
「申し訳ございません。今日もまた見つけることができませんでした」
聞きなれてしまったその言葉に、火王はため息しか出ない。
「もうすぐ一年だぞ……。私の唯一の子供だ。アシュレイがいなくなっては跡継ぎがいなくなってしまう」
火王はそう呟き、頭を抱え込んだ。
……暫く重い沈黙が続く。
その沈黙を破ったのは、火王のこんな一言だった。
「――私も捜索に参加しよう」
それはもう、最終手段。
だがその他の手は、使い果たしてしまっている。
アレックもそうするしかないと思いつつ、なかなかそれを認めることができない。
その理由はやはり、火王とこの国自体の信頼にあった。
「ですが、女王様――」
「――異論は認めない。……もうこうするしか、手はないのはお前もわかっているだろう。今でも遅すぎるくらいだ。……私の目で探せばすぐ見つかる」
「…………」
そうして、火王も分身を使い、アシュレイの捜索に参加することになった。
宰相のアレックと違い、できるだけ目立たないようにしなくてはならないため、火王は分身でも一人しか捜索に参加できない。
少し効率は悪いが、今までに比べればずっとマシだ。
目立たないように出来るだけ早く見つけるべく、朝早くから捜索を開始した。
城下の普段賑わっている場所に行く。
火王はふと違和感を持った。
それは言い知れない何か。
ただ見ただけではわからない何かだ。
「アレック。……何か、違和感を感じない?」
「違和感ですか? …………、私には何も感じませんが」
アレックが何も感じていないことにさらに違和感をもつ。
アレックも宰相を務めている身。
能力的には十分高いはず。
そのアレックには何も感じない、“それ”。
「アレック、お前一人と騎士を二、三人着いて来て」
アレックは近くにいた騎士を三人呼び、そして火王の後についていった。
「どうしました?」
「ちょっと、気になることがあってな」
そう答えながら、火王はずっと店が並ぶほうを見ている。
途中、早朝のためまだ閉まっている店のドアや民家の壁を注意深く触っては、火王は首をかしげていた。
そうして十分ほどした時。
「女王様? いつまでそうしてるんですか。そっちには隠れるような所もなければ、曲がり角もありませんよ」
「――た」
「はい?」
「――あった」
火王の言葉にアレックは首を傾げる。
「何があったんですか」
火王は笑みを浮かべ答えた。
「――曲がり角だ」
そう言ったかと思いきや、火王はすっと民家のドアに右の手の平を向ける。
「女王様?! 何を――」
アレックが止めようとするが遅かった。
火王の手からは魔法が放たれ、民家は既に燃えている。
「なっ、何をしてるんですか!!」
慌てふためくアレックと騎士達には見向きもせず、火王はただじっと燃える民家を見つめた。
「まぁ見ていろ」
「どうしてそんなに落ち着いて――」
アレックの言葉はそこで止まる。
続ける事ができなかったのだ。
炎に包まれている民家は近くの物や家に燃え移ることもなく、ただ燃えていた。
炎の形は四角い――そう、まるで曲がり角を示しているかのようで。
燃えつくしたのか、徐々に炎が消えていく。
その後に現れたのは――。
「み、道、だ……」
騎士の一人が呟いた。
火王は笑みを浮かべる。
「アレック、命令だ。騎士数人とお前自身を一人残し、他は全員この道の先を捜索しろ!」
「はっ」
――その頃。
リヒトがいつもよりどこか騒がしい音に気付き、目を開ける。
体を起こし時計を見やると、まだ六時半だった。
いつもどおり、庭のほうからアレシアの魔法を唱える声が聞こえる。
だが今日はそれの他にいくつかの声が外から聞こえる気がして、カーテンを少し開け窓から外に目を向けた。
その時、大通りへと繋がる曲がり角から火ノ国の騎士たちが現れるのが、リヒトの目に映る。
咄嗟にカーテンを閉め、窓のすぐ横に身を隠し口を手で塞いだ。
リヒトの頭にいろんな疑問や考えが浮かぶ。
なぜここに騎士たちがいるのか――。
この場所がバレた? ……ではなぜこの場所がバレたのか――。
でもその前に――
「――アレシアっ」
今自分が真っ先にすべきこと、最も守りたいものを思い浮かべると、すぐに行動した。
リヒトの心臓は、今までにないほどの恐怖に激しく脈打っている。
幸せな日々の、崩壊だった――。
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