第56話 モテキ

 この間、息子を保育所に迎えに行ったとき、車の中で息子が突然ため息をついて言いました。


 ――はあ……みんな、☆☆(息子の名前)のこと大好きやから、困るわ。


 びっくりしました。

 なんや、その、俺様モテ男発言は!


 ――な、なんで?


 ――みんな、俺のこと取り合いで喧嘩すんねん、参るわ。


 詳細を聞くと、こうです。

 夕方遅い時間になり、早くお迎えが来る子たちが帰ると、年齢別に分かれた部屋にいた園児たちは集まって、一つの部屋へと移動します。

 そのときに年長児は、年中さんや年少さんの手をつないでその部屋へと連れて行ってあげるのが決まりになっているのですが。

 息子の手をつなぎたい年中、年少さんがたくさんいて、毎日取り合いだとのこと。

 片手に二人ずつ、服の裾を持つ子が二人と、計六人をひきずって部屋へと移動したとか。


 たしかに朝、登園の際に下の子たちの部屋を通り過ぎるたびに☆☆くーん! と声をかけてニコニコ手をふってくれる子が多いなあ、とは思っておりましたし。マラソン大会の時など、違う年齢の子が大きな声を上げて息子のことを応援してくれるなあ、とも思っておりましたが。(9割、同性の男の子ですが)


 アカン!


 私はショックを受けました。


 どうでもいい幼児期に、貴重なモテキを使い果たしてしまってどうすんねん!


 私にも、身に覚えがあるのです。

 ええ、私の唯一のモテキは息子と同様、保育園時代。

 息子と同様の体験をしました。

 みんな、私と遊びたがり、私を取り合って喧嘩して泣くこと日常茶飯事! (100パーセント、同性の女の子からですが)


 今になって冷静に分析しますと、ただ単に、保育園児だった私は意志を強調することのない(やさしい)扱いやすい(居心地のいい)子供だったから、というのが理由だと思いますが。

 それでも、モテキはモテキ! 今までの人生であの時代ほど、モテたことはございません。


 人生でモテキは三回はあると申しますね。

 いえ、三回もあるわけないじゃないですか。せいぜい、一回きりですよ。

(主人にいたっては、今まで一度もないとか……死ぬまでに来るのか?)


 その貴重なモテキをですよ。

 このどうでもいい幼児期に使い果たしてしまうなんて。

 一番美味しい思いが味わえる、青年期に来たってくれ! 息子のモテキよ!


 と、神様に願う私なのでありました。


(私も青春時代に来てほしかったなあ。……でも、本当にモテキはみんなにあるのですかね? どうですか、みなさん?)

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