アレシアの本名
「まさかキミの口からそんな言葉が聞けるとはね」
「…………」
アルフォンスの言葉にアレシアは黙り込んだ。
彼女の言った言葉は、本来ならば裏切り者と見なされるもの。
アレシアとしても、あれ以上何かを言うのははばかられた。
「要約すると、キミは闇の仲間になりたいってわけ?」
「………」
「あー……というよりは、“闇の少年”の、かな」
「……そう、ですね」
「ふーん」
アルフォンスは背もたれに寄りかかると天井を仰ぎ見て、少しの間考えるように黙り込む。
アレシアは俯きながらもそんな彼を盗み見るようにして見つめた。
『ねぇ。今ふと思ったんだけどさ』
少年が
『なんだよ』
『彼女――アレシア=ハルフォードの本当の名前、なに。君なら知ってるんじゃない?』
『あー、まぁな。これでも神の中では最高位だし』
『それ初めて知ったんだけど。まぁなんとなくそうだろうな、とは思ってたけどさ』
『あれ、言ってなかったか? 俺、これでも最高神の光の神と同等の力持ってんだぜ? まぁだから最高位ってわけ』
『あっそ』
アルフォンスは目をつむった。
『それよりも、彼女の本名。知ってるなら早く教えて』
『はいはい』
邪神竜はめんどくさそうに、アレシアの本名を明かす。
『アシュレイ=レッドフォード。火王の娘だから、姓はレッドフォードになってる』
『ふーん――』
アルフォンスはゆっくりと瞼を開けると、アレシアに言った。
「もし。もしキミが本気なら……“誰もが寝静まる時間帯”に“誰もが寝静まっている《《はずの》》場所”に行きな。そして〝孤独な場所”に“彼”はいる」
「どうしてそれを……? どうしてそれを知ってるの……? どうしてそれを私に教えるの……?」
アレシアはどこか呆然としてアルフォンスに問う。
「質問ばかりだね、キミは」
呆れるようにアルフォンスはそう言った。
「ねぇ。どうして――」
「――さぁ? どうしてだろうね」
――彼女の問いには当然の如く答えない。
アレシアの言葉を遮るようにそう言うと、アルフォンスは続けて言った。
「ま、行くか行かないかはキミ次第だから。ボクの言葉を信じるかどうかもキミ次第だし」
「…………」
アレシアは黙り込む。
アルフォンスはアレシアのほうに目を向けた。
しばらく沈黙していたが、やがて彼女は口を開く。
「……行きます。“彼”に会いに」
それを聞くなり、アルフォンスは僅かに笑みを深め「そう」と返した。
アレシアは小さく息をつくと「そろそろ失礼させていただきます」と言って、話は終わりというようにドアの側に置いておいたワゴンに手をかける。
「そうだね。騎士団のほうも終わった頃だろうし」
アレシアは昼と変わらず机の上に乗っている食器を片づけ、それらが乗ったワゴンと一緒に部屋を出た。
一礼して出て行ったアレシアを見送ってから、アルフォンスは呟く。
その顔に不気味な笑みを浮かべて――――。
「アシュレイ=レッドフォード。楽しみにしてるよ。君にはいろいろ期待してるんだ――――」
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