第44日 終末暦6531年 4月13日(水)(推定)

 しゅうまつれき6531年 4月13日(すいようび) 晴れ れいとうみかん


 あさはやくに、Vくんがはなしかけてきました。Vくんは、ちょっとこわいです。けど、まだほかにだれも学校に来ていなかったし、おはなしをしないりゆうもなかったので、わたしはVくんとおはなししました。

「ずいぶんと、いいかっこうになったな。どんな気分だ?」

「……何を言っているの?おかしな人。どうしてあなたはみんなとちがうの?」

「おれはおまえたちではなく、おれ自身だからだ。そんなこともわすれてしまったのか。やつはそんなにおまえをモノにしたいのか」

 Vくんはまっすぐわたしを見ていました。

「なにをしているんだ?」

 Vくんはわたしにたずねました。このとき、わたしはちょうどVくんのつくえにおえかきをしてあげていました。わたしのつくえとおなじように、おえかきをしてあげていたのです。つくえの上の文字をVくんはよみ上げます。

「シネ、ゴミ、クズ、キエロ、バイキン……おまえはこれがどういういみか分かっているのか?」

 Vくんはヘンなことばかり聞いてきました。Vくんがよみあげたことばのいみは分かります。けれど、どうしてそんなあたりまえのことをたずねてくるのか、わたしには分かりませんでした。

「分かっているよ。これでVくんも、みんなになれるんだよ」

 わたしはそうつたえました。つたわってほしいと思いました。コワいVくんだけど、いっしょになればきっとこわくなくなると思ったからです。けれど、Vくんはこわいえがおをうかべて、わたしを見ました。

「なるほど!!そいつはケッサクだ!」

 おなかをかかえて、おおわらいされました。そんなにおかしなことだったでしょうか。わたしには、分かりませんでした。

「どうしてそんなにわらうの?」

「これがわらわずにいられるか!?ケッサクだ!!コッケイだ!!そして、おぞましいくらいにくだらない!!」

 Vくんはバカにしたようにわらいつづけました。とても、こわくてかなしくてわたしはなきたくなりました。

「わらわないで!!わらうのをやめて!!」

 Vくんは、わらうのをやめてくれました。わたしをからかっているのかと思ったのに、わらったあとはいがいにマジメなかおで、わたしを見ていました。そして、

「そうか。そう思えるなら、まだ平気だ」

 フッと小さくわらいました。

「その気持ちを、ゆめゆめわすれるなよ。まだそこにあるならば、まだそこにいるのなら、落とすな。アレはきっとキミをむかえに来るぞ」

 早くみんなが来てくれないかな、とわたしは思いました。Vくんが何を言っているか分からなかったからです。みんながいれば、みんなとあるなら、わたしは何もこわくはないのに。

「ボクは人のかおをおぼえるのはニガテだ」

「え?」

 とつぜんのはなしにわたしは首をかしげてしまいました。

「だが、キミはキミのかおに見える。口がてっぺんについたり、目があっちについてたり、そんなことにはなっていない」

「そんなの当たり前じゃない」

「そうだ。それが当たり前だ。キミはみんなにはなれないし、みんなはキミにはなれない。シュに交わって赤くなっても、それ以外は同じになれはしないのさ。分からないか?分からないだろうな。分からないことがこわいだろう?」

「こわいにきまっているじゃない」

 なんだかイライラしてきてそう言ってしまいました。

「分からないのはこわいにきまっているわ」

「ああ、だからボクのこともこわがってくれ!」

 Vくんはわたしの手をつかみました。ここで初めて気づいたのですが、Vくんの手はすこしつめたくて、ふるえていたのでした。

「ここに長いこといれば、ボクだってどうなるか分からない。みんなとやらになってしまうかもしれない。ああ、そう思うと、心のそこからきょうふをかんじる!!今までになく、ボクはこわい!!そして、こわいことがこんなにもよろこばしいんだ!!まだ、こわいと思えるボクがいるのだと!!へいの上からでもさけんでしまいたいんだ!!だから、キミもまだこわいままでいるといい!!」

「……何をいっているのか分からないわ」

 わたしは正直に言いました。うそをつくのはいけないことだから。わたしはVくんの手をふりほどきました。

 みんなが学校にとうこうしてきたのは、そのころでした。わたしはVくんからはなれました。Vくんは、教室から出て行ってしまいました。


 今朝のできごとがあたまにのこって、きょうはあまりじゅぎょうにしゅうちゅうできませんでした。先生はVくんのいっていることのいみがわかりますか?もしわかるならおしえてください。



【せんせいからのことば】


 Kさん、Vくんからの言葉ことばを気にしすぎてはいけません。あなたがこわれてしまいますよ。Vくんには私からよく言っておきます。だから、今日きょうのことはわすれてくださいね。

 授業じゅぎょう集中しゅうちゅうできなかったのは、あまり良くないですね。給食きゅうしょく冷凍れいとうみかんをのこしちゃったのも、Vくんのせいですね?

 Kさん、Vくんは本当にわるい子ですが、今回こんかい一先ひとまゆるしてあげてくださいね。そのうち、かれもきっとみんなになれますから。


 先生より

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