第166話 次男の出産

 八月に産まれた次男は私のお腹で居座りました。

 予定日を過ぎた頃、陣痛を感じて主人と真夜中ドキドキして時間間隔を計りましたが、結局その陣痛は消えてしまいました。(前駆陣痛)

 そして、一週間。

 私は焦りました。

 予定日を過ぎて、胎盤の機能が落ち、赤ちゃんの元気が無くなったらどうしよう。

 一日に何回も胎動を確認しました。

 以前聞いた『階段を100回上り下りすれば絶対に陣痛が来る』を思い出し実行しようとしましたが、時期は真夏。20回で汗だくで音をあげました。アカン、冬なら出来るけど。

 周囲の今か今かというプレッシャーはかなりのものです。なんとか早く出さねば、という思いになります。

 筋縮、というツボにお灸してみたり。(陣痛を促すと言われている背中にあるツボ。足首の三陰交には毎日安産灸をしていました)


 そんなこんなで予定日から10日目。

 深夜、私は便意で目覚めました。(私の陣痛は毎回いつも便意から始まる)とうとう来たか。時計を見ると深夜3時15分。

 トイレに行くと、お約束のおしるし。長男の時と一緒やな。ジャイ子の時はなかったなあ。そう思いながら便座に座り、携帯で陣痛間隔を計ってみますと。間隔は二分。

 私は焦りました。えええ! もう?

 いや、いやいや。ピークの陣痛じゃないし、歩けるし、大丈夫大丈夫。

 私は寝てる主人を起こしに行きました。


「陣痛、来たわ」


 一番深い眠りに入っていた主人。来た? とぼんやりと起き上がります。準備する、と私は起きて電話をかけに。病院に電話して、シャワーを浴びました。主人が起きてきて、一緒に車に乗りました。

 3時半には出発。

 深い眠りから起きていきなり十五分で運転したものですから


「コーヒー、一杯くらい飲んでから行きたかったな。心臓がドキドキしてる」


 と、主人。急激に血圧が上がったでしょうね。身体に悪そう。

 分かりますが、陣痛間隔が短いものだから焦っちゃう。

 車の中で、乱れていた陣痛間隔は十分間隔に落ち着きました。ほ、と一安心。

 懐かしい生理痛。どうか車の中で産まれませんように。

 先程の電話で病院の助産師さんから『バスタオルも持って行ってください。車の中で産まれそうだったり、もし破水したら電話してくださいね。リードしますから』とおっしゃってくださった言葉を思い出します。


 深夜なので道は空いており、40分かかる距離を30分程で行けました。病院の駐車場に着くと生ぬるい夏の風。車を下りた途端に陣痛。

 いたた、と車の横でしゃがみこんで、通り過ぎるのを待ちます。通り過ぎるやいなや、急いで病院の中へGO! 次が来るまでになんとか産婦人科病棟へ。

 内診すると、子宮口は五センチ。

 トイレを済ませ、陣痛室ではなく、分娩室に案内されました。分娩台に横になり、お腹に機械をつけ、今回は薬を注射します。直前の健診でB群溶連菌の検査が陽性だったので、抗生物質を。(赤ちゃんが産まれる時に感染して重症化するのを防ぐため)効いてくるのは一時間経ってからだと言われましたが。それまでに赤ちゃんはお腹から出ちゃうんじゃないのかなあ。あまり、注射の意味がないんじゃないのかなあ。(そして、その予感はそのとおりに)

この時4時半過ぎ。


 出産時に主人がそばに居るのは、初めてです。新鮮だなあ。

 しばらくは主人とペットボトルのお茶を飲みながら話をしていました。

 どんどん陣痛は強く。五時前に助産師さんが内診を。


「うん、産まれるのはあと一時間後ぐらいだと思います」


 いやいや、あと三十分ぐらいだと思いますよ。(そしてその予感はそのとおりに)


 本格的になる陣痛に、私は主人に肛門のあたりを押さえてもらうように頼みました。散々今までの出産については話していましたから、強く思いっきり押さえるようにと。

 来ました。


「◯◯ちゃん、押さえて!」

「ココ?」


 違う! そこやない!

 しかもイテェ!

 的はずれな場所を思いっきり押さえられて、かえって腹が立ちます。


 ああ。やっぱりジャイ子の時の助産師さんのようなゴールドフィンガーとはいかんか。

 側で見ていた助産師さんが主人に指導してくれ、少しはマシに。

 次の陣痛で破水しました。

 助産師さんがバタバタされ始めました。

 先生ともう一人の助産師さんを呼び、私の脚にカバーをつけます。

 主人が一旦外に出て、内診。子宮口8センチ。ああ、いきみたい感じが限界に。

 私は、今回の出産では絶対にいきもうと決めていました。前回ジャイ子のように、不本意でモヤモヤとした産後の思いはごめんです。

 

「……いきみたい」


 声が漏れます。


「少しならいいですよ。お尻に来るような感じなら」


 と、助産師さん。

 ま、また、難しいこと言いますね。意味がよくわかりませんでしたが、私は少しだけいきみました。全力でいきむほどにはいきませんが、陣痛の苦しみはラクに。

 主人が再び部屋の中に戻ってきました。

 もう一回ぐらい肛門を押さえてもらいましたが。ああ、本番に近づいてきたで。

 先生、助産師さんも集合。


「こんにちは。◯◯と言います。よろしくお願いします」


 来られた先生がそうおっしゃる声にそれどころではないのですが、よろしくお願いします、とそちらの方を見ます。


 ……ハッ!


 ……メガネ。オールバック。

 ナイスミドル。少し、厳しそう。


 エ、エエ感じやわ……! (←注 主人がすぐ隣にいます。この土壇場で割と余裕だな、私)


 いよいよ、ということで主人はカーテン一枚を隔てた廊下へと退出。

 今回の病院は割とゆるくて、主人は両親学級に出席していなかったのですが、希望すると主人も立ち会い出産が出来たようです。でも、本当の本番は立ち会いはいいか、というように決めました。


「じゃあ」


 と去る前に声をかけた主人に、返事をする余裕がなく頷きで応える私。

 このとき、私は涙ぐんでいたようで、主人はやっぱり痛いんだな、と思ったそう。(そら、痛いわ!!!)


 かくして、三回目となる出産が始まろうとしていました。








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