第47話 坂の上の雲

年末といえば。

 みなさんは、なにを思い浮かべます?


 赤穂浪士四十七士?


 そうですね。日本人ならね。

 以前、泉岳寺に行こうと思えばすぐに行けるところに住んでおりましたのに、一度も行かないまま引っ越ししてしまいました。

 残念です。日本人なら、一度は行ってみるべきでしたね。


 わたしは、年末と言えば数年前に放送していたNHK特別企画ドラマ「坂の上の雲」を思い出します。


 司馬遼太郎作「坂の上の雲」。

 今回は、それをご存じない方には分からないかもしれないお話をします。



 数年前、三年をかけて年末限定で放送された三部作、坂の上の雲。


 わたしたち家族はそれにどハマりしておりました。

 日曜日、七時半までにすべての家事を終わらせ、後は寝るだけにしてテレビの前で待ちます。

 三歳の息子を膝に乗せ、共にワクワクしながら始まるのを待ちます。


 息子も気に入っておりました。

 戦艦が出てくるのが、良かったのですかね。

 私は、藤本隆宏さん演じる、広瀬武夫さんがお気に入り。

 あまりにファンになりすぎて、二人目の子が男の子なら絶対に「タケちゃん」と名付けてやるぜ! と決めておりました。(残念ながら、女の子だったので叶わず)


 夢中で画面に見入り、エンディング曲をいっしょに歌い、その話の名場面を息子と共に後日何度も再現するとのハマりっぷり。リアルでも坂の上の雲ワールドを存分に楽しんでおりました。


 例をふたつ上げますと、こんな感じです。


 まずは、「坂の上の雲」一番の名場面、203高地の場面ですね。


 ーーーーーーー



 多大なる犠牲を払った末、ついに203高地を奪取した兵が、指揮官と叫びあうシーン。



 ――そこからあーっ、旅順港は、みえるかああーーーーっ?! (私)


 ――みえまあすっ! ……丸見えでありまあすっ!! (息子)


 ーーーーーーー


 もう、これはね。

 やるたびに旅順港の光景が思い浮かんでなんともいえない感動がこみあげてきて、胸がいっぱいになりました。


 息子も私も、このセリフの大きさといい、抑揚といい、間といい完璧なんです。


 正月に家に集まった、親戚のおっちゃんたちの前で二人でやるとね、これが、大ウケ。

 やはり、おっちゃんたちは坂の上の雲をしっかりと観ていましたからね。




 もうひとつは、秋山少尉(本木雅弘さん)と脊椎カリエスで苦しむ正岡子規の妹、律(菅野美穂さん)の二人のシーン。

 二人は、友人以上恋人未満の関係ですよ。

 秋山さんにとっては、律さんは親友の妹でもあるわけで。



 ーーーーーーー


 歩いていた律さんが立ち止まり、秋山さんを見上げます。


 ――あにやん(正岡子規)が……どんなにくるしゅうても……生きようとするんじゃあ……(私)


 ――……(眉毛を八の字にして、なんともいえない表情で私を見る息子)


 一瞬の間を置いて、見つめあった後。


 ガバっ!

 抱き合います。


 ーーーーーーーー


 これはね、息子の表情が完璧。

 この子、役者の才能あるんじゃないのか、と思うぐらいです。

 抱き合う激しさも本物の二人に負けていません。


 保育所の連絡ノートに

『昨日は坂の上の雲ごっこをしました』

 などと書いたものですから、どうするんですか? と疑問に思われた先生の前でこれを披露しました。


 ウケました。

 先生からは

『渋すぎるでしょう』

 と、笑いながら言われましたが。



 こんな感じで、「坂の上の雲」ごっこをして息子と二人で楽しんでいたわけですが。


 ああ、楽しかったですねええーー。

 あんなに親子共々どっぷりとハマるドラマなんてもうないのではないのでしょうか?


 もう一度、あの時の感動を味わいたいなあ、と思って。


 この前、旅順港のセリフをいきなり不意打ちで息子に投げかけてみたんですが。


 ちゃんと息子は返してきました。


 ちょっと感動して、かなり嬉しかったですね。


「坂の上の雲」のようにハマれるドラマが今後も現われてほしいものです。






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