第138話 海猿にあった日

 海で起こった事件は、当然ながら海上保安庁が担当します。


 フェリーに乗っていた時、詳細は伏せますがやはり事件がいくつか起こりました。

 その度に海上保安官の方がフェリーに乗り込まれたものでした。


 ある日、事件後に海上保安官の方が何人か乗船してきたところに、休憩時間中の私は出くわしました。

 その中のお一人が。


 ものすんごくカッコよかったのです。


 あまりのカッコよさに私はその場で見とれて直立してしまったほど。


 制服効果も多少あったかもしれませんが。


 背も高くてスタイルも良く、顔立ちはテレビ画面から抜け出してきたような。本当に頭の先から足先まで、俳優さんにも引けの取らない素晴らしい容貌で。


 私はほえーと、通り過ぎるその一団を見つめていました。


 それからすぐに、A先輩が乗船してこられまして。

 私は早速、報告しました。


『すっごくカッコ良かったんですよ! 俳優さんみたいに。感動しました』

『ウンウン。……で、番号聞いた?』


 え?


『い、いいえ』

『なんで、聞かなかった?……もう、お馬鹿っ!』


 説教されました。


『んもうっ、そういう機会は逃しちゃダメ! バカッ!』


 先輩の言葉を聞きながら、ああ、そうか、そんな事には頭が回らなかったなー、と私はぼんやりと考えました。

 その時の彼氏(今の主人)とは付き合い始めて三年ぐらい経ってましたけれども。

 そのせいか、そんなことは思いもつきませんでしたわ!


 考えてみれば、海猿(海上保安官)の方とお知り合いになる機会なんて、そうそう無いのです!


 今になって思いますと、やっぱりA先輩ってすごいなあ。

 ああ、私は貴重な機会を逃してしまったのかなあ、とちらりと考えます。

 でも、あの頃の私は超清純派で初心な乙女だったのでA先輩の言うような事はやっぱり出来なかったろうなあ。(今なら多分出来る……かも)



 というわけでみなさん。

 海猿に会った時には。

 後悔しないように番号、アドレスを絶対に聞き逃してはダメですよ。

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