第152話 ジャイ子の出産4

 私が出産後、分娩台の上で安静にしている間、母は廊下にいました。陣痛室と分娩室がつながっていることを知らなかった母は、私がまだ陣痛室にいると思っていた模様。

 赤児の泣き声が聞こえても、それが自分の孫だとは思わなかったようです。

 分娩室から出てきた先生が母に「おめでとうございます」と声をかけてくださっても、母は誰かと間違っているのだと思い、先生のことを無視しました。

 そしてその後、出てきた助産師さんに「産まれましたよ。おめでとうございます」と再び言われ。

「いえいえ、私の娘、まだこの中にいます」

 と陣痛室を指差しました。

 そこで初めて、もう出産が終わったことを知らされたのです。


 産まれたばかりのジャイ子とともにベッドごと陣痛室に戻された私の元へ、母がやってきました。

 私の懐で眠るジャイ子を見下ろして一言。


「☆☆と顔、違うな」


 やっぱり。


「うん、☆☆より可愛くないねん」(ゴメン、ジャイ子!)

「お疲れさん」


 労いの言葉をかけてくれた母が帰って、私はその後半日ベッドの上で絶対安静で過ごしました。

 出血が多かったからです。点滴をし、トイレは行かずに、導尿。初めての経験でした。

 いつつ、と時折襲ってくる子宮の収縮の痛みに耐えました。

 ここでアドバイスを。

 生理痛のときに行うと良い手のツボのマッサージがあります。

 小指側の手首から肘に向かってのライン。

 そのラインを痛みがくるたびにベッドの手すりにこするように押し付けておりましたが。

 これは効きます。試してみてくださいね。


 何回も助産師さんが私の子宮の収縮具合を見に来ます。そして、ぐいぐいお腹を押さえ、子宮をマッサージ。これは痛い。

 押すたびに、プリン、メリメリ、といった感じで血の塊が脚の間に産み出されます。

 一度はブリン、と豆腐一丁ほどの塊が出て、二人でうわあ、と声を。うーん、かなりの出血量。


 点滴の管がわずらわしかったですが、半日ベッドの上で安静にしたこの産後はですね。

 立ち上がって動き出したとき、骨盤の固まり具合が違いました。

 長男の時は割と早く歩かされましたけど。その時は骨盤がなんだかフワフワと定まらない感じで、ヘンな感じがしたのですが、今回は普通に歩けました。

 だから、産後、半日は絶対安静でじっとしている方が骨盤には良いんじゃないかしら。


 そして、大部屋に移った私ですが。

 なんともモヤモヤした思いで、ベッドにうつ伏せになりました。(産後、うつ伏せになれる瞬間はいつも嬉しいものです)


 この。

 どうしてくれましょうか。

 不完全燃焼感。


 い、いきみたかった……。


 産後の醍醐味は、産み終えた、という清々しい爽快感であります。

 それが、今回は全くない。

 いきみのがしというひたすら耐える苦行だけで終わった出産。

 不本意。不完全燃焼感、たっぷり。


 いきみたかったなあ……。


 悔しいので、出産の知らせとともに不完全燃焼を伝えるメールをそこらじゅうに送りました。


 超安産であることは間違いないでしょう。

 ジャイ子もピンク色で産まれたということは、苦痛も少なく酸素十分であったということです。


 それでもねえ。


 今度もし、産む時は絶対にいきんでやろう、と心に決めた私でした。

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