彼の感じる喜びと悲しみ

「――アレック。お前もさすがにわかったんじゃないか。……アルフォンスが“異例”だという意味が」


「……はい」


火王が宰相のアレックにそう言い、アレックもまた僅かに戸惑いを見せながら返事をする。



今、火王とアレックは執務室にいた。

空はもうすでに茜色に染まっている。

火王は編成試験の結果から今部隊の編成をし、アレックはその補佐をしていた。


編成試験はアルフォンスの独壇場となり、誰一人として彼に勝るものはいなかった。

騎士団トップ3の強さを誇るブレット、セシル、シリルとの対決も、結局火王がアルフォンスの勝利を告げたことにより幕を閉じた。

そしてその後騎士団は解散となったが、アルフォンスが一人競技場から出ただけで、残された騎士たちは皆呆然とそれを見送っていた。


彼らにアルフォンスがどう映っていたのかは定かではないが、おおよそ、まるで悪魔のように見えていただろう。

アルフォンスは、傷をつけることに対し何の抵抗もなかった。

むしろ、喜びを感じていたように思える。

傷をつけることに対する喜びとは違う、どちらかといえば傷ついた者の苦痛に歪むその表情を見て喜んでいるように見えた。

だがそれともどこか違った。

――何かに対する喜び。


火王は彼にそんなことを思うと同時に、一瞬だけ彼に感じた“悲しみ”の感情が忘れられずにいた。



「女王様。……アルフォンスは、何者なのでしょう。この世界において魔法を使えない者など見たことがありません。それにそんな者があんなに強いなど……」


「アルフォンスは、魔法が使えないからこそあんなに強いのだろう。……強さを求めたからだろうな、あんなに強いのは」


「…………」


火王の言葉にアレックは思わず黙り込む。

そしてその言葉に納得をした。

だが気になるのはそこだけじゃない。

――――彼の、感情。


「肝心なのはそこじゃない。肝心なのは、あいつの感情だ」


「楽しんでいましたね、闘いを。まるで傷つけることに快楽を感じているかのようでした」


「……そうだな。――だが何か違うんだ。何かが」


「……何か、ですか」


アレックは火王の様子に、思わず眉間に皺を寄せた。


――アレックが思っているほど、アルフォンスの感情は簡単じゃない。



「女王様の仰せの通り、彼には注意しましょう。何かあればすぐにでもご連絡いたします」


「ああ、頼む。……ただ、監視ではない。そこは気を付けてくれ」


「御意」







一方その頃。


部屋の場所や物の配置を覚えておいたほうが後々ラクだと考えたアルフォンスは、城の中を歩き回っていた。

その“ラク”というのも、もちろん生活するだけのことではない。

彼の動く理由は全て“復讐”が中心なのだから。


「やっぱ広いな」


『そりゃな。城だろ? 広いに決まってんだろ』


(まぁそうなんだけどさ)


様々なところに目を向けては近づいて、そして手で触れてみる。


そうしていると、ふと窓から見える空に目がいった。


(夕方、か。……そろそろ暗くなるな)


空は茜色から紫がかったものになり、薄く星が見えている。


「――始めるかな」


そう呟くなり、アルフォンスは口元を三日月に歪めた。

そして自室へと戻るために歩き出す。


その姿はもう、“アルフォンス”ではなかった――。



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