第94話 記念日とプレゼント

 今、書いている小説のテーマに記念日が関係しておりまして、自分と主人の記念日についてふと考えました私です。


 記念日。

 ……ない、かも。


 いや、あったかもしれないのですが。

 それを祝う機会がなかったので。


 主人と私は今まで、お互いの誕生日、子供の誕生日を共に過ごした経験がほとんどありません。(一度だけ、長男の誕生日を共に祝った経験がある)

 まあその時にいつも主人が船に乗っているということです。


 結婚する前、お互い船に乗っていたときは、会えるのが年にニ、三回でした。

 会えるのはまったくもって、なんの変哲もない普通の日でありました。

 世の恋人たちは、クリスマス・イヴとか、バレンタインとか、ホワイトデーとか。

 そういうイベントがあって、そのときに盛り上がるのだろうと思いますが。

 私たちは、そういうときにはだいたい船に乗っておりましたもので。

 下船して会った時に、『じゃあ、今日がクリスマスのつもりで』や、『この前誕生日だったから、今日が誕生日だと思い込んで』みたいな|つもり(・・・)劇場を繰り返しておりましたけども。

 ……うん、イマイチ盛り上がりませんよね。私の想像力を持ってしても、節分まっしぐらの中で、クリスマスの雰囲気なんて出せるわけがない。

 お互い物欲もないもので、プレゼント代わりにちょっといい店にいってその食事代を全部出す、というのが常でした。(こういうのも盛り上がりにかける理由。ちなみに通常時の食事代はいつも折半でした。ホテル代も折半)


 こんな私たちも唯一。

付き合った最初の一年目か二年目そこらには、まともなプレゼント交換をしました。(学生で、まだ船の縛りがなかった)

 クリスマスプレゼントだったと思いますが。(この時もクリスマス当日ではなく後日だった気がします)

 お互いに何が欲しいかと希望を聞いた上でプレゼントをしました。


 私は、主人にSTUSSYのアウターを。

(ブランドをよく知らなかった私ですが、とりあえずメンズブランドといえばソレを買っとけば間違いないだろうと思った当時の私)

 シンプルな黒にジップ部分が赤の、裏起毛のジャケットです。

 ちなみに主人はいまだに冬になるとソレをいつも着ています。暖かくて重宝するとか。

 もう十年以上経っているんですけど。

 いやあ私、いい買い物しましたよね。元、取れましたよねえ?

 最近のSTUSSYは本当に若者向けになっちゃって、主人が探してもその頃のようなベーシックなデザインの物がないとか。うん、私、いい買い物しました。


 さて、主人に何が欲しいかと聞かれた私は、かなり考えました。

 化粧品とか(ほとんどしない)服も要らないし。アクセサリーを買ってもらったとしてもまあ絶対に着けないし。(失くす可能性大)

 ……せや、下着は? 好みの下着を向こうが買ってくれればいいんじゃないの?

 いや、AAカップなんてまあ店頭に置いてないだろうし、そういう店に入らせるのも酷やな。


 というわけで考えた末に私は『本』と答えました。『詩の本』と。


 実は実家に私の母が、若い時に想いを寄せられた男性にプレゼントされたという詩の本がありまして。

 みつはしちかこさんの『花のふるさと』という詩集。

 詩も絵も、とても可愛い本です。


 こんな本選ぶなんて素敵な感性を持った男性やなあ! と母から話を聞いた私は憧れましたが、母は、その方をスタイルと顔が好みじゃないからとあっさりとお断りしたそう。(でも本はかなり気に入ってずっと持っていたというわけです)

 そういう母の話を覚えていた私は、主人がどんな感性をみせてくれるのかと期待したわけですね。

(こういうのは相手を試しているようで、なんだかイヤラシイと今になって思います)


 さて、主人がプレゼントとしてくれたのは。二冊の詩集でした。


 一冊は金子みすずさんの

『わたしと小鳥と鈴と』


 うん、素敵です。気に入りました。

(ちょうどその時に流行っていました)


 もう一冊は。


『わたしがあなたを選びました』


 ……読み終わったとき、私は混乱しました。


 有名な本ですが、ご存知ない方もいらっしゃると思うので説明をさせていただきます。

 作者の先生は、有名な産婦人科の先生です。


 内容は。


 おなかの中のあかちゃんが、お父さんとお母さんに逢える日(出産の日)を楽しみにして、両親に語りかけるという話。ーー


 こ、混乱しました。


 こ、これは……。もしや……。

 ウ、ウチに自分の子を産め、と言うてるんやろか……?


 遠回しに?

 いや、これはダイレクトに?


 まさかのプロポーズですか?!


 ーードキドキしながら、携帯にて本の内容につき、主人に感想を述べたところ。


『え? そんな内容だったの?』


 との一言。


 ……知らんかったんかい!


 どうやら、本のタイトルを見て直感だけで選んだようです。(このやろう、ちゃんと中身を読んでから選べ!)




 ーーそのときのことを最近、主人に話すと


『まあ、でも結果オーライだろ』


 との返事が返ってきました。


 ……うーん、まあ結果オーライ? かなあ?




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