第141話 土竜
私が保育園児のとき、保育園からもらった本にモグラの捕まえ方が載っていました。(田舎に住んでいる子以外はなかなか実践出来ないと思う)
私は早速、祖母に頼んで罠をしかけました。
畑のモグラの穴の近くを掘り、中に落ち込むように餌を入れた缶詰を置きます。三つぐらい罠をしかけましたが、翌朝、そのうちの一つにモグラがかかっていました。
土を入れたバケツに放り込みましたら、驚くほどの速さで土を掘り、あっという間に潜りこんでいきました。
モグラの容貌を説明します。
当時の表現で言いますと、モグラの目というのはキテレツ大百科の勉三さんのように本当にショボショボしてます。可愛い!
土をかく手の爪は長く、迫力です。
最初、全身は土に塗れていて綺麗だとは思いませんでした。
私はモグラの為にミミズを探しました。畑の土をひっくり返し、手当たり次第採集しましたが、10匹ぐらいしか取れませんでした。
とったミミズをバケツに放り込みますと、モグラはミミズが起こす振動を直ちに察知します。みるみるうちに土が盛り上がったかと思うと顔を出してミミズを捕まえ、再び土に潜り込んで行きます。まさに秒殺。
姉とともに見物していた私は歓声をあげました。
興奮しました。
モグラを飼ってる子なんて、他に居らへん。ウチだけちゃう?! と。
しかし、翌朝、モグラは死んでいました。
おそらく餓死だと思われます。
後で調べると、モグラは大食漢であり、一日に100匹以上のミミズを食べるそうです。
バケツの中の土の表面に静かに横たわっていました。
不謹慎ですが、私はその姿を見て感動しました。
とても美しかったからです。
土が乾いてとれたモグラの全身の毛並みは滑らかでツヤがあり、まるで高級なビロードのよう。
モグラは非常に美しい毛並みをしているのです。
何十年か後、ついこの間、私はこのことをお客さんにお話したことがありますが。
「そんなに綺麗なら、加工してなにかに使えるのじゃないかしら。雑貨とか小さいバッグとか」
おお、と思いました。そんなことは考えつかなかったぜ!
(この方は全てにおいて何か出来るんじゃないかと考える前衛的な思考の持ち主です。見習わなきゃ)
あのモグラさんには非常に申し訳ないことをしてしまったという苦い思いと、美しいモグラさんの姿態が今でも頭に思い浮かぶ、強烈な子供時代の出来事でありました。
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