第107話 長男の出産
順調に臨月まで迎えた長男の妊娠。
予定日直前の健診では子宮口が5cm開いていましたが、まだ赤ちゃんが下がってきていないといわれました。
ここでひとつ。
出産予定日が近づいた妊婦さんに、先生は健診の内診時に
「ちょっと子宮口刺激しときますね」
とぐりぐりと指で刺激してくださいます。
これが涙目になるほど、痛い!
痛い、痛い、めちゃくちゃ痛いです先生!
毎回、うひーんと唇を噛んで耐えております。出産にくらべればたいしたことはないんですけどね。
でも痛い。
さて。実は出産予定日の次の日に専門学校の試験がありまして。
できればそれが済んでから出産になるといいなあ、なんて私は思っておりました。
加えて、出産後の一か月後が怒涛の試験シーズンでして。(しかも学生生活3年間の中で一番大変だと言われる時期。留年する人はこの時にする、ということで有名でした)
私、一番大変そうなときに出産するなんて、なんて間が悪いんだろう、と不安でした。出産より留年することを恐れていました。(でも、試験の結果はよく、進級できました。よかった、よかった)
そして、ちょうど主人が下船しておりまして一緒に迎えた出産予定日当日。
『明日の試験が終わったら、マンションの階段100回上り下りして出してしまうわ』なんて主人と話しながら、ニラと豚肉と豆腐のスダチ鍋(エスニック料理。次の日も私、かなりニラ臭かったと思います)をつつき。
※ クラスメイトの助産師さんから『階段100回上り下りすれば、絶対に陣痛がくる』というアドバイスをもらったのです。
明日は普通に学校に行って試験を済ませられるものだとばかり信じて、私は眠りにつきました。
――夜中、便意を感じて目が覚めました。
時計を見ると3時過ぎ。草木も眠る丑三つ時。
夜中にトイレ行きたくなるなんて珍しいな、と思いながらよっこいしょ、と重いおなかで起き上がり、トイレに行きました。
下着をおろしたときに、ドキ、としました。
血の混じった大量のオリモノがべっとりとついています。
こ、これが、おしるしというヤツやな。
トイレを済ませながら、あーあ、とため息をつく私。
もう一日待ってほしかったんやけどなあ。まあ、これだけはどうにもならんわな。
でも、おしるしが来たからといってすぐ陣痛になるわけでもないらしいし。まだ|もつ(・・)かも。
トイレから出て、再び布団に戻り、隣の主人に『おしるしが来たわ』と言ってみました。
『うーん……』
もちろん、起きないです。
それからしばらく横になって再び軽い眠りに落ちましたが。
あれ? な、なんか……おかしい? ヘンな感じ?
下腹部に締め付けられるような鈍痛を感じて目が覚めました。
こ、これは。
久しぶりに懐かしいこの感覚は。
……ああ! 思い出した! 生理痛や!
人間というのは、たった10か月あまりご無沙汰だっただけで、すっかり感覚を忘れてしまうのです。
あちゃー、陣痛か。ホンマに来てもうたわ。
すっかり目が覚めて、起き上がった私。
『なあなあ、陣痛来てもうてんけど』
隣の主人をゆすり、再び言ってみます。
『うーん……』
聞こえてはいるんやろうけどな。起きへんな。
台所に行って、とりあえずお茶を飲もうとお茶を入れる私。
初産は陣痛が始まってから約10~12時間くらいかかるというし。まだまだやな。
腹ごしらえしておくか。先は長いな。よっしゃ、頑張るで!
一口、この時のために用意していた蒸しパン(黒糖フー〇レエ)を頬張りました。
このなんとも美味しいボリュームたっぷりの三角蒸しパン。カロリー高いです。
妊娠中はカロリーを気にして食べたいのを我慢しておりました。陣痛が始まればもう解禁してもいいでしょう!
陣痛を乗り切るときに思いっきり食べてやるぜ! なんてシミュレーションしていたのです。
主人以外の誰かに陣痛が来たことを伝えたくて、実家の母にメールしてみました。
すぐ返事がきました。
「頑張りや!」
起こしてしまったようです。
起こしてしまったな、悪いな。
なんて思いながら。せやせや。陣痛の間隔の時間、測らなあかんかったな。
と、時計を見て時間をメモし、ぼーっとお茶を飲んでおりましたが。
あ、またきた。15分か。経産婦さんはここで病院に連絡するんやったな。ウチは初産やから、10分感覚になるまで待つんやったな。
……あ、また来たわ。……12分?
い、意外に縮まるの早いな。こ、こんなもん? びっくりやわ。もっと、15分間隔が続いてじわじわ縮まってくんのかと想像しててんけど。まあ、これからが長いんやろな。
……あ、来た。
……10分?
もう?
起床して陣痛に気づいて測り始めて40分あまりでもう、10分間隔になりました。
あわてて、病院に電話する私。
IDや名前、週数、陣痛に気づいた時間、今の間隔を告げましたら。
「初産ですよね? ついさっき、陣痛に気づかれたんですよね? ……朝になってから来てください」
と、助産師さんからの返事。
あれ? もう来てくださいやと、思っててんけど。こ、これからが長いんかな?
はい、わかりました。と答えて、またお茶を飲みました。
また陣痛が来ました。さっきより強く。10分より短めに。
私は本能的に疑いを持ち始めました。
もしかして、ウチはめちゃくちゃスピード出産の体質やないんやろか? 母もめちゃめちゃスピード出産やったっていうてたし。
不安になり、母に電話をかけてしまいました。母は起きていたようですぐに電話に出てくれました。
助産師さんに朝になってから来てください、て言われてんけど。ウチの場合、早いんちゃうやろか? だんだん陣痛の間隔、縮まってるし。助産師さんは初産やからもっと時間かかる、って思ってはるみたい。
でも、朝まで待ってて、家で産まれたらかなんし。羊水漏れてるかも、て嘘ついてみようか。
『もう一回電話かけてみい。病院に行って、間違いやったらまた、家に帰されるだけやで』
母の返事にそうやな、と電話を切り、再び病院にかけました。
『十分間隔になりました』
『うーん……』
助産師さんはまだ疑っているようです。
『あの、もしかしたら少し、ちょろちょろ羊水漏れてるような感じがするんです』
私、とうとう嘘(・)! ついちゃいました!
『そうですか。じゃあ、ナプキンあてて来てください』
お許しの言葉が出ました!
よし!
私は寝室の主人を叩き起こしに行きました。
『なあ、陣痛きてんけど。今から病院、行くで!』
一番深い眠りに入っていた主人。ねぼけまなこで
『マジで?』
『さっきから、言うてんのに!』
『全然、覚えてない……』
そして、ふらふらする主人を急き立てて、準備していた入院セットを抱え、私たちは家を出たのです。
このとき、陣痛間隔は8分ぐらいでした。痛みはイテテテ、という感じに強くなっていました。
つづく
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