第100話 カツオにこだわる男

 引き続き、田植えの時の話ですが。

 「目には青葉 山ほととぎす 初鰹」の季節であります。


 母がカツオの節を買ってきました。


 普通に刺身にする? と母と話しながら私は思い出しました。


 主人はカツオのタタキが大好物である、と。

 

この時期にいつも下船している主人。

横浜に住んでいた時、自らカツオの節を買ってきては塩タタキにして私と息子に何回もご馳走してくれたことを思い出し。


 いま、主人と私の父は田植えで外に出ていますから、じゃあ家にいる私が塩タタキを作るか、と。

 さっそく取り掛かろうとしてふと考えました。


 主人はカツオ命! の男です。ヘタなことをしたら、ぐちぐち文句を言われそう。


 普通に、塩をざっとすりこんで表面焼けばいいだけやと思うけど。

 ……ちょ、ちょっと、クックパッドで一応調べてみるか。


 塩タタキ、で調べてみますと。

 なんと、塩はすりこまずに普通に焼き、食べるときに塩をつけるメニューしか出てきませんでした。


 あれ? 塩味はたしかすでについてたと思うけどな。

 ど、どうしよう。塩加減。心配やな。


 ……迷いました。


 塩をすりこんで焼いたのを提供したとして。

 主人に塩加減がどーのこーのと愚痴をいわれるか。


 もしくは普通のタタキを出して、向こうに自分好みに塩をつけさせて食べさせるか。


 数秒間考えた結果、後者の方がマシな結果になりそうに思えました。


 よし。

 私は普通に焼き色をつけ、スライスした玉ねぎの上に切ったカツオを盛り付けました――



 ――さて、その夜のご飯時です。

 カツオを盛った皿の横に、塩が入った小皿があるのを見た瞬間、主人が放った一言。


 ――なに? 塩すりこんで焼かなかったの?


 ……まずったか?

 私はすぐさま後悔しました。


 ――自分の好きなように塩つけて食べて。


 はあ、とため息をつき、箸に手を付ける主人。


 ――どうして、塩つけて焼かなかったの。

 ――……一応、クックパッドで調べてんけどさあ、食べるときに塩つけるメニューしか出てこんくて……塩加減自信なかったから、食べるときに好みで塩つけてもらうほうがええんやないかと思って。


 はあ、と二回目のため息。


 ――んなもん、ざーっと塩ふりかけて、すりつけて、バーっと焼きゃいいのに。

 ――……せやな、ウチもそう思ってんけどな、まあ今度はそうするわ。


 何切れか口に入れる主人。


 ――せっかくのいいカツオをもったいない。せっかく塩もいいの(藻塩)あるのに。

 ――……せやな、ごめん、失敗したな。


 玉ねぎを口に含んだ直後。


 ――え? しかもこれ、新玉(しんたま)じゃないの?


 ……一気に機嫌が悪くなりました。


 やっぱり、そこもきたか! 来ると思ってたけど。

 だって、家に新玉無かったんやもの。


 ――うん、新玉、切れててん。

 ――せっかくのこの時期だよ? 新玉使わなくて何がタタキなの? なんで、普通の玉ねぎ使っちゃってるの?


 はあ、と大きくため息。


 ……う・る・せ・え・な・あ。


 心で思いながら一応謝る私。


 ――せやな、新玉使わなな。悪かったわ。


 もぐもぐ、としばらく無言で食べ続ける主人。それを見守る私。

 わざとらしく、何回目かのため息を主人はつきました。


 ――……なんか、やっぱり味尖ってるでしょ。口に入れた瞬間、塩味がキツ過ぎるよね。自分でもそう思うでしょ、ねえ?


 うがあああああああ!!!


 だから、悪かったっていうてるやないか!

 しつこいなあ!


 ――……うん、次は気ィつけるわ。

 ――本当に、もったいないことしたよね。せっかくのいいカツオを。


 はあ、とため息をつき、主人はビールをあおりました。――





 ……お・ま・え・は・キャン・デ・ロ・ロ・さんかよ!……(ほとんどの方には分からないツッコミです、すみません)



※キャンデロロ……私の他作品に出てくる元漁師、カツオ命! の修道士。




 ……イラッとくるでしょう? 皆さん? イラッときますよねえ? 




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